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夜のアリカと銀の星  作者: k...
第二章 星降る夜の再会 前編
27/29

25.目的地

それから数時間後。


がたがらがたがら…


「…あははは!それは災難だったな。…そう言えば、ルミナには声を掛けなかったのか?」


「はい。彼女にはやらなければならない事があるらしく…別れ際、想いの行く末を見に行くと…意味深な事を言っていましたので。…恐らく、世界を転々としているのではないでしょうか」


「そういえば…何か小難しい事を言ってたな。結局、素性も分からず仕舞いだったが…あいつのお陰で俺達は…」


「…また…何処かで会えると良いですね…」


「「……………」」


「…それで…俺はまだ目的も、目的地も伝えていない訳だが…どうして馬車は走っている」


王都を離れ、街道を走る最中。昔話に花を咲かせる二人を窺い、この機を逃すまいと声を掛ける。

そもそも、何故このような状況になったのか。城を出て王都へ向かい。二人と合流を果たした所までは覚えている。しかし、荷を積み込んでいる間、ふと目を向けた一冊の冒険譚に意識を奪われ現在に至る。この状況、敢えて言葉にするなら自業自得と。そう言う他にないだろう。


「…お前…俺達の声も無視して…その手に持っている本を何時間読み耽っていたと思ってるんだ…」


「…申し訳ありません。つい話し込んでしまって…先日、夜神様も仰っていましたが…魔王の討伐に赴くなら精霊との契約は急務だと思い…今は彼等が集まる泉を目指して進んでいます」


肘をつき、辟易と零すレインを他所に、既定路線をひた走る。レイシアは男に悟られないよう注意を払い。介添人らしく、行く先を先導すべきと意向を口にする。

元より。表向きは魔王討伐を掲げ国を出た勇者。本人に隠す気があるのか無いのかはさて置き…当然二人は理解している。この男に魔王の討伐など、更々する気がない事を。そして、ここから先の道行は慎重を期して尚、懸念の消えない賭けのようなもの。

いつ、何処で男を知る者に出会すとも分からない状況で、しかし。何も知らない男には、今ここで聞いておかなければならない事があった。


「なるほど…確かに。精霊との契約は優先事項で間違いない。が、最優先と言う程でもない。…レインと言ったか。お前がここにいる理由は何だ。この女と御者のシャラを除いて、俺がその理由を聞いていないのはお前だけだ」


「…のっけから穏やかじゃないな。俺はシーアに夜神、お前との旅に付いて供をしてほしいと言われただけだ。…それ以外の目的や意図も無いとは言わないが…お前の旅を邪魔するつもりはない」


(なるほど…狙いはこの女か。分かりやすくて助かる)


「…ならこれからの道程、向かう先は俺任せで文句は無いな」


「それは…勿論構わないが…」


「なら決まりだ。シャラ!」


「はい!何ですか柊様」


「お前、この国の地理は?」


「問題ないです」


「なら道中、主要な街にはなるべく寄ってくれ」


「夜神様…?」


「言っただろ。やりたい事がない訳じゃない。急ぐ旅でもないんだ。異世界を堪能させてくれ。本当なら、王都だってもう少し見て回りたいと思ってたんだ」


「…うっ……分かりました…」


事も無げに言い放つ男を前に、引き攣る表情をぐっと堪え。思惑とはまるで正反対の言葉に動揺を通り越す。

思い返せば一週間ほど前の事。妹のシャーリーから誘いを受けた茶会の一幕にて。男は世界を巡る旅がしたい。そう、打ち明けたという。

であれば確かに。聞いた覚えもあったと引き下がる。

最早打つ手無し。項垂れるレイシアを横目に、ここでレインがさり気なく口を開いた。


ばさ…


「…そういう事なら…先ずはこの街を目指すのがいいんじゃないか?」


広げた地図の一点を指し、彼が挙げたのはルーウィン王国における主要都市の一つ。

事ここに至ってはどれだけ先を見据えたところで運否天賦の域。仮に精霊の泉まで野営を繰り返したとして、あの村の存在を考えれば遅いか早いかの違いでしかないだろう。


(商業都市フェルメース…王都程ではないにしろ…広く、物見には打って付けの場所。物だけでなく、人の出入りも多い街なので仮に以前立ち寄っていたとして、そうそう夜神様を知る人物に会う事もない。…先手を打って誘導した…レインには感謝しなければなりませんね)


「どんな街なんだ?」


「俺もこの国の生まれじゃないから詳しくは知らないけど、王都に来る前に寄った時は盛況な商業の街と言った印象だったな。近くには迷宮もあって、冒険者が拠点を置くのも悪くないんじゃないか」


「そうですね。概ねレインの言う通りです」


「…シャラ、聞いていたか?」


「はい、そこに向かえばいいですか?」


「あぁ、頼む」


かくして一悶着の末、目的地を商業の都フェルメースへと定め向きを変える。その道程は凡そ二日間。しかし、気まずさ溢れる馬車に在っては時の流れも遅々と進まず。男は時折り御者席を覗くと、また本を読み耽り暇を持て余す。

