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夜のアリカと銀の星  作者: k...
第一章 貴方と共に
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11.天降石

暫し続く睨み合いの最中。方や魔力の制御に神経を注ぎ。方や情報の整理に集中力を注ぐ。互いに欲しい時間の猶予。とは言え、機を見誤っては敗北必至。ジュレットは間断なく夜神を窺い、そして間も無く。掛け声と共にその場を飛び出した。


「……行くぞっ!」


「あいよっ!」


「はぁぁぁぁぁぁっ!」


「…来たか。もう少しくらいゆっくりしてくれても良かったが…仕方ない」


だっ!


がきーーーんっ!


「…っ!?」


(なんだ…やけに軽いな。…本命は精霊の方か…だとしても、こいつの魔力は無視出来ない…)


ジュレットの放つ激烈な一撃を皮切りに、再び剣戟を交わす夜神とジュレット。だが、その苛烈さに反し、手応えの無さに違和感を覚える。

また、付かず離れず後方に控える精霊はなぜ呼び出されたのか。…いずれにせよ、何かあるのは間違いない。そう、至る思考の間隙を突くように。ジュレットは拮抗する攻防の中で口を開いた。


きーんっ!きん…!がきんっ!


「…私の精霊が気になるか?」


「……………」


「お前の危惧する通り。精霊はそれ単体でも魔法を扱う事ができる」


「…っ!?」


ぐらぐらぐら…!


「…何だこの揺れは…地震…いや…魔法か!?」


「…だんちょ!」


「あぁ、分かっている」


挑発的なジュレットの言葉に意識を削がれた瞬間。大地を揺るがす振動に足を取られ、体勢を崩す。

険しい表情で夜神を睨め付けるジュレット。その足は易々と地面を踏み締め。続く精霊の呼び掛けに応えると、鳴動を続ける地面に亀裂が走る。


ぴし…ぴしっ!ごごごごご…!


「ちぃっ…!これが狙いか…!」


「よく聞け、柊夜神…姫様を捨て置いて行く事は許さない。傷付ける事も、まして涙を流させる事などもっての外。自己満足…大いに結構。元より、私に懸けられるものなど高が知れている。…それでも!お前からたった一言引き出すくらいの意地はあるっ!」


割れる地面を飛び越え、剣を突き刺し体勢を立て直す。夜神に向け、思いの丈を叫ぶジュレット。その余りに不器用で純粋な忠義も、押し通す力が無ければ空虚な言葉でしかない。

未だ険しい表情で立ち尽くす男の魔力は残り僅か。今も尚、鳴動を続け、大地を割く精霊魔法に耐えきれば攻勢に転じる隙もある。

機を窺い、思慮を巡らせ。夜神はここでようやく違和感の正体に気付き始める。


(…地割れに落とすつもりか。あの精霊も見掛けによらずいい性格してやが……いや待て…だとしたらあいつの魔力は何処へ消えた。それに、なぜ追い討ちを仕掛けてこない。勝負を決めるなら間違いなく今。こっちは身動きすら……まさか…)


ぞくり…


或いは、もう全てを終えた後ならば。険しい表情は苦悶と見え、僅かな魔力は残滓と言える。遅きに失したその気付き。

間も無く地は鎮まり。夜神は自身の背を伝う怖気にふと、空を見上げた。


「…魔法ってのは…何でもありかよ…」


夜の帳が降りるように、太陽すら覆い隠す。紅蓮を纏い煌々と燃える天降石。

気取られないよう、動揺を誘い魔力を高め。大地を揺らして意識を逸らす。

実戦で使うのはこれで二度目。人間に対して放つのは当然、初めての事。地の精霊ガブを使役するジュレット最大の切り札、カエレスティス・ルイナ。晴れ渡る空に突如として現れた巨大な隕石は既に、夜神の頭上まで迫っていた。


そして時は同じく。騎士団兵舎にて。


「……っ!?おい…あれってもしかして…」


差し込む陽の翳りに顔を上げ、窓の外へ目を向ける。男は普段疎かになっている書類の整理や備品の運搬など、雑務に追われていた。

今も、箱に詰め込まれた書類を抱え廊下を歩く道すがら。彼の目に飛び込んできたのは、宿舎を挟み、練兵場の空に見える赤い星。補給部隊として後方支援に携わる男はこの光景に覚えがあった。


「…ん?一体どうした。愛しのアリア副団長でも見掛けたのか……って嘘だろ…あれは団長の…!」


どさ…!


