愧焔という名の鬼王
愧焔という名の鬼王
月が浮かぶ、今は小さな光の星は地上の星にその輝きをかき消された星空の下。
地面を歩く人を眺める長い蛇みたいな影が闇の中で蠢く。
昼間のような光は人工の光源で無害とわかっているが、光の方へ向かう気がどうしても起きない様に獲物が深い闇の中に足を踏み入れるのを待つ。
街灯が切れかけて一定の感覚でチカチカと灯っては暗くなる小さな裏路地で獲物を待っている。
1人の仕事帰りの女性が捕食者が待つ裏路地へと足を踏み入れた瞬間、狙いを定めたかのように素早い動きで獲物を絡め取って闇へと紛れ込んで捕食者は消えていた。
血痕を残さず、綺麗にただ1つぽつんと靴のみを残し消えていた。
悲鳴をあげることなく女性は闇に飲まれたが、周囲を歩く人々は誰か、人1人の存在が消えたことに気づくことなく1日を終えていく。
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血を溶かしたような空が続く場所、鬼の世界。
ただ1つ大きな古い日本の城が見える。
その中の大きな部屋に押し込められている、癖のあるくるくる髪の少年は、膨大な量の書を見て頭を悩ませていた。
「愧焔様」
書類から声をかけてきた青い鬼火の人物に金色の目を向けていた。
「……弱い鬼を捕縛している鬼狩りがいるようです」
愧焔は溜まった書類に手を置いて青い鬼火の鬼へうなづいていた。
「青花か、そのようじゃな。この辺がその内容であった」
ほぼ目を通した書類、つい先日ではあるが天華が解決したらしい猫の小鬼の件も書類はあった。
猫の族長は追加の報告として来ていたのを愧焔は思い出していた。
「……今、対応できる手段は旧鬼灯邸以外の門を閉じる事と共に、人間の世界へと渡るのを禁止することくらいじゃな」
愧焔は顎に手を置いて「しかし、食糧問題か……」と呟く。
「……天華が確か穀物類の種を持ってきておったな」
「あれだけでは足りません」
愧焔の言葉に青花が即答で答えていた。
「……他にもいろいろ持ってきておったろう」
青花はため息を付いていた。
「人の世界と鬼の世界では状況か違うんですよ。まずは日光が違います」
延々と説明が流されて愧焔は滝汗を流していた。
「……ひとまず、愧焔様の仰る通りに旧鬼灯邸の門以外は封印いたしますよ」
青花はうなづいて愧焔の仕事部屋から出ていこうとしていたが思い出したかのように愧焔を見た。
「夢斗様ならもしかしたら良い案くれそうですので聞いてきてみます」
青花は手をヒラヒラと振りながら部屋を出ていっていた。
悩みながら愧焔は、街が見下ろせる窓辺へと近寄りゆっくりと見渡していた。
桜の大木がある屋敷に目を向けて、城から見える雪山へ視線を移していた。
「全く、あの二人は人間を愛しすぎとるわい」
脳裏には、今は居ない焔のような桜の屋敷の主の少女、煉華と人間界へと行っている雪山の主である少女、天華を思い浮かべて頭を掻きながら言葉を吐いていた。
「青花、戻りました」
愧焔の背中に元気な声が聞こえてきた。
「愧焔様の指示通り、旧鬼灯低以外の門を封印してきました。あと、……夢斗様は行方不明です!」
青花の言葉に報告を受けていた愧焔は目が点になって止まっていた。
「……は?」
「嫌だから、夢斗様をあっちこっち探したけど行方不明なんですよ」
愧焔の間抜けな反応を見て、青花はもう一度、夢斗の行方が掴めなかった事を報告している。
「まぁ、……すぐ戻るじゃろうて」
「置き手紙も置いてきましたので出先から戻り次第こっちに来て顔を見せてくれるは……ず……?」
気楽な愧焔と不安げな青花はふたりで頷きあっていた。




