灑と清律姫
灑と清律姫
助けて欲しいと転がり込んだのは良かったが、意識が朦朧としすぎて力の把握までせずに転がり込んだのは悪意は阻む結界の存在を感じてからかもしれない。
灑は茶と朝の残り物を食べて覚えている限りの事を天華、月、夜へと伝えたが、夜は精神的に打ちのめされて話を聞いているかわからなかった。
「……邪気に食われかけたのでしょうか」
天華は幼女の前に座り怪我の具合を見て灑を見た。
「自分が把握してるのは、どっかのバカがこの子が依代にしてた御神体を暴いて他の強いやつに喰わせようとしたってくらい……」
灑は思い出しながら説明をしている。
「そのバカが、清律神社のこの子をより強い龍神に捧げてついでに……そこにいた人間たちまでも喰わせた」
「……って、清律……」
灑の説明の中で天華は初めて驚いた顔をして幼女を見た。
「清律姫……」
幼女は名前を言い当てた天華を見てこくんとひとつうなづいていた。
「……話を折ってしまってごめんなさい。続けてください」
天華は、灑に続きを促していた。
「……龍神?」
「……あぁ、だからこの神気か」
夜と月はふたり別の反応をしているが灑は首を横に振る。
「あれは、龍神でも蛇神でもない」
灑は天華を真っ直ぐ見て言っていた。
「……ひとまず、この子のこの穢れをどうにかしなきゃ行けないんですね」
「……言いにくいけど、あいつ、この辺に潜んでるぜ」
爆弾発言を残してぱたっと充電切れたかのように眠りに落ちて行った灑に全員が驚いていた。
「……た、倒れた」
夜はゆっくりと、灑を覗き込む。
「……何日警戒しながらここまで来たか分からんからな……」
月は灑を邪魔にならないところに寝かせて上布団を持ってきていた。
「そんなやつ外に放り出しててもいいんです!」
夜はムッとした顔して月に言う。
「名付けくらいで……」
月は夜を見てため息をつく。
そのふたりのやり取りを無視して天華は清律の浄化を試みていた。
以前、清律神社からお願いされたことと同じようなことなので簡単なことだと思いながら浄化の力を清律に施していくが、浄化しても邪気が侵食して来る状態でどうにもならない。
「御神体を取り返すか、御神体の取り替えか……」
天華はつぶやき清律の様子を見る。
辛そうな表情を見せないが、脂汗を流している。
「……」
天華は浄化の力を流し続けているのを夜がオロオロと心配している。
「憑依できるものか……」
月は悩む。
「……水晶の数珠は?」
清律の腕につけれるサイズの水晶の数珠を夜は持ち出してきていた。
夜の手にある数珠を見て清律は目を輝かせていた。
「気に入りましたか?!」
夜は清律を見て嬉しそうに言う。
「これ、どうしたらいいの?」
月を見て天華はあわあわしていた。
「清律が勝手にしてくれる」
月は天華に言っていると、清律の邪気があっという間に消えてなくなって行った。
「古い御神体からこっちの数珠へと、移動するに決めたから、清律姫が宿る御神体がこっちに変わったんだ」
清律が明るい表情になる。
「これは、清律姫のものです」
天華は水晶の数珠を清律に持たせると、水晶が淡い青い光を放つ霊晶に変わったのであった。
「……浄化されたようだな」
背筋を伸ばしながら神気に当てられた灑も起き上がっていた。
「じゃ、安全な場所みたいだから俺は帰るわ」
のそのそと出ていこうとした灑を夜は止める。
「清律姫を忘れてますっ!」
清律を指さして夜は灑に言うが、灑は清律と夜をみくらべて、息をつく。
「浄化できるやつのところと安全な場所だからここで別れても文句ねーだろ?」
灑は月を見た。
「んなわけないでしょうが!!!」
夜は灑に怒鳴る。
「知らない場所に1人放置される気持ち察してあげてくださいっ!」
夜は灑のボロボロの着物の襟首を持って怒る。
「……清律姫が落ち着くまで、一緒にいてあげるくらい罰は当たりませんよ」
天華も灑に言う。
灑は清律を見下ろす。
「……」
清律は灑を見上げていたがしょぼんと顔を伏せた。
「あーも、姫さんが慣れるまでですよ?!おれがここにいるのは!」
灑は頭をガシガシと乱暴に搔くと投げやりに宣言した。
灑の言葉に清律は目に見えて安心したかのような表情を作ったのは、ほぼ同時であった。
灑はなんでこんなに龍神の娘に懐かれたのか戸惑うことしか出来なかった。




