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夜のアリカと銀の星  作者: k...
第一章 貴方と共に
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21.間者

すた…すた…すた…


「あっ………」


人は何かを思い出した時。或いは重大な何かに思い至る時、このような声を上げる。

冒険者ギルドを後にし、王都を巡り始めて数十分。男は今、人も疎になった路地裏を彷徨っていた。


「…勢いで出てきたのはいいが…金持ってないな」


「そこ!?」


「ん?」


「あ…」


見知らぬ街でただ一人。路頭に迷い、不安に駆られ、慌てふためくのが普通と言える状況で一人ごつ。その余りにも余りな言葉に思わずと言った様子で声を上げ。


「「……………」」


すた…すた…すた…


振り返る男と見つめ合う。この間、僅かに数秒を数えると、男は何事も無かったように背を向けて歩き出した。


「え……」


すた…すた…すた…


「ちょ……」


すた…すた…すた…


まるでそこには何も無い。誰も居ないとでも言うように、入り組んだ道を突き進む。埒の開かない状況に痺れを切らした女は遂に、意を決して声を掛けた。


「柊様!お待ちください!」


ぴた…


「……………」


「あたしはシャーリー様に言われて参りました」


「…用件は何だ」


自身の名に足を止め。記憶にも新しい女の名前に振り返る。男が簡潔に用件を求めると、彼女は僅かに間を置いてこう返した。


『貴方がブランダ卿の言っていた…。ふふっ…強者の庇護下に。それが望みなら私の犬になりなさい』


(まさかブランダ侯爵の裏にいるのがこの国の第二王女とは思わなかったけど…)


「可能であれば柊様のパーティに入れて頂きたく。姫様には連絡に必要な手段、とでも言えばいい。そう言われました」


「…それで?」


「柊様の旅がどのようなものになるか、あたしを通じて知りたいと…」


「……………魔法は?」


「申し訳ありませんが…」


「核無しか…何が出来る」


「…盗賊の真似事に加え、情報収集を生業としています」


「戦闘能力は」


「Sランク冒険者にも引けを取らないと思っています」


そうして、唐突に始まった路地裏の尋問は淡々と。しかしその第一声は、聞き捨てならないものだった。

約束の履行。その為に差し向けられたシャーリーとの連絡手段。であれば何を持っていなくとも存在理由は十二分。しかし、次いで繰り出す質問はこれまでと一線を画す。

答えによっては人として。或いはただそこに在るだけの置物として。夜神にとっての価値を計るものだった。


「最後だ。何を対価にこれを受けた」


「……………」


「まさか何も貰ってないとは言わないだろ」


『貴方にとっても悪い話ではありません。夜神様の側以上に安全な場所などこの世にないのだから。けれど、あの人は取り繕う事を好まない。懐に入りたいならありのままを。嘘と悪意を持たず、その話が本当なら受け入れてくれるでしょう』


「……柊様の側にいる事が私の任務と対価です…」


「はぁ…また面倒そうな対価だな。聞くだけ聞いてやる。話してみろ」


「…ある組織に追われています。理由は逃亡の為。…大切な人を失い、帰る場所はありません。ですが、やり残した事はあります…これを果たすまで、何があっても死ぬ訳にはいかない…!つきましては、柊様のお膝元であれば命の危険はないと…」


「…要は報復から匿ってほしいと…そう言う事か」


「…はい」


男の問いに押し黙り、口にすべきを熟慮する。王女の助言は本意を告げる事。しかし、それは余りにも露骨過ぎる。

元はとある人物を探す為、一縷の望みに全てを賭けて訪れたルーウィン王国。僅かな手掛かりを頼りに情報収集をしている最中、接触を計ってきたのがブランダ侯爵だった。異世界人の供をしてほしい。女にとって渡りに船のこの依頼。王女から直接話しを聞いた彼女はこれを二つ返事で了承すると、男に取り入る事を決めた。


(…大切な人を失い、やり残した事がある、か。まだ若いな。表情に出過ぎだ。こいつの狙いは復讐か…シャーリーに言われて俺の元へ来たのなら、異世界人である事は知ってるだろう。また面倒なのを押し付けやがって…とは言え、従順な戦闘要員は使い勝手が良さそうだ。…俺は、復讐が虚しいものとは思わない。こいつの想いが綺麗なものなら、付き合ってやるのも吝かじゃない)


「…まぁ…あの調子じゃあいつもどうせさっきの男を仲間にと言い出すだろう。…俺のする事に口を出さない事。必要以上に協調性を求めない事。これが条件だ」


「それじゃあ…!」


「構わない。さっきの男と同等に戦えるなら楽でいい」


悔しさに顔を歪め、拳を握る。経緯を語る女の言葉に滲む悲哀と、男さえ睨め付ける憎悪。これが、命惜しさに庇護を求める者の姿である、筈がない。

生きる意味と、生きる理由を奪われ。積み重ねた日々と絆を失った。その軌跡に根差す綺麗な想いを見てみたい。男は目の前の女に僅かな価値を見出すと、仲間としての同行を認めたのだった。


ごーん…ごーん…ごーん…


「あ…あははは…」


「……この音はなんだ」


「えっと…時計塔の音じゃないかと…」


「…お前、金は持ってるか?」


「…はい、幾らか手持ちはありますけど…」


「ならいい。武具店に案内しろ。剣一本、それが俺の時間を取った代償だ。急ぐぞ、遅れたらあの女に何を言われるか…そう言えばお前、名前は?」


「あ、申し遅れました。あたしはシャラ…今はもう、ただのシャラ…」


「シャラ…悪くないんじゃないか。後でお前も冒険者登録しとけよ。これからは俺と同じ底辺だ」


かくして。鐘の音が終わりを告げる路地裏での一幕。恐喝紛いの言葉と共に明かされた彼女の名前はシャラ。

肩より短い薄紅色の髪は明るさと活発さを。ぎこちない言葉は育ちを有り有りと表現し。その生い立ちのせいか、鋭い目は綻びと共に幼さを垣間見せる。

歳は二十か、これに満たないと言ったところ。図らずも男女二対二となったパーティを巡る想いは今後、どのように変化していくのだろうか。

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