…やがて移ろう空の下、沈む夕陽に目を細め。シャラが男に声を掛けると、一行は野営の準備に取り掛かった。


ぱき…ぱき…ぱちち…ぱき…


「…で、そのフェルメースとやらにはいつ頃着く予定なんだ」


「早朝にここを発てば昼を過ぎる頃には着くと思います。…シャラ、明日は私が御者を務めます。今日は任せてしまい申し訳ありませんでした」


「それくらい構わないわ」


「…昼に着くなら宿を取ってから街を見て…翌日はギルドで初の依頼を受けるのも良いかもな」


「と言う事は滞在もそれなりに?」


「あぁ、ざっくり数日から一週間くらいを目処に、とは思っている」


「随分とゆっくりした旅だな」


「あたしはそれで構わないわ」


「私も、夜神様がそう言うのであれば。一緒に街を巡るのも楽しみです」


「…シーアが良いなら俺も問題ない」


夕食の団欒に火を囲み。旅の同行者と分ち合う。その面倒臭さを押し留め。

問うた訳じゃない。これは既に決定事項。にも関わらず、自分勝手に可否を挙げ。ようやく始まる異世界の冒険に胸が躍ると、煩わしさも消え失せる。

暖かいスープを手に、パンを浸して口に運ぶ。勇者一行にしては些か寂しい食卓も、これはこれで悪くないとさえ思えた。そんな、和やかさに包まれ。次いで切り出す一言が場に混沌を齎すと知っていれば、零れる笑みもなかっただろう。


「…さて、夜もだいぶ更けてきたが…夜警は二人ずつ。御者をするならお前は後に寝る方がいいだろう。問題は…」


「シーア…!」


「夜神様…!」


「柊様…」


「「「…………」」」


「…はぁ……俺は前後誰とでも構わない。お前らで勝手に決めろ」


各々が胸に秘める想いと共に。求める名を呼び牽制し合う。

張り詰めた空気の中、呆れる程に醜い惨状を目の当たりにした男は、深い溜息を零し、この場を後にした。


それから程なくして。


ざっ…ざっ…ざっ…


「…夜神様、どうぞ」


「ん?……お前…ふっ、まぁでも…気を遣わせて悪かったな」


「…いえ、そんな。けど…きっと、これまでよりも美味しいですよ」


一人黄昏れる男の元へ歩み寄り。手にしたカップを差し出すと、苦笑いを溢し感謝を述べる。レイシアはその意外な反応を捨て置き、たった一言に頬を赤らめると、次いで火が照らす馬車の方へと顔を向けた。

余りにも無頓着。いや、余りにも分かりやすく、純粋な想い。夜神は芳ばしく香るカップを一瞥すると、先ずは。その気遣いに報いるよう、望む応えを返してみせた。


「…そう言えばあったな。この世界の金銭価値を知らない俺でも高いだろうと思える魔道具が一つ」


「ふふ…夜神様が彼に言った餞別。どうやらだいぶ奮発してくれたようですね。……それで…あの後、ジュレット騎士団長から事の次第を聞いたのですが……今朝、約束を違えないと言ったのは……」


いつかの激闘を遡り。手にした対価と、尽くされた忠義の果てを尋ねるべく。男の答えに機を得て小さく問い掛ける。

そこに、貴方の想いは在るのでしょうか。或いは…賭けの履行に過ぎないのでしょうか。

俯き、視線を下げるレイシアに対し、夜神は一切の間を置かずこう告げた。


「関係ない。あいつの願いとは無関係だ。とは言え…最初はお前とシャーリーを天秤に掛けたのも事実だけどな」


『ワタシたちの本読んでた!後はぁ、マオウの本!それと、どっちにしようかって!』


(あの時のシルフェルの言葉は…もしかしてこの事…)


「…何故…私を選んだのですか…。理由があるなら…」


「そんなのは決まっている…これだ」


「コー…ヒーですか?」


「あぁ…けどな…こいつには眠気を覚ます作用も含まれている。俺は良いが…この時間、他の奴に出す時は気を付けろ」


「っ!…すいません…知らずに…」


「気にするな。それよりも…俺は前後誰と一緒なのかを聞きたいんだが?」


「あ、そうでした!夜神様はレインと、私はシャラと夜警をする事になりました」


「…なら先に少し寝させてもらうとするか」


「はいっ!ゆっくり休んで下さい」


(私は…いいえ…夜神様は、自身で選んだ末にここに居る…)


女心とは斯も難解で。結果が全てと生きる男にとって、過程を重視する思考は理解し難く。

ただ知りたくて。一人、去る背を追ってきた。レイシアは与えられた答えに胸を撫で。弾む声で男を見送ると、一人番をしているであろうシャラの元へと向かっていった。

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