34 エロ天使
「妾は天使になってしもうた……」
マジで!?
いや、確かに禍々しいエロさは消え失せ、真っ白で健全なエロさなっているけど。
「やはり俺の神聖さに負けて邪悪さが取り除かれてしまったのか」
「先生、凄いです!」
「アルフレッド様の正義感であれば当然ですね!」
エロシンパシーにて何となく確認できていたはずのエマさんにも姿が見えるようになった感じだ。もはや王城の誰もがインマーを認識している。
「主人殿……」
どうしてかインマーは俺に近寄り、耳打ちをする。
「強大すぎる闇に呑み込まれ、妾の悪は消し去られてしもうた……」
えっ?
強大すぎる闇って何だよ?
「お前の悪を消失させるほど、俺は闇属性だってか?」
「無論じゃ。凝縮した怨念にも似た漆黒の闇が妾を襲ったのじゃ」
凝縮した怨念だって?
それは一体何だっていうつもりだ?
「一つの人生では溜まりようがない鬱屈とした想い。途轍もなく積み重なった負の感情が妾を呑み込んだのじゃよ。つまり、暗黒と化した童て……」
「わーわーわー!!」
天使になっても油断できないとは……。
皆まで言うな。きっと、その暗黒は前世からの悔恨に違いない。
(童貞力が淫魔に勝ったのか……)
エロを養分とする淫魔に、前世から続く修行僧のような記憶は耐えられまい。それが淫魔をも呑み込む闇になっていたとは驚きだ。
「天使ならもう何も心配ないな?」
「それがスキル的には何も変わっておらん」
見た目だけ変わったってのか?
俺の童貞力はその程度の怨嗟だっての?
「浄化されたんだろ? 何か変化があるはずだぞ?」
「ちょいと待て。調べるのじゃ」
二世代に亘り募らせた想いが姿を変えるだけとは思えない。現状の俺が賢者的に強者であることも、それが原因なのだから。
「むぅ、エロイム・エロッサイムという呪文を習得しておるのじゃ」
「天使とは思えない呪文じゃん……」
元が淫魔だからか、天使になってもエロ要素を残すみたいだ。それは仕方ないとして、どのような呪文を習得したのだろう。
「これは使えるのじゃ!」
マジで?
エロエロな呪文名だが、内容はまともなのかもしれない。
「衣服の下を透視できる呪文じゃ!」
「使えねえよ!!」
期待した俺がバカだった。衣服を透視する呪文だったなんて。
いや、待てよ?
俺はインマーの主人。インマーに力を分け与える対価としてフィードバックがあるのかも。
「おいインマー、お前のスキルを俺が使うことってできる?」
「契約したのじゃぞ? 妾を介して主人殿も使用できるのじゃ」
それは素晴らしい。
意味のないゴミスキルかと思いきや、俺も使用できるのなら話は異なる。
エロイム・エロッサイムさえあれば、見逃した姫様の秘部やリアーナの山頂を拝むことができるってもの。
「アルフレッドよ、天使になったのなら何も問題はなさそうだな?」
密談する俺たちに王陛下が言った。
何も問題ございません。心配するようなことは何一つとして。
「天使は女神信仰の柱です。今や聖教会が保護を申し出る可能性すらございます。王城にてインマーを手厚く持て成しておけば良い話が舞い込むやもしれません」
「おお、なるほど! 聖教会にまたも恩を売れるというのだな!?」
「その通りでございます」
完璧すぎる。
王国が面倒を見て、俺は前世からの疑問を解決できるのだ。謎の光に邪魔されない桃源郷へと辿り着けるはず。
「エマ、インマー様を最上級の貴賓室へご案内しなさい」
「王陛下、ならば殿下の寝室の隣となりますが……?」
「女性であるし、そこで問題ないぞ」
何とインマーの部屋は貴賓室に。しかも姫様の私室と隣り合わせ。透視の呪文を使うには好都合じゃないか?
(気合いで重ねがけすれば、壁越しに透視できるんじゃ?)
淫夢を見てから俺はおかしいのかも。
いや、もっと前か。やはり俺は前世の記憶に導かれているような気がする。
(うむ、気合いで壁ごと透視して見せよ!)
ちょま!
インマーの奴、俺の心を読みやがったのか?
(契約従魔じゃからの。念話だけでなく、思考も読み取れるのじゃ)
(マジかよ……)
「それではインマー様、ご案内いたします」
エマさんがインマーを部屋まで案内するという。
本来なら俺もついて行くべきだが、従魔になったことで危険度は低下している。
俺も疲れているし、そろそろ休ませてもらおうかな。
「良きに計らえ! 妾が大天使インマーじゃ!」
調子に乗りやがって。何が大天使だ?
