28.同道の始まり
がたがらがたがら…
「改めて…この度は本当にありがとうございました」
「…別に俺は何もしていない。礼ならあいつらにしてやるといい」
「いえ、これも彼女を向かわせてくれた貴方様のお陰ですから。…それにしてもFランク冒険者とは…その擬態、何か特別な理由でも?」
「…貴族の執事にしては随分と不躾だな…詮索は余り好みじゃない。これ以上続けるなら降りてもらうぞ」
「失礼しました」
御者をする老輩の横で、あからさまに不機嫌を醸す男に礼を重ね。次いで繰り出す言葉に増していく辛辣。彼等の同行が決まったのは、今から一時間前の事だった。
ざっ…ざっ…ざっ…
『あんた達、大丈夫か?』
『あ…あぁ』
『…何があったか知らないが、そう警戒しないでくれ。俺はレイン、さっきのあいつは仲間のシャラ。俺達も冒険者だ』
『そうか…すまない。助けてくれて礼を言う。俺はダーカス。こっちは…』
『セシルです!助けてくれてありがとうございます』
『ルドインです。助かりました』
『ガジェルだ、礼を言う』
『それで…そちらは?見るに護衛依頼のようだが…』
『申し遅れました。私はサリュア・メル・サロンド。この度は窮地を救って頂き感謝します。こっちは執事のラインフィルです』
『助けて頂き、感謝致します』
凡そ見当も付く状況に、重なる理解と目的地。名乗りを上げ、話を聞けば。彼等も自身と同じくフェルメースへ向かう途中だったと言う。
しかし、運悪く盗賊に襲われ。馬は無く、荷は散乱し。まだ数時間は掛かる道程を鑑み途方に暮れる。
街道に戻れば魔物の脅威こそ無いとは言え、再び野盗の類いに遭っては全滅を免れないだろう。
『…最低限の荷物を持って俺の仲間と合流しよう。目的地は同じようだし…戦力的にもその方が良い。ただ…同業として言わせてもらう。身に余る依頼は受けない事だ。要人の警護なら最低でもCランク以上数人が妥当な戦力。Eランク三人、Cランク一人で盗賊に襲われたらどうなるか…これで分かっただろ』
ちらと背を振り返り、過ぎる辛辣。連れ立てばきっと、嫌味な顔で吐き捨てられるだろう。それでも、捨て置く事など出来はせず。
耐え難い屈辱と、招かれざる事態を前に、責任の重さを知らしめる。
それらは紛れもないレインの優しさであり、持つ者の見栄と、人間らしい偽善だった。
『ただ今戻りました』
『シャラ、お帰りなさい。首尾はどうですか?』
『問題無いわ。けど、後をレインに任せてきたからこの先がどうなるかは知らない』
『…それで、俺の魔力はどうだった』
『端的に言って…圧倒的と言う他にないです。…ただ、あたしのような核無しならいざ知らず、魔力核を持つ人間に柊様の魔力を譲渡すれば核が保たないと思います』
『…なるほど、なかなか面白い巡り合わせもあるもんだ。付き合わせて悪かったな』
『いえ、とんでもありません。存分に使い潰して下さい』
『夜神様、何の話をしているのですか?』
『あぁ、さっきこいつに俺の魔力をほんの少しだけ渡したんだ。その結果が思いの外面白くてな。お前にも分けてやれたら良かったんだが…どうやらそうそう上手い話も無いらしい』
取り急ぎ、報告を終えたシャラに礼を述べ。そのやり取りを静かに見つめていたレイシアが事の次第を求めて口を衝く。
夜神は自身の力に思わぬ使い道があると上機嫌に答えを返すが…。間も無く一行を引き連れ、この場に戻るレインの姿を視界に捉えると、辟易した様子で溜め息を零し表情を曇らせた。
『…と言う事で、彼等の同行を許可してもらいたい。幸いにも荷は少ないし、道中の御者はラインフィルさんがやってくれる。全員は乗れないから到着は少し遅れるが…』
『『………………』』
『……お前ら、何故俺を見る』
『私は夜神様の意見に従います』
『あたしも柊様の言う事なら』
『納得はし難いが、実質的に決定権があるのはお前だからだ』
『……はぁ…俺は歩くつもりはない。それ以外は勝手にしたらいい』
こうして、レインの提言に三人は元より、連れられてきた一行までが目を向けると、知らず可否を委ねられ。どちらにせよ、得られる物も、失う物もない状況では断る方が面倒とこれを了承する。
馬車の中は詰め込まれた荷物と女が四人。この中に男一人居る事など耐えられる筈もなく。夜神は苦肉の策として御者をする老輩の横へと移ったのだった。
「その…私なんかがここに居てもいいんでしょうか?」
とは言え、こちらも初対面同士。ぎこちなさに気まずさを募らせ、居心地の悪さを感じていたのは唯一の女性冒険者であるセシルだった。
依頼主を守れず、助けてもらった上にこの待遇では無理もない。
「女性は馬車の中に。そう言ったのはレインですし。これについて夜神様が何も言わない以上、冒険者だからと気にする事はないですよ。…今回は災難でしたね」
「それについては私からも…シャラ様、危ない所を助けて頂き、本当にありがとうございます。シーア様も…レイン様から随分と気に掛けて頂いたと…ありがとうございました」
「…別に。感謝ならあたしを向かわせた柊様にして」
「気にしないで下さい」
「ところで…シーア様はその…何処かでお会いした事があったかしら」
「…いえ、今日が初めましてだと思います。…よくある顔だから、誰かと思い違いをしてるのではないですか」
「よくある顔と言うのは流石に…けれどそうですね…私の知る方は貴方のように清廉でも謙虚でもありませんもの。何より…髪の色が違いますね」
口火を切るセシルの言葉に糸口を見つけ、これに乗じて直接の礼を述べるサリュア。続く彼女の言葉は紛れもなく。その関係を王女と貴族の令嬢とするなら面識があっても不思議ではないだろう。しかし、それも今となっては昔の事。名を変え、国を捨てようというレイシアはこれをやり過ごし。場が温まり始めると、話は誰もが思う疑問に行き着く事となる。
「その…柊…夜神さん…と言うのはラインフィルさんの横にいる人の事ですよね?」
「…私も、それは気になっていました。不躾な質問で申し訳ありませんが…お二人はSランク冒険者のレイン様より、あの方に忠しているように見受けられますが…柊夜神様とは一体…何者なのでしょうか」
「…それは……」
「……とある国で召喚された勇者よ。あたし達は魔王の討伐に赴く為、各地から集まった…まぁ仲間、みたいなものね」
「勇者…」
「それって異世界の…」
「けど、不用意に詮索したり、勇者と呼ぶ事はおすすめしないわ。…あの方の機嫌を損ねたくなければ、ね。…それと、あたしの方からも少し聞きたい事があるんだけど…」
声を潜め、問われた疑問。これを一息に説き伏せる。シャラの答えは二の句を許さず。
異様な従属を見て。また、彼女の力を垣間見て押し黙る。張り詰めた空気と、沈黙の兆し。間も無く訪れる静寂を前に、続けて口を開く。
彼女にしてはらしくもない気遣い。これが、後に思わぬ事態を招く事となる。




