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夜のアリカと銀の星  作者: k...
第二章 星降る夜の再会 前編
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24.出立

「姫様、素敵な物語を紡いで下さい」


「これから先の苦難に負けず、どうか乗り越えて下さい」


「ニルネ、ナルニア、今までありがとう」


そして燦々と輝く太陽の下。城門にて言葉を交わす二人の顔に憂いはなく。短い抱擁にたった一言それで十分と。

その横で。一人沈む気持ちに表情を曇らせ、男はゆっくりと口を開いた。


「姫様…」


「ジュレット騎士団長…貴方にも色々と迷惑を掛けましたね。長きに渡りあの部屋の秘密を守ってくれた事…本当に心から感謝しています」


終わってみれば呆気なく。振り返れば遠い過去。国を護る盾として。民を守る矛として葛藤を強いられ、そして決断を見送った。

立場故に捨てられなかった忠誠があればこそ。後ろめたさに苦笑いを浮かべ、思ってしまう。果たして、自分はこの場に立つ資格があるのだろうか。


『姫…様なのですか…その髪は一体…!いえ、そんな事よりいつお戻りになられたのですか!?」


『つい先日の事です。それよりも…急で申し訳ありませんが貴方にお願いしたい事があります。色々と聞きたい事もあると思いますが…先ずは付いてきて下さい』


それは今から約一年前の事。長らく音信不通だったレイシアの帰国に端を発する記憶の改正。その全てが語られた日。


がちゃ…ぎぃぃ…


『………この男は…確か異世界召喚され…忽然と消えた…』


『柊夜神。私が想い、愛する人。全てはこの人を追い掛ける為に…私は変わったのです』


『それは…どう言う意味ですか……』


後に政治以外の凡ゆる物事に取り組んだ彼女の根底にあるものを知らず。これらを以て渦中に飛び込み、国の繁栄を。そう思って…いや、そう望んでいたジュレットにとって、レイシアが国を飛び出したと言う報せは世界の色さえ変わって見える程の衝撃だった。それが、過去に城を倒壊させた男の為と聞いては戸惑うのも当然だろう。


『……アニスミリア共和国。これについて何か知っている事はありますか』


『………数週間前、突如として氷に覆われ…彼の国の都が一つ…壊滅したと…』


『その只中に在って唯一の生存者が彼です』


『………………ま…さか………』


『…あの地獄を見た貴方ならそう考えるのも仕方のないこと。けれど、真実は誰にも分かりません。…順を追って説明しますが、少し長くなりますので覚悟して下さい』


神の裁きとも囁かれる溶けない氷に閉ざされた街、アーリスイフ。その噂は瞬く間に世界に広がり、未曾有の厄災として知らぬ者はいない程。

これを聞き、彼女の後ろで寝息を立てる男の姿を見ては、疑うなと言う方が難しい。


『…いや…姫様…ちょっと待って下さい……もう既に…これ以上は…』


『…申し訳ありません。けど、貴方には納得して協力してもらいたいのです』


『………分かりました』


困惑し、狼狽えながらもこれを飲み込み。先を聞く勇気があるのも、或いはと思えばこそだった。


『…夜神様の精霊は最上位の闇精霊です。私は彼女と…ある取引をしました。代償は幾つかありますが、この髪の色もその一つ。これをして得られる対価は夜神様の記憶の消去。私は夜神様が異世界に残してきたと言う恋人の存在と、この世界に召喚されてからの約一年間分の記憶の抹消を精霊に請いました』


『…なっ…!記憶の…消去…』


『はい。全てをやり直し、私が夜神様の愛する人に成り代わります。しかし、それには同等の時間が必要となり…今から約一年もの間、夜神様は深い眠りについたまま…。貴方にはこの間、騎士団の者を使って誰もこの部屋に入らぬよう見ていてほしいのです』


『…何を…言っているの…ですか』


『…夜神様が目覚めるまでの間にお父様を含め、これに必要な方達の協力を取り付けます。二度と振り払われぬよう、出来る限りの事に努めます。どうか…この卑しい願いに協力してはくれませんか、ジュレット騎士団長。…特にお父様を説得するまでは誰にも見つかる訳にはいかないのです…!』


『…………そんな事に…協力…出来るわけがありません…!貴方はこの国の王女です!正気に戻って下さい!街の壊滅はどう考えてもこの男の手によるもの…それが過失であるかなど…!もしそのような事が我が国で起こったらどうするのですかっ!』


こうして、全てを聞いたジュレットの胸中は混沌と。思考は混濁し、これを理解するのに数秒を要すると、人として、国を護る騎士団の長としての言葉を選んだ。


『そうならない為に、私が夜神様を支えます』


『…今やその男は大罪人です。それを愛そうなどと…到底見過ごせるものではありません!これもひとえに姫様を思えばこそ。それに…陛下を納得させるなど土台無理な話し…そこを退いて下さい』


ちゃき…


すっ…


間違ってはいないと。これが正しい選択であると信じればこそ。その手を剣に掛け、大切な者を護る為に足を踏み出した。けれど…。


『これは…私の全てを懸けた願い。そう簡単に引く訳にはいきません』


ちゃき…


『姫様…』


『…夜神様を斬るつもりなら私を殺してからになさい!…共に逝けるならこの命…惜しくはありませんっ!!』


『…………………』


『………』


『…………………くっ…!』


『………』


『……私には…姫様を斬ることが出来ません…。かと言って姫様の願いに頷く事も出来ません。…なのでひと月だけ…その間に陛下を説得して下さい』


それは手遅れと言うには余りにも深く根を張り。見据える眼差しはいつかと同じようで。瞳に覗く光景は今も色褪せる事なく煌めいていた。

国か、大切な者か。選ぶ事すら出来ない剣は、一体何処に振り下ろせばよかったのだろうか。


『ありがとう…。近く、帰還の報告も兼ねて出国に関する申し開きの場が設けられるでしょう。それまでにお父様を説得するだけの準備を整えます。夜神様の事、お願いします』


後に轡を並べ邁進する彼女達は自ら選択し、これに寄り添ったという。

なればこそ、やり遂げたと。晴れやかな顔で送り出す事も出来るだろう。

これを見ては何を口にしていいかも分からず。ジュレットは知らず視線を逸らした。


「私など大した事は…姫様ならきっとお一人でも成し遂げられたと思います」


「…それは違います。あれを聞き、大胆な策をくれたニルネと、それを為す知恵を貸してくれたナルニア。そして貴方が立場も顧みず時間を稼いでくれたお陰です。誰が欠けても成し得なかった。それだけは断言できます」


「…陛下の心中を思うと…何と答えていいやら…」


「おい、そろそろ行くぞ」


「はい!今行きます!それでは…またいつか」


「柊夜神!」


何もかもが中途半端だった。


「……………」


「姫様を宜しく頼む。それと…簡単にはあの方から逃れられると思わない事だ。…姫様は……姫様は…!」


そんな自分がやり遂げたと、胸を張って良いのだろうか。


「おいおい…騎士団長さんよ。こんなとこで泣かないでくれ…」


縋り、諦め、望んでも尚。恨み、妬み、憎んでも尚。

不器用どころではない。まさしく人間らしい選択だった。そして、人としての不器用さが夜神の心を強く打ち。選ばない選択こそが今を実現した。彼の想いが大切な者の一助となった事は間違いないだろう。

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