33 帰還
一ヶ月ほどが経過し、一報はもたらされました。
アルフレッド先生が帰ってきた。聖教会の行軍は大成功を収め、王都へと戻ってきたのです。
「お父様、アルフレッド先生は!?」
「落ち着きなさい。聖教会への報告が先だろう。もう直ぐ戻って来る」
溜め息を吐くお父様。わたくしはこんなにもヤキモキしているというのに、どうして伝わらないのかしらね。
「殿下、アルフレッド様が戻られたそうです!」
ここでエマが知らせてくれました。待ちに待った吉報といえる話を。
「エマ、出迎えに行きましょう!」
わたくしとエマは無作法にも廊下を走り、到着されたばかりの先生を出迎えます。
「アルフレッド先生!!」
大きな笑顔を向けて。
わたくしは自然と声を張り、表情を和らげていたのでした。
◇ ◇ ◇
やれやれ、ようやくと王城に戻ってきた。
聖教会でも歓待を受けたので、王城では静かにして欲しいところだ。
「アルフレッド様ぁぁっ!」
「おかえりなさいまし、アルフレッド様!」
メイドや執事たちも拍手で迎えてくれる。行軍を成功させた俺の帰還を喜んでくれていた。
(マジでインマーの姿は見えないのか)
俺の隣を飛ぶ淫魔。だが、誰一人として気付いた素振りはない。
聞けばダニエルには見えるらしく、どうも精気を吸われた者には効果がないようだ。
『妾の隠密スキルはなかなかのものじゃろ?』
「ああ、これなら問題なさそうだ」
ダニエルを操ったとして、姫様に見つかってしまえば淫魔など速攻で八つ裂きにされてしまう。王城で生活するのなら、隠密は必須スキルであるはずだ。
「よくぞ戻った。アルフレッド、褒めて使わす」
出迎えてくれた群衆の中に王陛下までいるじゃん。またその隣にはエマさんやソフィア殿下の姿まであった。
(姫様……)
淫夢のソフィア殿下は少し大人びていた。眼前の姫様に妖艶な雰囲気はなかったものの、向けられた笑顔は最後に見たものと何も変わらない。
「アルフレッド先生、お疲れさまでした! わたくし、毎日女神様に祈ったのですよ?」
悪戯な笑み。記憶と重なるその笑顔は俺の感情を震わす。
けれど、俺は自制するべきだ。未来は決まっている。姫様とダニエルが婚約をし、姫様は彼の子を孕むだけ。
ドMルートを突き進むしか俺の未来に平穏は訪れないのだから。
「何てことはない任務でした。明日からは授業を再開致しますので」
「よろしくお願い致しますわ。本日はゆっくりご静養されますよう」
戻って早々のドS成分はないようだな。このところドSが覚醒して散々な目に遭っていたから、この対応は割と意外に思う。
「ところで、先生の隣に浮かぶ魔物は友好的なのでしょうか?」
「うむ。儂も気になっておったのだが……」
マジですか?
姫様だけでなく、王陛下まで隠密スキルが効かないってのか?
「おい、インマー……?」
『ううむ、由緒正しい血筋なのか? 妾も驚いたぞ……』
そういや、グリフィス王家は勇者の血を引く家系だった。今も残る勇者の血がインマーの隠密スキルを看破したのだろう。
(元は悪魔だしな……)
倒魔の勇者伝説。眉唾物の伝記なのだが、インマーのスキルを看破できたのだから、誇張した内容ではないのかもしれない。
「こいつはサキュバスの女王インマーです。いわゆる夢魔。実は隠密スキルを使用しておりますが、王家の血筋には見えるようですね。戦闘力はありませんので安全です」
「インマーじゃ! 妾はか弱いサキュバスなので見逃してくれい」
眉を顰める王陛下。流石に堂々と王城に入り込むのは許可できないのだろうな。
「お父様、良いではないですか。戦闘力はないと先生の保証もございますし!」
難航するかと思えば、姫様が味方をしてくれる。既に依頼の尻尾は斬り落としたのだけど、それは黙っておこうか。
「王陛下、インマーは悪魔教に囚われていたのです。彼女は悪魔教について知っているかと思います」
「おお、それで連れ帰ったのか! 脅威がないのなら問題ない。アルフレッド、お前がちゃんと管理するのじゃぞ?」
「お任せください!」
実をいうと百人からミイラにした害悪なのだけどな。とはいえ、見た目はセクシーギャル。王陛下には気付けないことだろう。
「殿下、そこに何がいるのです?」
「エマ、見えないの?」
エマさんが姫様に聞いた。勇者の血を持っていない彼女には何も見えないようだ。
「カッカ! 凡庸な娘に看破されるはずがないのじゃ!」
「あっ! 何か声が聞こえたような? そういえば薄らと浮かび上がってきました!」
「なんじゃとぅ!?」
本気か? 仮にもインマーはサキュバスの女王なのだけど。
エマさんは侯爵家だし、過去に王家との繋がりがあったのかもしれない。
「お前の隠密って誰にでも見抜けるじゃん……」
「違うのじゃ! 恐らくエロ共鳴じゃ!」
何だソレは……?
