36 秘薬の錬成
わたくしはエマを引き連れて、デカメロン様のお屋敷に来ています。
せっかく先生がサキュバスの尻尾を手に入れてくれたのです。わたくしも先生の期待に応えて大きなお胸にならなくてはいけません。
「これがサキュバスの尻尾ですわ!」
デカメロン様に対しては強気に。
わたくしは王女殿下なのです。舐められたら負けですわ。
「確かに。しかし、この短期間でよく手に入りましたね?」
「当然ですの。わたくしは王女なのですよ?」
「お見それしました……」
先生の手柄を横取りした感じになっていますが、常に優勢な立場でデカメロン様とは接するべきです。
「断崖絶壁の二次元まな板胸をそれほど気にされていたとは……」
「だから、そこまで卑下しておりませんの!」
「殿下、落ち着いてくださぁぁい!」
ここに来るとナイフを抜きたくなってしまうの。わたくし、どうしてしまったのでしょうか。
「それで秘薬は作ってもらえますのぉ? 早くして欲しいですわ」
「態度が悪いお姫様ですね」
「貴方様のせいですからね!?」
いけない。平常心を保つのよソフィア。口の悪い錬金術師を殺めたとして何の利益にも繋がらないわ。
胸に手を当て、大きく深呼吸。落ち着かなければなりません。
「姫殿下、それは胸に手を当てているのですか? それともお腹でしょうか? わたしは目が悪いもので、超微少な違いには気付かないのです」
「胸ですわ! そもそも気にされる行動でもないでしょうに!?」
どうして、こんなにも口が悪いのかしら。温厚なわたくしでも苛立ってしまいますの。
「一応はわたしも素材を用意しております。こちらへどうぞ……」
デカメロン様はわたくしたちを錬金術の魔法陣がある部屋へと案内してくれます。
部屋には虹色に輝く魔法陣。それは彼女が錬金術師なのだと初めて感じられるものでした。
「姫殿下、下準備としてサキュバスの尻尾を短冊切りにしてください」
「わたくしが下準備するのですか!?」
「サキュバスの尻尾を短冊切りにしないと、効果が薄れるのです。AAカップがAカップになるだけで良ければ、そのままでも構いませんが……」
「元からAカップですの!」
「殿下、落ち着いてくださぁぁい!」
既視感を覚える遣り取りのあと、わたくしの手元にサキュバスの尻尾が渡されています。
「均等なサイズに切り分けないといけません。お手数をおかけします」
「まったくですわ! 不器用ならば先に言ってください」
「いえ、違うのです。手先はとても器用なのですが……」
不器用じゃなかったら、何だというの?
お客様であるわたくしに手伝わせる正当な理由があれば教えていただきたいわ。
「ほら、巨乳が邪魔で手元が見えません……」
「お胸が大きくてよろしいですわね!?」
「殿下、落ち着いてくださぁぁい!」
いや、ナイフは刺すためじゃなく、短冊切りにするため取り出したのよ。
別にデカメロン様の風船に突き刺してやろうとか考えていないわ。
「殿下、短冊切りなら手伝いますけど?」
エマが心配してくれる。だけど、心配ご無用。わたくしにはナイフ使い(神級)のスキルがある。
均等に切り分ける必要があるのでしたら、他人任せにはできません。
「エマ、見てなさい?」
「はぁ……」
心配性ね?
わたくしはもう何もできないお姫様とは違うのです。短冊切りくらいわけないわ。
「いくわよ!」
切り幅をイメージ。あとは勝手に手が動くはず。
トントンと一定のリズムでナイフが尻尾を切っていく。ドワン親方様のナイフはやはり切れ味が抜群ね。
「姫殿下、上手じゃないですか?」
「でしょ? わたくしに不可能はありませんの!」
ようやく褒められましたわ。初マウントですの。
溜飲を下げたわけでもありませんが、悪い気はしません。
「姫殿下の手元は見通しが抜群で羨ましいです」
「ほっといてくださいません!?」
一々癪に障りますわ。
ちょっとお胸が大きいからといって。
「いきり茸とムラムラ草の上に刻んだサキュバスの尻尾を配置します」
脱線が多かったのですけど、いよいよ錬金術が始まるのかしら?
「魔力を注ぎ込み、錬成陣を起動……」
魔法陣にデカメロン様が魔力を注ぎ込むと、用意した素材は光に呑み込まれていきました。
これで完成するのかしら?
お胸が大きくなる副作用を持った秘薬が。
「これで完成なのです?」
「いいえ、今から効果を高める要素を付加します。姫殿下たちもご助力お願いします」
わたくしたちはど素人ですが、何を手伝うというのでしょう?
