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夜のアリカと銀の星  作者: k...
第一章 貴方と共に
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2.謁見

それから数時間後。


「…どうぞ。国王陛下がお待ちです」


がちゃ…ぎぃぃ…


ざわ…ざわざわ…


「…夜神様…陛下の御前です。周りの目もありますので何卒…」


「分かっている」


兵士に促され、扉を抜けた先。居並ぶ臣下の視線など気にもせず、王を見据え歩を進める。

玉座の間にて謁見に臨む夜神は、すぐ後ろに付いて歩くレイシアの言葉に小さく答えると、彼女の不安を他所に、間も無く王の御前で恭しく膝を突き、頭を垂れた。


「…面を上げよ」


「……………」


「我が名はラグダッザ。この国の王である。先ずは…召喚に応じこの地へ来てくれた事、心より感謝する。昨晩は災難だったようだが…その後、身体の方は大事ないか」


「お気遣い、痛み入ります陛下。問題は御座いません」


「そうか。ならばよい。…既に娘から聞き及んでいると思うが…我々人族は長きに渡り、魔族と戦い続けている。今も、各国が異界の勇者を召喚し、一日も早い平和の実現に尽力しているが…なかなかどうして。戦況は膠着状態のまま、数百年という歳月が流れた」


穏やかな空気の中、拝謁を賜る男に口上を述べ。建前を述べ。世界と、民を思う王を演じて醸し出す憂い。

全盛期をとうに過ぎ、けれど老輩と言うにはまだ早く。初老と、そう言うのが相応しい風貌と滲み出る覇気を纏い、語る王の言葉は淡々と。

同時に、見え透いた本題を待つ男は真剣な表情で続く話に耳を傾けた。


「…魔王は元より、魔族それ自体が我々を凌駕する力を持っている事も要因の一つ。ある者は国に留まり防衛を。またある者は道行に巻き込まれ。そして、魔王が座す北方の大地へ辿り着いたとて阻まれる。魔王配下の七人は勇者に匹敵する力を持つと聞く…であれば。他を寄せ付けない圧倒的な力こそ、拮抗した現状を打破し得るだろう」


「……………」


「王命である。…柊夜神。覇天の力を以て人類に勝利を」


「…謹んで拝命致します。必ずや魔王を打ち果たし、世界に平穏を取り戻してみせましょう」


ざわ…ざわざわ…


「あれが本当に…」


「俄には信じられん…」


「姫様は一体何を…」


かくして。互いに予定調和と相なった謁見も終わりを迎えようかと言う間際。勅命を受け、頭を垂れる夜神の姿に玉座の間がざわつき始める。ひそひそと。それはまるで、目を疑う光景を前にしたかのよう。

この場にいる者達で、あの日を知らぬ者など在りはせず。あの日を見た者は極僅か。その中で、恐怖より忘れ難い屈辱を刻まれたのは、ルーウィン王国の国王、ラグダッザ・ジー・ヴォス・ラン・ルーウィンただ一人。


二年前。

王城内儀式の間。


『おいおい…なんだよこれ!何処なんだここは!?』


『え…?嘘…何これ…。私、さっきまで…』


『………騒ぐな。大人しくしていればその内あの、偉そうなのが説明してくれる筈だ』


儀式魔法によって召喚された者達。その反応は様々あれど、大きく異なる事はない。

驚きに声を上げ、受け入れ難い現実に怯え狼狽える。だが…あの男だけは、鋭い眼で私を見据えていた。


『…帰れない…だと…?』


『そうだ。お前達の世界に魔法の概念がない事は知っている。であればそれも必然。だが、そう気を落とす事はない。勇者になれば、およそ人が望むものは全て思いのまま。命を懸ける対価としては十分だろう』


『……ふざけるなっ!!』


その後、召喚の経緯を挟みつつ、彼等の疑問に答える私に対し、男は突如として腕を振り、怒声を響かせた。

…その意味も、今なら分かる。けれど、本当に大切なものを知らぬあの頃の私にとっては余りにも、理解し難い価値観だった。


『女一人失った悲しみなどすぐに癒える。お前達の持つ力次第では一国の王になる事も夢ではない。…自信がなければ旅の道行に寄った街に根を張るのもいいだろう。…戦いはいずれ、ブランディア全土に波及する事になる』


『…女一人…ね。そう言えば…さっきから嫌な目をして俺を見ているあいつは王女か?御高説によれば…勇者ってのは王になれる程強いんだろ。…あいつを殺せば少しくらい…俺の気持ちを分かってくれるのか…女一人失った悲しみがすぐに癒えるかどうか…お前で確かめてみるといい…』


ざっ…!


ごくり…


『…陛下、それに姫様も…お下がり下さい。あの男は危険です』


言いながら私を睨め付け、一歩踏み出す男を見ても…動じる事はなかった。しかし、私を守る騎士達は言い知れぬ恐怖を抱き、自身の死を垣間見たと言う。

勇者と言えど、今はまだ魔力の存在も知らぬただの人間。暴挙に出て捕えられ、右も左も分からぬ異界の地に放り出される恐怖くらいはあるだろう。結局のところ、不平不満があっても従うしかない。そう、高を括っていた。


『娘を殺しても元の世界に帰る事は出来ない。しかし、世界に尽くせば富も権力も、そして女も。全てが手に入る。…これが最後だ。我が命に従い勇者の務めを果たせ。そうすれば、憐れな貴様に免じて此度の態度は不問とする』


『……全て奪っておきながら…呆れる程の傲慢さ。お前の口からは謝罪の一つも出てこないのか。…価値観を押し付けるな。この世界の誰が、何人死のうと俺の知った事じゃない。無いなら探せよ…この世界の全てをっ!!』