妙な単語を創造して誤魔化そうとするな。
「そこのオナゴたちはかなりエロ度が高い……」
「マジで!?」
そこのオナゴたちとは姫様とエマさんを指すはずだ。二人ともがエリートエロだなんて信じられん。
「ダニエルよりも高いぞ。赤い服のオナゴは99。エプロンのオナゴもまた99じゃ!」
姫様はゲーム内ヒロインであり、それがエロゲーなのだからまだ分かる。
しかし、ゲーム内に名前が出てこなかったエマさんまでエリートエロなのだとか。
(アサシンに美味しく料理されちゃったから!?)
エマさんは経験者になった。アサシンに調理された結果、エロ度が爆上がりしたのだと思われる。
「妾とエロ共鳴を起こすなど、史上稀に見るエロ女に違いないぞ!」
「あっ、全然見えなくなりましたの! 何も聞こえません!」
「私も気のせいでしたわ! オホホホ!」
今さらに取り繕う二人。いや、貴方たちは超絶エリートエロだと既に判明しているのですけど。
「この世界ってエロしかいねえのか」
「それが正常な状態なのじゃて。エロマインドとエロマインドがエロシンパシーを引き起こすのじゃよ」
「何にでもエロを付けんなって」
めちゃ疲れてきたぜ。使えるかと思って連れ戻ったけど、疲労度が倍になったような気もする。
「エロは世界を救う。むしろ世界はエロに救済されるのじゃ!」
そんなに力説しなくても。ま、エロが世界を形作ったことは俺にも分かるけどな。
「しかし、こうも看破されると連れて歩けないな」
他にもエロ共鳴する人間が現れるかもしれない。騒ぎとなる前に手を打つ必要があった。
「ならばアルフレッド、妾と契約しろ」
「はぁ? 契約って従魔契約か?」
俺はテイマーじゃない。だけど、既に意思確認をしている魔物だし、問題ないのかも。
「契約したのなら、側にいなくても召喚できるじゃろ。妾は屋根のついた部屋でも与えられたらそれでよい」
四六時中見張るわけにもいかない。確かにメリットはあるのかも。
「あと契約後は離れていても精気を吸うことが可能! 妾も腹を空かせる心配がないのじゃ」
「吸い過ぎるなよ?」
「分かっておる! 美味で貴重な童て……」
「わーわーわー!!」
油断するとこれだ。やはり殺しておくべきか。
アヘ顔ミイラになるなんて御免だし、遠隔で吸い過ぎたのなら、わけも分からず死ぬことになるし。
「契約で全て解決できる! 従魔は主人を殺せん。危害を加えられんのじゃ」
「でも、従魔契約って主人の能力によって強化されるんじゃ?」
テイムした魔物は主人の力を共有し、パワーアップするはずだ。場合によっては進化したりするって書物に載ってたけど。
「アルフレッドの能力か……。さぞかし甘美なのじゃろうな?」
超絶ハンサムで超天才の能力がマズいはずはない。神にも匹敵する力なのだから。
「お前の属性は闇だろう? 俺は確実に光属性だぞ?」
属性は調べようがないけれど、神聖魔法まで使いこなす俺は光属性に違いないのだ。元悪魔というサキュバスが俺の属性に馴染むとは思えない。
「やってみないことには分からん。それに妾がパワーアップしない方が王国的には良いのではないか?」
ま、確かに。命令に背けなくなるだけでも助かるし。
「アルフレッドよ、危害を加える心配がなくなるのだ。契約したらどうだ?」
ここで王陛下が賛成と口にした。
仕方ない。王陛下の意見を無下にするわけにもならないからな。
「分かりました。どうなっても知りませんよ?」
悪魔王に進化したとして、俺の責任ではない。王陛下が契約を勧めたのだ。超天才の俺が秘める力。過小評価したのは俺じゃない。
「どうやって契約する?」
「魔力を注ぎ、テイムと口にするだけで良い。妾が受諾すれば契約完了じゃ」
「分かった。行くぞ?」
少量の魔力をインマーに流し、俺は聞いた通りにテイムを実行する。
「サキュバスの女王インマー! テイムに同意しろ!」
「承知したのじゃ!」
緊張の一瞬。承諾のあと、俺の手の平から発せられた輝きがインマーを包み込む。
「ぎゃああああっ!?」
目も眩む煌めきとインマーの絶叫が轟く。
やっぱ俺って光属性だろ?
現実にインマーの闇が光を拒絶しているわけだし。
しばらくして輝きが消失し、そこにはインマーがへたり込んでいた。
だが、予想と違う。
インマーの姿はエロエロな黒いレオタードではなく、エロエロな白いワンピースになっていたんだ。それどころか、翅も純白に変化していた。
全員が絶句する中、インマーがポツリと呟く。
「妾は天使になってしもうた……」
ヤンチャンWEB等、各種電子書籍サイトにてコミカライズが連載中です。
そちらもお読みいただければ幸いです!




