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朝露鬼譚-桜梅桃李-  作者: 猫祝 しわす
第3章 今を往く現実と涙の思い出
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迷子のようなその魂

迷子のようなその魂


家に戻ると夜は月に対して突撃のような形で詰め寄っていく。

そんな夜の雰囲気に押された月には珍しく少し混乱しながら壁際に追い詰められた様だ。


 ――バンッ

 

 大きな音を立てながら夜は壁に月を逃がさないと手を着いて真剣な顔をして月を見つめていた。

「わぉ、夜の姐さん……性格に似合わず意外に大胆だったんすね」

その様子を面白く可笑しい雰囲気を出して「告白か?!」と囃す(さい)は夜に声をかけていた。

「……あ!」

 灑の言葉に夜は顔を真っ赤にして灑を見て「ち、……違いますっ!」と焦ったかのように首を横に振っていた。

「あれ?……熱烈な愛の告白じゃなかったんすか?」

灑の言葉に焦っている夜は「告白ならもっと雰囲気を考えますっ!」と声を上げている夜の様子に灑は楽しくなさそうにして冷めてしまっている茶を啜り出していた。

「夜、お前……告白……する相手いたのか?」

 月は真剣すぎる表情で「天華様一筋かと思っていた」と夜に呟きながらうなづいていた。

「告白の練習するつもりなら付き合うが……?」

 月の言葉に夜は滝涙を流した。

「だから、違うって!! 話がそれているから、話を戻しますよ! 」

 夜は涙目はそのままに月を見上げた。

「月、あなた、(れん)の人生の総て見ていましたか?」

 夜の言葉で月は脳内のスイッチを切り替えて最速で煉に関する情報をかき集めていた。

「見ていない時期もあったが……ほぼ知っている気がするが何かあったのか?」

 月は夜を見下ろして首を傾げていた。

「では、晩年の状況はどう?」

 夜の言葉に月は顎に手を当てて悩む。

「……鬼狩でありながら老衰で無くなっていたと人づてに聞いたし、墓参りにも行った」

 月は「……引退して現役をやめていたんだろうなと自分で納得して思っていたんだが……?」不安げに天華(てんか)に告げていた。

「ところで、その煉ってやつだれ?」

 再び、興味を持った灑が口を挟む。

「……鬼狩りの2代目、だな」

 月は灑に教えていた。

「……なんで今更、その2代目煉……だっけ?そいつ個人の話題になるわけ? かなり昔の話だろ?」

 灑は極々普通の疑問を投げかけていた。


 灑の疑問によって、なぜ煉の話題が出たかを夜は出かけていた時の話を月と灑に聞かせていた。


「ふむ」

 話を聞き終わった月はうなづいて腕を組む。

「……あいつは、天華様を諦めて普通の娘を娶ったはずだが?」

 夜もその話は聞いていたらしく月と一緒に「たしかにそのように私も聞いています」とうなづいていた。

「……いや、そもそもの話、なんでその小僧はあんたら2人に忠告したんすかね?」

「小僧じゃなくて、玲って言う学生でした」

 灑の言葉に夜はムスッと呟いていた。

「……夢茨(ゆめじ)……いや今は夢斗(ゆめと)だったな……が何か知ってるかもしれないから。行ってみるか?」

 月は夜と天華に問いかけていた。

「そう……、ですね」

 天華もうなづいて鬼の世界と人間界の扉を開いていた。

「夢斗から話聞いてきますね」

 鞠が弾むように扉に飛びこんで行く天華について夜も入っていったのだった。


 ✼••┈┈••✼••┈┈••✼••┈┈••✼••┈┈••✼


 鬼の世界に天華は降り立ち、続けて夜も地面に足をつけていた。

「……天華さま、私、屋敷の様子を見に行ってきます。すぐ合流しますので先に向かってくださいー」

 夜は天華の屋敷のある方へと駆けて行く。


 天華は夢斗の居そうな所へと足を向ける。


 煉華(れんげ)が居なくなり、足が遠のきなかなか足が向かわない場所の桜が咲き誇る煉華の館に居ると予想を立てて向かっていた。


 住人がいずとも桜は見事に咲き誇っており目の前に桜吹雪に目線をあげると既に門の前に到着していた。

「……お邪魔します」

 天華は声をかけて中に入ると中庭から人の気配を感じた。

