37 秘薬の効果
ようやく完成した秘薬。恥ずかしい思いをした対価が得られると良いのですけれど。
「秘薬のレアリティは最高ランク。副作用の効果も八割を保証します」
保証するというのだから自信があるのでしょう。だけど、わたくしはデカメロン様を信用しておりません。
「本当に効果があるのですかぁ?」
稀代の錬金術師という噂。お会いしたことで、その信憑性に疑いを持ってしまいましたの。
「もちろんです。二回分ございますので、試しにウチの使用人で試しましょうか?」
「お願いしますわ。もしも効果があれば白金貨を支払いますの」
「お代はいりませんのに。誰か来なさい! 胸が小さい誰か!」
心に痛みを覚える台詞のあと、錬成室の扉が開かれました。
「キュボン様、いかがなされました?」
現れたのは幼い容姿をした女の子でした。
彼女は使用人みたいですけど、お胸はわたくしと同じくらい。
「確かに情けない貧乳だな。お前、その男性ウケ皆無の貧相で見苦しい極小乳を巨乳化してみたいだろ?」
「そこまで卑下していないと思いますけどぉ!?」
いけない。口を挟んでしまいましたの。彼女が試してくれないと、真偽が分かりませんのに。
「これを半分飲め。少し苦いが我慢しろ」
「ええ? 飲んじゃいけない色をしてますけど?」
それはわたくしも思っていました。
何しろ毒々しい紫色をしているのです。命じられたとして、彼女にそのような度胸があるようには見えません。
「嫌なら他のメイドを呼ぶ。金貨一枚支払おうと思っていたのだが……」
「飲みます! どうか私に飲ませてください!」
「ほう、飲むか? 少しも価値がない穢らわしき平面胸を巨乳にしたいと?」
「少しも価値がない穢らわしき平面胸を巨乳にしたいです!」
お金の力を見せつけられていました。いえ、人の欲でしょうか。懸念したことは金貨一枚で片付くみたいです。
「コップに移し替えた。早く飲め」
「分かりました……」
メイドの彼女はコップに注がれた液体を飲み干す。
すごいわ。金貨一枚の力は死をも超越するのね。
「うぷっ!」
「吐くなよ? しばらくジッとしていろ」
デカメロン様がそういうと、薄ピンク色をした煙が彼女から吹き出しています。
ええ? これって大丈夫なのかしら?
一分ほどが経過して煙が消失。するとどうでしょう。
先ほどまでささやかだった彼女のお胸が大きくなっていたのです。
「キュボン様ぁぁ、胸が苦しいです!」
「サイズが変わったからな。苦しいならボタンを幾つか外すと良い」
明らかに巨乳化していたのよ。
わたくしと変わらぬ胸をしていた彼女は今やエマと同じくらいに。
「これが……巨乳? キュボン様ぁぁ、もうド貧乳には戻れません! 情けなく恥ずべき劣等胸であったと痛感しました!」
「分かれば良い。お前も今日から優等種になった。過去の劣弱意識は忘れたまえ」
ヤバいわ。
秘薬の効果は本当に凄い。わたくしもエマと同じくらいに成長してしまいますの。
「今日一日は出歩くなよ? 男と出会ったなら最後、お前はその年で一児の母となってしまう」
「承知しました!」
金貨を受け取ってルンルン気分でメイドが去って行きます。
効果のほどを目の当たりにしたわたくしは、懐から白金貨を取り出していました。
「デカメロン様、代金ですわ。確かに秘薬は完成しておりますの」
「姫殿下、ここには男の使用人がおりません。効果時間の一日をここで過ごしてもらった方が良いかと存じます」
「それは良いご提案なのですけど、わたくしは王城に戻らねばなりません。大騒ぎになってしまいますわ」
黙って外出しておりますので、戻らなければなりませんの。
「ならばお気を付けください。意図せず世継ぎが増えるのは、わたしも良いとは思えません」
「ありがとう。気を付けますわ」
24時間。それが妊娠薬の効果です。
きっと部屋に鍵をして寝ていたら大丈夫よ。
「エマ、戻りましょうか?」
「はい、殿下……」
とりあえず、秘薬を手に入れましたわ。
これにより、わたくしは超絶グラマーな悩殺ボディになる。先生も我慢できなくなって、意図せず世継ぎが産まれてしまうかも。
待っていてください先生。
わたくしは誰よりもセクシーになって見せますわ。
◇ ◇ ◇
王陛下から妙な話を三つも聞かされた俺は執務室で考え込んでいた。
