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夜のアリカと銀の星  作者: k...
第二章 星降る夜の再会 前編
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29.疑わしきは

「えっ!?勇者って…あの勇者ですか!?」


「馬鹿っ…!ルドイン声がでかい!…あいつの事は…余り気にするな。間違っても勇者とか呼ぶなよ。放っておけばどうという事もないが…機嫌を損ねたらどうなるか…」


「異世界の勇者…」


「…確か以前、この国でも召喚があったと聞くが…俺も実際に見るのは初めてだ」


「まぁ…だからと言って別に傅いている訳じゃないが…どうにもな。そう言う訳で俺は今、魔王討伐に行くあいつの供をしてるんだ」


奇しくも同じ時、同じ話題に花を咲かせる男達の反応は三者三様。

例に漏れない声を上げ、叱咤を受けるルドインと、これに学んでか。小さく呟きを落とし、顔を歪めるダーカス。そしてガジェルは記憶を振り返り、揺れる虹色のプレートに目を止め疑問を呈した。


「…それにしては随分と隔たりがあるようにも見えるが…」


「ん…あぁ、あの二人はつい先日冒険者登録をしたばかりだからな。けど、夜神は異世界人と言われて納得出来るだけの力を持っているし、シャラに関しては見た通り。寧ろこれに関してはお前達の方が…」


「レインさん、どうしました?」


「いや、すまない。…差し支えなければ今回の依頼を受けた経緯を聞かせてもらってもいいか?」


「それは構いませんけど…」


「何か気になる事でもあるのか?」


「…そう言う訳じゃないんだけど…なんとなくな」


言葉程ではない。あの殺戮を見た後では驚きもしない答えと。言いながら、予感よりも確かなものに促され。

やり過ごしたとほくそ笑んだのも束の間。不穏な空気に先程から口を閉じる男は気配を殺し。二人は求められるままに語り始めた。


「言ってもそんな大した話じゃないですよ」


「あぁ、いつものように依頼票を眺めてたら一緒に依頼を受けないかって声を掛けられて…」


「詳しい話を聞かせてもらったんです」


『内容は伯爵令嬢の護衛。条件はCランクの冒険者が四人以上と…まぁ見ての通り俺は一人者だからどうしようかって思っていたんだが…ほら、報酬を見てみろ。これを逃すのは少しばかり惜しいと思わないか?』