 ゆっくりと中庭に向かうと、桜を見あげている紫色の癖っ毛の青年を発見して近くまで向かう。

 隣にゆっくりと立つ天華に気づいたのか青年は金色の目を一瞬だけ天華に向けるもすぐに桜に向けていた。

「……この木だけは好きにならない」

「けど、切り倒しませんよね」

 夢斗の言葉に天華は返していた。

「……煉華の館で当人が居ない住居の木は切り倒せないだろう……不愉快なものであろうとも」

 夢斗はため息を付いて桜を見続けていた。

「……煉華はさ、なんで独りで行っちゃったんだろうな」

 ふと夢斗は呟いていた。

「待っていてくれたら、オレも一緒に行けたのにさ」

 “夢茨”としての言葉に天華は目を閉じていた。

「……姉様は、貴方の後の人生を守りたかったんだと思いますよ」

 天華の言葉に夢斗は天華を見下ろしていた。

「……あの頃、姉様に向けられている敵対の感情は鬼に対する負の感情だったはずです」

 天華は当時を思い出して呟く。

「……私たちが鬼であることが罪であることを受け入れて自首する形で行ったんですよ」

 天華は煉華の最後には立ち会えていない。

 見ることも守る事も叶わなかった事象であった。

「……あんたの場合はどうなんだ?」

 夢斗は天華を見て呟く。

「どうでしょう? あなたとあの子(雪太郎)は立場も性格も違いますし」

 夢斗の目を見て天華は言う。

「私も、……姉様とは違いますので」

 天華の言葉に寂しげに「そうだな」と一言呟いて黙っていた。


 暫く、ふたりで桜を眺めていたが夢斗(ゆめと)天華(てんか)を見下ろした。

「……それでなにか用があって来たんじゃないのか?」

(れん)夢華(ゆめか)の話を聞きに」

 夢斗の言葉に天華は頷きながら言う。

「というか、今の鬼狩りの内部は、分かりますか?」

 真剣な天華の言葉に揺らいでいた夢斗の目に一瞬、光が灯ったのを天華は見た気がした。

「“(れん)”と言うのが今の御館様だな」

 夢斗は天華に話して聞かせていた。

「名前が変わったとしても姿形は変わらないと有名な話だ」と夢斗は呟く。

「現実的な話……、血縁の家族が似るのはある事だが……それが何代も同じ顔が続くということは……ない」

 夢斗は天華へ伝えるものを選んでいるような表情であったが、天華はあえて追求することはなく、今現在、夢斗から与えられる情報のみを頭に入れていく。

「……確信は無いが、蓮は(れん)かもしれないとは、……自分も思っている」

 夢斗の言葉に天華は驚いている。

「会ったことあったのですか?」

「……まだ幼いときだがな」

 天華の言葉に短く答えていた。

「会わずともわかる。オレも鬼だ。一瞬だけ最近あっちに行ってきたが、蓮を見たが、煉と同じ匂いと気配が変わってないようだ」

 夢斗は鼻で笑いつつ言っていた。

「……雪太郎の生まれ変わりでさえ、少し変化のある気配しているんだ、当人でないとありえない」

 夢斗は天華を見た。

「……煉の皮を被っている……っという選択を考えることもできるが」

「もしそうならば、鬼狩りで正体を隠し活動しているということですね。相当な手練ですか……」

 夢斗の言葉に天華は心底嫌そうに呟いていた。

「あと、もうひとつ、どこかのバカが鬼灯(ほおづき)の人間を食らうと力が増すとか言う噂を流しているらしい」

 夢斗の言葉に天華は頭を抱えていた。

「一体誰が……ちょっと戻ります」

 天華は人間界へと戻るべく夜と合流するために歩いていく。

 夢斗は天華を見送ることはせずにまた桜へと目線を戻していた。

「……なんども、煉華(れんげ)の魂を持つものが息絶えて行くのを見てきた……。もう見たくない、見たくは無いから傍に向かわなければ……煉華を失う所を目にしなくて済む」

 夢斗の頬にゆっくりと涙が伝う。

 その涙を手のひらで拭いとっていくが、これまでの煉華の生まれ変わり達が息の引き取る瞬間が脳裏に浮かんでは消える。

 

 捕まえたと思った温もりが、次の瞬間に腕の中から消えていく。

 喜びからの絶望の波が夢斗を飲み込んで行く中でもはや、彼を絶望から救い出せるのは煉華ただ一人であろう。


 


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