そんな、男の声に冗談めかして振り返るのは、共に雑務をこなす相棒であり、補給部隊の仲間の一人。

付き合いの長さに知れた色恋と、大袈裟な反応。どうせまたいつもの発作と軽い気持ちで向き直った彼は、身を震わせ窓の外を凝視する男の視線を追い、手に抱える荷物を落とした。


「…団長があの魔法を使うなんて只事じゃない…俺はこの事を陛下に報告してくる。お前はアリア副団長を…いや、俺がアリア副団長を探して、お前が陛下に報告を…」


「今はそんな事を言ってる場合じゃないだろ!宿舎の方にも避難を呼び掛けないと…副団長は俺が探すからお前は陛下に報告を!」


しかして。顔を見合わせ走り出す。彼等によって城内は瞬く間に騒然となり。騎士団の敷地内では騎士達が慌ただしく駆けずり回る。

表向きはレイシアが保護し、長らく眠りについていた異世界人への戦闘指南。しかし、その実態を知る者は少ない。いや、知っていたとて予想外の事。それは、二人の戦いを間近で見ていた彼女の慌てふためく姿が物語っていた。


「団長…まさかあれを……姫様…!ここは危険です!」


「アリア、落ち着いて」


「落ち着いてる場合じゃありませんよ姫様!あれを見て下さいっ!あんなのが落ちたら辺りは吹き飛びます!…兎に角、この場所から避難しないと!…ここまでするなんて…聞いてないですよ…団長…」


「…大丈夫です。何をしても…夜神様には届きませんから…」


「届かないって…どういう意味ですか……姫様?」


「……………」


声を荒げるアリアを横目に男を見つめ、目を閉じれば鮮明に蘇る。氷に閉ざされた地でただ一人、身体を横たえる愛しい人…。そこで何があったのか。あれは頑として答えようとはしなかった。

しかし、であれば比べるまでもなく。少し大きいだけの石ころに、今更どうして恐怖を感じようか。分かりきった結果を待つ無意な時間も、必要と言うなら見届けよう。

刻一刻と迫る隕星を見つめ、レイシアはいつか在りし日に思いを馳せた。


「やれやれ…何をした覚えもないが、随分と恨まれたもんだ。あいつ…完全に俺を殺す気だろ。…まぁ、とは言え…魔法でも物理攻撃の類いなら相殺する事くらいは可能な筈………まさかこの局面で折れたりしないだろうな…」


ぎゅっ…


空を仰ぎ悪態をつく。夜神は年季の入ったそれを見つめ、一人呟いた。

巨石や巨木を打ち貫き。或いは一閃、海を断つ。そんな光景も、創作物の中では珍しくないだろう。書庫で得た知識があればこそ、手立てはあると平静でいられた。

膨大な魔力を有し、この地に降り立つ異界の勇者。当然、無いよりは有った方が良い。が、強過ぎる力は扱い難いのもまた事実。使い古された訓練用の剣は自身の魔力に耐えられるのか。脳裏を過ぎる不安に対し、絶望的な現実。元より選択肢などありはしない。夜神は再び空を見上げると、柄を握り剣を構えた。


「…すぅ…はぁ…」


自身の体内にある魔力の器。核へと意識を傾け、噴水の様に溢れる魔力を剣に流し込む。

次第に薄闇を帯び始め、紫紺の煌めきを放つ刀身。それでもまだ、足りない。直感がそう囁くと同時に、剣から伝わる精緻な魔力操作の要求に汗が滴る。

慎重に。後少し。と、そんな苦労の甲斐も無く。魔力の許容限界に達した刀身が嫌な音を立て始める。


ぴきっ…!


「っ…!?」


(おいおいおい…)


別に、いつ死んでも構わなかった。悔いもなければ未練もない。けれど折角の機会。未だ見ぬ冒険に想いを馳せなかったと言えば嘘になる。しかし、もうこれ以上は…。迫る巨岩に決断を強いられ、折れてしまえば後はない。葛藤の末に魔力の流れを断ち切ろうとした瞬間。


『大丈夫』


酷く懐かしい声が男の耳を掠めた。

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