「確かに報酬は魅力的なものだったが…条件を聞き、先の言い訳ではないが…分不相応だと言って一度は断った…」


『依頼主には俺から話しをするから心配するな。道程はそう距離がある訳じゃないし、ここら辺は魔物や盗賊も滅多に現れない』


「けど、そう言われて…今思えば最後は押し切られるような感じでした」


そして一方、馬車の中。


「私も…フェルメースにはよく訪れますが、このような事は初めてです。それもあって…大丈夫だと言う彼の言葉に頷き、護衛をお願いしたのだけれど…」


「その…なんて言うかすいません…危険な目遭わせてしまって…」


「セシルが謝る事ではありません。こればかりはどうしようもない事。不運だったと思うしかないでしょう。…幸いにも皆様のお陰で怪我人は無く、荷も無事でしたから」


行き着くところが同じなら、先を促すのもまた同じ。そして話を紡ぐように。サリュアの言葉を最後に経緯と語る。

期せずして全員が耳にする事となった内容は側から見れば一目瞭然嵌められた。そう考えるのが自然と言える状況で、しかし証拠は何もなく。

憶測の域を出ない事柄に口を挟むべきではないと、これを内心に押し留める。

計らずも、あの男を除く三人の見解は警戒を強めることで一致したのだった。


それから暫くして。


ぱたん…


「…腹が減ったな」


「…ではここで一度馬車を止め、休憩になさいますか。…後ろを歩く方々もそろそろ疲れが見え始める頃でしょう」


徐に本を閉じ、呟くように一言。これを聞き、昼食の提案をするラインフィルに頷くと、一行が足を止める。

馬車から降りて伸びをする者や、岩に腰を下ろす者など、一時とは言え十人の大所帯ともなれば、これを統率する人間も必要になるだろう。その先駆けとして。


「皆んな、一先ずここで休憩だ。出発は昼食の後。目的地まではそう遠くないが…あんな事があったばかりだ。サリュア嬢は特にゆっくり休んでくれ」


声を響かせ場を攫い、衆目を集め先を待つ。まるで何処ぞの主人公。その言葉を掻き消すように…。

一瞬の静寂を裂き、冷ややかな声が響き渡る。


「…レインと、そこのEランク三人組は薪を拾いに行ってくれ。女どもと執事は昼飯の調理。最後に…そこのお前は俺と水汲みだ」


前座と言うには容赦なく。一瞬の困惑を経て染み渡る。

それは一声にして是非も無く。役を得た者達が静かに動き始めると、夜神はただ一人、この場に残った男を伴い歩き出した。


そして、ここは街道から程近い川のほとりにて。


ざっ…ざっ…ざっ…


ちゃぽん………


「……………」


「……………」


「…こんなもんでいいだろう。戻るぞ」


「あ…あぁ…」


ざっ…ざっ…ざっ…


己が役割を果たす為、桶に水を汲み。男を窺い思案する。

探りを入れるべきか。或いは沈黙を貫くべきか。

小鳥の囀りが響くのどかな雰囲気。けれどダーカスにとっては異様な静けさとも言える中。言葉は喉に絡み付き、間も無く男の声に我を取り戻す。しかして。僅か数秒の葛藤は瞬く間に過ぎ去り、用も済んだと立ち上がる。

その背を見つめ。嫌な予感も杞憂だったと帰路を歩む道すがら。街道まで僅かに距離のある林の中で、男は唐突に口を開いた。


「…それで、お前は先刻あいつらを襲撃した盗賊の仲間か?」


「…っ!?」


「俺の世界には、疑わしきは罰せずと言う言葉がある。同様に、まだ起こってもいない事柄に対して、これを取り締まる法もない」


「…そ…それはそう…だよな。…い…いや俺は……俺が盗賊の仲間なんて事は全然な…ありません…けど…?あ…あはは…」


背を向けたまま、冷淡な声で告げられる死の宣告に肩を跳ねさせ。喉元に掛かる動揺をひた隠し、言葉を探る。その余りにも過ぎた浅慮の末、まだ殺す気は無いと高を括り。危機は去ったと口を開いて思い知る。

突き付けられた殺意に警鐘を鳴らし。未だ気配も変わらぬ姿が揺れると、本能に押され取り繕う。

息苦しくも渇いた笑みを零し、間も無く全てが無為と知る。ダーカスは一人ごつように振り返る男の姿を見据え、戦慄に身を強張らせた。


ざっ…


「…不自由だとは思わないか?傷付けられてからでは遅い。失ってからでは遅いものなんか幾らでもあると言うのに。…その点こっちの世界は楽でいい。力があればそんな我儘も押し通す事ができる。…お前が盗賊の仲間だろうと、そうでなかろうと…別にどうでもいいんだ」


じり…


「ちょ…ちょっと待ってくれ…」


「今は少し…傷付けられたら困るものがある。大切に扱うと約束したからな」


そして、至る己が短慮の愚かしさ。

仲間と騙り、機を窺うまでもなく。思考よりも早く駆け出すべきだった。そんな後悔さえも浮かばぬ程に。悪鬼羅刹の如く、戦場を蹂躙する女が敬称を付けて呼ぶ男の異様たるや。

気圧され、声を発するのがやっとの状況で。尚も諦めきれない生への執着がダーカスを突き動かす。


「ひいっ…!」


だっだっだっだっだっだ…!


「…はぁ…まったく面倒な…」

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