消し炭製造機、夜
病院から天華たちと帰るのが深夜遅くなり、結華はまだ夢の中に沈んでいる。
月は今現在進行形で朝食の準備をしている中、天華は箒をもち玄関先を掃く。
夜はいつものお菓子のお礼にと月と一緒に朝食の準備を手伝っているようだ。
つい先程、月の怒鳴り声が聞こえた気がしたのでなにか事件が起こったのかもしれない。と思考の中に埋もれていたら玄関から見知った少女が走ってきていた。
月の怒鳴り声て目覚めてしまったのだろうと思いながらちりとりで掃除を終わらせた天華は駆け寄ってきた結華と向かいあった。
「あわわ! 天華ちゃんごめんありがと」
慌てて寝癖だらけの髪で出てきた結華に天華は笑いかけた。
結華の髪を撫でながら「大丈夫?」と声をかけた天華に結華はキョトンとしている。
「あ、うん」
結華はうなづいた。
「梅子が心配ならまた見に行くけど……」
天華の言葉に慌てて結華は首を横に振る。
「……心配は心配だけど、大丈夫だよ! すぐに帰れるって本人も言ってたし!」
結華はにへらと笑い天華を見た。
「おーい!朝ごはんできましたよー」
夜は玄関先から2人に聞こえるように声をあげる。
「わかったー!」
結華は天華と二人で箒とちりとりを片付けながら返事をして居間へと向かう。
玄関先へ戻る天華はふと視線を感じて一瞬振り返った。
まだ、人の往来がまばらな時間帯で向かいの歩道からこちらを見つめていたひとつの影に天華は首を傾げる。
「天華ちゃん、夜さんにご飯食べられちゃうよ?」
結華は立ち止まった天華を見て声をかけていた。
「あ、はい。それは大変だから行きましょうか」
結華に目線を向け、向かいにある歩道に視線を向けると立ち去る少年の後ろ姿がはるか昔共に居た雪太郎と重なった。
「雪太郎……?」
天華の呟きは空へと掻き消えていった。
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鬼灯家の居間で、夜、結華が先に机に着いていた。
「……ところで先程の月の怒鳴り声は何だったんですか?」
「あ、たしかに」
天華が夜を見て問いかけると、結華も“眠気も吹き飛ぶ目覚ましになったから良かったけど……”と言いながら夜の言葉を待っていた。
「……あの、玉子焼き作ろうとしたのですが……」
夜は申し訳なさそうにしながら呟く。
「……失敗……いたしまして」
蚊の鳴くような声になってちょっと涙目になってきた夜。
「……消し炭だな。どこをどうやったらそれになるというものが出来上がった」
人数分の味噌汁をお盆に乗せた月がやってきて夜の後に続けた。
「酷いっ」
月の言葉に夜は嘆きの声を上げた。
「……玉子焼きには申し分ない火力のはずなのだし、巻く速さも普通であったのにも関わらずだ」
月はため息を着いていた。
「……あれは夜が食べろ」
「……ええっ」
月の言葉に夜は非難の声を上げていた。
「皿に盛っているから天華様と結華に見せるか?」
「もう見せる気満々でしょ!?」
月の言葉に夜は声をあげた。
「魚の丸焼きとかは夜得意なはずなのですが」
天華の言葉に夜は目を輝かせて天華を見つめる。
「……何も考えず火を中まで通せばいいだけだ。料理苦手なヤツでもいけるだろう」
天華の言葉に月はため息混じりに答えていた。
「……消し炭ってもう食べ物じゃないよね」
結華も突っ込む。
「……えっ、夜さんって料理作れないの?」
結華の言葉に夜は頬を掻きながら苦笑いで誤魔化していた。
「基本、料理は下女という子たちが作ってくれるからいいんです」
夜の言葉に結華は首を傾げていた。
「今で言うお手伝いって言うのか……」
月がしっくりとくる話を持ち出している。
「……3人で行動する時は俺が作ることに決まっている」
月の言葉に結華は納得していた。
結華は夜の作った物体を見て滝汗を流しながら“ダークマター”と呟いたのはまたあとの話。
一部、夜が作った消し炭の不穏な話になりかけたが、和やかな朝食の時間が訪れた。
「月、甘味を研究してください」
藪から棒にご飯食べながら夜は月を真剣な目で見つめて声をあげる。
「料理上手だからお菓子作りもいけそう」
結華もうなづいていた。
「……めんどくさい」
月は頭の中で色々と考えて一言で終わらせた。
「……たしかに、大掛かりなものを作るとなると面倒くさそう」
結華は月の言葉にうなづいていた。
「……結華が甘味大臣になってください」
月を諦めて結華に狙いを絞ったらしい夜は結華へと純粋な目を向ける。
「ごめん、持っていった甘味全部お店で買ったものなんだ」
結華はてへっと笑っていた。
「作れるのもあるから、それでいいなら時間がある時に作るよ」
結華の言葉に夜は目を輝かせて喜ぶ。
「夜を甘やかせるな……」
頭を軽く抱えて月は弱く抗議をするもふたりは聞いていなかった。
「うわっ、やば。呑気にしてたら時間が間に合わなくなるかも」
バタバタと食器を台所に持っていき自室に向かう。
「今日は……」
「学校があるのー!」
夜の言葉に結華が叫んで準備をしているらしい音が続いていた。
「……帰りに病院を見てきたいんだけど」
「結華が学校の時に梅子が戻ると入れ違いになってはいけませんから」
天華は結華に“1度、おうちに帰ってきてから向かいましょう”と声をかけていた。
「わかった」
元気にうなづいて結華は学校へと向かっていた。
その後ろ姿を天華と月、夜は見送っていたのである。