「ダニエルの件はどうでもいいようで大問題だよな……」
適切なカップリングが必要だというのに、ダニエルは聖女ルートを選択してしまった。
脈はないのだから、こっぴどくフラれて諦めて欲しいものだ。
「せめて姫様がCカップくらいあれば……」
今やダニエルは山男だ。
それも世界最高峰に挑もうとしいている。そんな彼がなだらかな丘で満足できるとは思えない。
「帝国との関係悪化も大問題だったりする」
帝国の使者を姫様は怒鳴り散らして追い返したらしい。
これまでの苦労を台無しにしてくれたことには溜め息しかでない。刺し殺して生首を送り返すよりはマシだったけど。
「どうしたものかな。王国としては俺とティアナ殿下の婚約は望ましい話であったはず」
王陛下は帝国と友好的でありたい意向だった。
しかし、姫様はティアナ殿下の暗殺を考えていたのだ。ドSらしく彼女が幸せになることを徹底的に邪魔したかったに違いない。
「俺としても困る。ヴァルディア帝国は亡命先の最有力候補だし」
どうして姫様はあんなにも問題ごとを押し付けてくるのだろう。
どうでもいい話と悪い話は両方とも姫様が原因だと言えなくもない。
「何とかして姫様を巨乳にして、ティアナ殿下との友誼を結ばないと」
俺はまだ死にたくない。加えて、できれば楽に暮らしたい。現状の頑張りは全て将来を見越してのものなのだから。
「帝国には謝罪の書面を送っておこう。そこからやり直せばいい」
帝国は万が一の亡命先であり、今すぐに対策を取るべき事案ではなかった。
「優先すべき問題は姫様の板胸だ」
前世の記憶によると、バストアップ運動とかマッサージとかあった気がするけど、童貞の俺が知るはずもない。
「そういえば、稀代の錬金術師が亡命したって書面を見たな?」
僧兵たちと侵攻したカインズ共和国からグリフィス王国に亡命したという錬金術師がいたはず。錬金術であれば、無乳の姫様もボインボインにできるかもしれん。
「ダニエルの性癖を変えるという手もある」
錬金術は囓った程度。しかし、前世で培ったアニメの知識によると何でも生み出していたように思う。等価交換だった気もするけど、話を聞くくらいなら無料だし訪問してみようか。
「残す問題は姫様の好感度だ……」
帰国した折も様子がおかしかったし、好感度がリセットされているのは確実だろう。
「俺の婚姻を邪魔したんだ。無事を祈ってくれたらしいが、姫様はドSだし油断できない」
ドS成分を出して、俺が落胆する様子を楽しみたいだけならまだいい。だが、離れていた時間に好感度が下がりきったという理由なら由々しき問題だった。
「また好感度上げからだな」
そういえば共和国名物のアイアンメイデン饅頭をお土産として買っていた。
毒々しい赤いアンコが入った饅頭ならば、姫様の機嫌を好転させられるかも。
「よし、ちょうど授業の時間だし、お土産で好感度管理だ」
早急な対処が必要。帝国との関係を見逃してくれるくらいに好感度を上げないと。
とまあ、俺は問題ないと考えていた。
授業は日課に組み込まれていたし、まさか入室を拒否されるなんて思わなかったんだ。
「姫様、扉を開いてください!」
『アルフレッド様、今日の授業は取り止めだと姫様は申されております!』
扉の向こうからエマさんが応答してくれたのだが、まさかの面会拒否である。
ヤバい。やっぱドン底にまで好感度下がってるじゃん。せめてお土産を手渡したかったのだが、授業を中止するの一点張りなのだ。
「エマさん、どうかお願いします!」
『殿下は体調が悪いのです! お引き取りを!』
少しでも好感度を上げておきたいってのに、面会すらできない感じだ。好感度は完全に失われたんじゃないか?
「少しだけで良いのです! 面会を要求します!」
姫様にも勉強したくない時があるのだと理解している。だけど、少しですら会えない事情があるはずもないのだ。よって俺は簡単に引き下がらない。
姫様との関係は、この人生において重大な要素。少しでも良好な関係にしておかねばならなかった。
従って俺は声を張って訴えるだけだ。
「姫様! ソフィア姫殿下ァァッ!!」
ヤンチャンWEB等、各種電子書籍サイトにてコミカライズが連載中です。
そちらもお読みいただければ幸いです!