「錬成を待つ間に呪文を唱え、定められた儀式を行うのです。そうすることで妊娠効果が高まる性的機能活性化が付与されます」
錬金術って奥が深いのね。
いえ、稀代の錬金術師という彼女だからこそ効果付与までこなせるのでしょう。
「儀式は魔法陣を取り囲み行います。三人であれば確実に効果が付与されるので」
聞けばデカメロン様だけで儀式を行うと確率は三割。三人で行うと単純に三倍の成功率になると言います。
「効果[性的機能活性化]は二種類ございます。今回は女性用の儀式です」
女性を模した儀式を行うと、女性機能が高まる効果。つまりお胸もその一環で大きくなるという話みたいね。
「女性のシンボルを揺らします。こういう風に!」
「えええっ!?」
デカメロン様はたわわなそれを左右に振り始めました。
圧巻の光景です。時空が歪むほどに激しく揺れていたの。
「さあ、メイドさんも早く!」
「私もですか!?」
「恥ずかしがっていては失敗します。早く胸ダンスを!」
「わわ、分かりました!」
エマも揺らし始めます。
デカメロン様ほどではないにしても、エマも時空に干渉しそうなほどの揺れを引き起こしている。
「メイドさん、良いですね! さあ、姫殿下も早く!」
このようなゲスい儀式に参加しろと?
とても嫌な予感がする。この儀式はわたくしを辱めるためだけに行っているような。
「失敗しても良いのですか!? 世界の壁と呼ばれる板胸のままで良いのですか!?」
「そこまで卑下しておりませんの!!」
ああ、もう!
仕方ありません。先生が大きなお胸を好きなのだから、わたくしは恥を忍んで挑むだけだわ。
「揺れろぉぉ! わたくしも時空に歪みを!」
「姫殿下、タコ踊りでは失敗します! 胸ダンスだと言ったでしょう!?」
「やってます! お胸を揺らしているのですわ!」
やはり、わたくしを陥れる罠。二人して攻撃力のないわたくしのお胸を辱めていたんじゃない!?
五分ほど振り続けたでしょうか。デカメロン様の溜め息が聞こえます。
「まあ二人分でも六割の成功率。元より、垂直に切り立った崖である姫殿下には期待しておりません」
「なら、最初から二人でしてくださいな!」
「極めて無乳であることを失念しておりました。誠に申し訳ございません」
あとで覚えてなさいよ?
謝罪したとして、わたくしの尊厳は傷ついたままなのですから。
「絶望的に無い袖は振れませんものね?」
「言い直しても同じですわ!」
早く錬成が完了しないかしら?
ここに来ると、わたくしはナイフを抜きたくなってしまうの。
「次は呪文の詠唱です。これなら姫殿下でも可能でしょう」
「まだあるのですかぁ?」
わたくし、もう疲れましたの。体力的にも精神的にも。
「わたしの詠唱を真似してください。お二人とも復唱してくださいね?」
それなら大丈夫そう。ダンスは得意ですし、リズム感はある方ですの。
「さあ、行きます! ワンツー、ワンツーですよ!」
儀式の締めである詠唱文。まずはデカメロン様が口にします。
リズムはワンツーワンツーの一定であるようです。
「パンツー丸見え! パンツー丸見え!」
「ワンツーだと言いませんでした!?」
酷い詠唱文です。淑女であるというのに、おパンツ丸見えだなんて。
「妊娠薬だと言ったでしょう? この詠唱文を刻むことにより男性を誘惑する効果が付与されるのです」
「わたくしは副作用だけで良いのですけど!?」
「そこだけを切り離すことはできません。あくまで主たる効果に付加されているだけですから」
ここも仕方ないみたい。おパンツ丸見えの詠唱文を口にするしかありません。
「パンツー丸見え! パンツー丸見え!」
「「パンツー丸見え! パンツー丸見え!」」
先生に見せられた姿じゃありませんわ。しかし、これは先生のため。わたくしたちの未来をより良くするための儀式なのです。
「きました! 遂に完成しますよ!」
ようやく完成みたい。大変だったけど、全て報われるのよ。
輝きが消失した錬成陣の上に小瓶がありました。それこそが秘薬なのでしょうか。
「ちゃんと効果が付与されていますよ!」
手に取って確認するデカメロン様。恥ずかしい思いをした甲斐があるってものですね。
「わたしたち三人が頑張った成果。ああいえ、違いましたね……」
デカメロン様は首を振る。三人の成果じゃなければ、ご自身の能力だと言い張るつもりでしょうかね。
「2.0001人が頑張った成果です!」
「胸ダンスできなくて申し訳なかったですわね!」
わたくしも頑張ったというのに。
小数点以下の存在とされてしまいましたの。
非常に疲れましたが、完成して良かったです。
錬成陣から拾い上げたデカメロン様はニコリとして言うのでした。
「秘薬[最近、アレがこないの。責任とってくれる?]が完成しました」
ヤンチャンWEB等、各種電子書籍サイトにてコミカライズが連載中です。
そちらもお読みいただければ幸いです!