ついさっきまで淫魔だったくせに。
「インマー様!」
「インマー様ぁぁっ!」
大歓声に迎えられ、インマーが王城へと入っていく。
さてと、俺は自室で眠るとするか。
「アルフレッド先生!!」
歩き出す俺を呼び止める声。それはずっと気になっていた人であった。
「姫様……」
「あの……お帰りなさいませ!」
そういや俺はサキュバスの尻尾を持ち帰ったのだっけ。インマーは天使になってしまったし、物品についての文句かもしれない。
「ご依頼の尻尾はここに。予め斬り落としていて良かったです」
「それは有り難いのですが、その件ではないのです」
んん?
依頼されたのはサキュバスの尻尾だけだ。今さら他のアイテムが欲しいと言われても困るのだけど。
まあそれで姫様は予想もしない話を切り出すのだった。
「わたくしは先生にお会いしたかった。今日という日が待ち遠しかったのです」
えっと、それってどういう意味?
サキュバスの尻尾が早く欲しかったってことかな?
「ですから、サキュバスの尻尾は……」
「その件ではないと言っております!」
サキュバスの尻尾じゃない?
だったら何だ? 待ち遠しいってどういう意味?
「もしかして俺に会いたかったのですか……?」
姫様に限ってデレるとか考えられない。
それでなくとも教育係と姫様の相性は最悪なんだ。
「わたくしはそうお伝えしました」
ムッとした表情。察しが悪いのは謝るしかない。だけど、予想すら困難な話なのだし、俺のせいじゃないと思う。
「一ヶ月もお会いしていない。毎日、女神様に祈りを捧げました。先生が無事に戻られるようにって……」
確かに出発前に聞いたけど、本当に祈ってくれたのか?
ドSな姫様が俺の無事を?
「この通り無事に。フローリス様の加護があったのかもしれませんね」
「そう思います。わたくしの願いは叶いましたわ」
いつになく、しおらしい。
このところ隙あらば拷問にかけていた姫様とは別人のようだ。
「わたくしには貴方様が必要なのです」
俺は聞かされるだけだ。姫様がお考えになっていることを。
「輝かしい未来。薔薇色に彩られた日々のために」
まるで告白のようだった。
姫様が俺を必要としている。またそれは俺も意識し始めたことであった。
「本気ですか……?」
「以前と変わらず。益々、その想いは強くなっております」
何てことだろう。
俺たちが結ばれる未来などない。王子殿下でも存在していたならあり得たかもしれないが、生憎とグリフィス王国に後継者は姫様しかいないのだ。
「心から願えば必ず成就する。わたくしはそう考えております」
追加的な話に俺は思い直していた。
そういえば達成が困難な願望を姫様は思い描いておられる。その夢を成就させるために俺が必要らしい。
よくよく考えると、姫様は聖女の座を欲しておられたのだ。
(思い過ごしか。少し残念なのはどうしてだろうな?)
そもそも願ってはいけないものだ。
俺と姫様には明確に身分差がある。それは姫様も承知しているだろうし、彼女の願いは聖女として聖教会を乗っ取ることに他ならない。
「承知しました。俺はできる限りやってみるつもりです。ただし、状況は良くありません」
あろうことかダニエルがリアーナに恋してしまったんだ。
俺がリアーナを暗殺しようものなら、彼との関係は瞬く間に破綻し、再び『教育係を殺す』の選択肢が表示されてしまうことだろう。
「分かっております。ですが、その上でお願いしておりますの。わたくしの気持ちを察していただきとうございます」
「可能な限り手を尽くす所存です。王国のためであれば……」
「当然ですの。わたくしだけでなく、王国のためでもありますから」
やはり聖教会を乗っ取る話みたいだ。若しくは帝国まで牛耳るおつもりだろう。
世界的な影響力と数多の僧兵を手に入れたのなら、ヴァルディア帝国も強気には出られなくなるはずだし。
「一応は俺も動いておるのですよ。毒物の研究もしておりますし。せめて楽に逝けるようにと」
取り寄せた毒物は表向き耐性を得るためだが、真相はティアナ殿下の暗殺に使用するためだ。
「先生、最悪の場合は想定しないようにしてください。わたくしは(無理心中とか)望んでおりません」
「堂々と表立っては難しいでしょう? 俺たちの目的は人知れず遂げるべきです」
「確かに表立っては(デートすら)できません。でも、先生のお力なら(身分差は)何とかなると存じますの」
難しいことを命じられるものだな。
姫様の野望を遂げるため暗躍できるとすれば俺しかいない。何だかんだ言って、姫様は俺を信用しているのか。
「分かりました。全ては姫様のために……」
「わたくしたちのためですわ。お忘れなきよう願いますの」
姫様は報酬を弾んでくれるようだ。
まあ、アサシンでもない俺に暗殺依頼をするのだし、白金貨単位の報酬であっても驚かないけど。
「承知しました。まあ本日は休みます。流石に疲れましたので」
「静養してくださいな。急ぐ話でもありませんし」
それもそうか。
計画的に行うべき案件であって、急いだとして成功確率が下がるだけだ。
だったら俺は充分な睡眠を取ることにしよう。
姫様の無理難題に応えるために。
ヤンチャンWEB等、各種電子書籍サイトにてコミカライズが連載中です。
そちらもお読みいただければ幸いです!