それからはあっという間の出来事だった。怒り狂う男を取り押える為、武器を手に立ち向かった騎士達は次々と魔力の奔流に飲まれ。その余波によって城の一部は倒壊した。

愛する女の為に、一国を敵に回す事を厭わない。恐らく、死に躊躇いなどないのだろう。

…後に、あの男が覇天を持つと聞いた時は…言葉にし難い感情が湧き上がった事をよく覚えている。


「………この男に…世界の命運が掛かっているとは…思いたくないものだな…」


脳裏を過ぎる光景に畏怖を抱き。未だ頭を垂れ続ける男を見つめ、胸の内を吐露する。

僅か数秒の回想。この間に騒めきは静まり、皆王の言葉を待つばかりとなっていた。これ以上黙せば違和を覚えて余りある。と、すぐ横に控える宰相と思しき男が動きをみせた。


「…陛下」


「…いや、すまない。…柊夜神。其方はこの世界にとって、大きな希望の光となるだろう。とは言え、見知らぬ地では何かと理解の及ばぬ事も多い筈。ついては我が娘、レイシアを介添え人として同行させよう。本人からも是非にと言われている。…他にも何か、望みがあれば城の者に言うがよい。出来る限り叶えよう」


「恐悦至極に存じます」


「………………」


こうして、王の言葉を最後につつがなく終わりを迎えた此度の謁見。

レイシアにとって、最も重要な王の公言も予定通り。介添人と言う大義名分があれば、必要以上に侍ったとて不思議ではない。同様に、相槌を打つだけの通過儀礼を終えた夜神もひと段落と息を吐く。しかして役目を果たし、ラグダッザが玉座を立ち上がろうかという刹那。静けさに包まれた玉座の間に不穏な声が響き渡った。


「お待ち下さい、陛下」


「…っ!?」


「…シャーリー…!?何故ここに…」


すた…すた…すた…


「お初にお目に掛かります勇者様。私はシャーリー・フォルア・ラン・ルーウィンと申します。突然のご無礼をどうかお許し下さい。…差し出がましいようですが…勇者様の介添え人、この私にお任せ頂けないでしょうか」


「シャーリー第二王女…何故この場に…」


「第二王女が関わっているとは聞いていないが…」


「一体どうなっている…」


突如、居並ぶ臣下の中から躍り出た第二位王女の登場に騒然となる玉座の間。

彼女は不敬にも王の御前で翻ると、貴族の礼を取り。そのすぐ後に控えるレイシアを見つめ意味ありげに微笑んだ。


「シャーリー…!」


「あら、お姉様。そんなに大きな声を出して、一体どうなさったのですか?」


「…貴方…どこまで…」


「ふふっ…ご安心下さい。私はただ…勇者様にはお姉様よりも私の方が同行者として相応しいと、そう申し上げているだけです」


勃発する姉妹喧嘩に顔を覆う国王と、状況が飲み込めず顔を見合わせる家臣達。また各所に配置された騎士達が険しい表情で視線を交わす。その中で。怒りと共に、或いはと不安げな表情を浮かべるレイシアの様子に笑みを深めるシャーリー。ここから、二人の言い合いは苛烈さを増していく事となる。


「…言った筈よ…貴方には望む未来が約束されている。その代わり…何があっても渡さないと!」


「それはお姉様が勝手に決めた事。私は納得した覚えなどありません!…何故…このように変わってしまわれたのですか…!だったら…弱く、卑屈なままでいればよかったものを…!」


二年前。王城内にて。


『シャーリー…俺に構うなと言っただろう』


『そうはいきません!この国の第二位王女として!夜神様をお支えし、世界に平和と安寧を…貴方様にはそれを為す力があるのです』


物心がつく頃には全てを持っていた…。


『…シャーリー様は帝王核です』


『その美貌…いつか傾国の蒼い全美と名を馳せる日が待ち遠しいですね』


人は皆、私の事を愛した…。


『シャーリー様、モルドール侯爵家の長男、ディアス様から婚姻のお申し出がございますが如何致しますか』


『先日の一件もシャーリー王女自ら指揮を取られたとか。…大きな声では言えませんが…私は陛下の後継にはレイシア王女ではなく、貴方様こそ相応しいと思っております』


だから…不思議でしょうがなかった。

まるでそこら辺の置物を見るような目で私を映す瞳。望む全てを叶える事さえできる力を彼は……


『そんなものに興味はない』


一切の逡巡もなく放たれる…私はこの言葉に二の句を継ぐ事が出来なかった。

その後、都度訪れる彼の部屋で私が目にしたものは机に置かれた珍妙な魔道具の中に描写された一枚の絵。


それから時は過ぎ。箝口令が敷かれた例の事件。その真実を知らない私が彼の元を訪れる理由は少なく。この時はまだ責務以上の行動原理も持ち合わせていなかった。けれど…。


『聞きましたよ、なんでもあの男の世話役を任せられたとか…』


『いえ、世話役なんて大したものでは…私が勝手にしているだけです。急に異世界に召喚されれば誰だって戸惑うもの。少し変わったお人柄ですが…嫌と言うほどでは…』


『流石はシャーリー様。けれど万が一の事があれば国の損失は計り知れません。姫様に限っては無いと思いますが、くれぐれも用心下さい』


『えっと…申し訳ありません。その万が一、と言うのはどういう事でしょうか』


公務として訪れた辺境伯の屋敷であの日の真実を聞くと共に、私は後悔の意味を初めて知った。

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