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27 ダニエルの弁明

 王城へ戻った俺は姫様の授業を終えて、執務室へと来ていた。しかし、業務を始めるよりも早く、扉がノックされている。


「師匠!」


 返事をする前に現れたのはダニエル。

 えっと、筆下ろしに失敗した件なら俺に責任はないぞ?


「ダニエル、お前は段階を踏んでだな……」


「段階は踏んでます! 僕はリアーナ連峰に挑む勇者なんです!」


 リアーナ連峰だって?

 こいつは何を言っているんだ?


「童貞は妄想力が過剰。それをそのままぶつけるな。だからお前は受け入れられない」


「いえ、彼女は僕の想いを真剣に考えてくれるはずです!」


「しかし、いきなり告白するかぁ?」


「本気なんです! 僕には彼女しかいません!」


 断られたせいで告白したのかと思ったが、どうやら苦肉の策ではないらしい。

 完全に魅せられてしまったようだ。巨大な完熟メロンに……。


「師匠、僕は思うのですよ……」


 ダニエルが語り出す。

 結論に至った理由について。


「巨乳は世界を救うんじゃないですかね?」


 ああうん、ダメだこりゃ。

 ダニエルもまたプレイヤーと同じように、聖女の乳袋に魅せられてしまったのだという。


「ダメだ! お前は姫殿下の王配となるべき!」


 絶対に却下だ。

 もし仮にダニエルがリアーナと結ばれてしまうと、他の上位貴族が姫様の相手に名乗りを挙げるだけ。その場合にも俺は教育失敗を咎められるのだから、ドMの素質が備わるダニエルしか認めるわけにはならない。


「嫌です! 僕はリアーナ様に決めました!」


「許さん! ライオール公爵様にどう報告するつもりだ!?」


「ぐっ……それは……」


 王配に収まることを期待されていたのだろう?

 お前は父上の期待に応えるべきだ。


「悪いことは言わん。リアーナも交際まで望んでいない」


 エロ聖女は千本斬りなんだ。

 お前は千分の一でしかなく、特別な一本となる資格はバリスタ級の名刀を所持している助祭君だけなのだよ。


「そうでしょうか? 僕は諦めきれない……」


 ここまで心酔する理由はなんだ?

 ひょっとして、ダニエルは完熟スイカを拝むことができたんじゃ?


(行為の直前でド変態要求をした?)


 直視したからこその執着。リアーナ連峰とかいう意味不明な発言も理解できる。


(俺は見たことがないからな!)


 生で拝むその果実。食せなかったことを後悔するには充分なのだろう。

 つまり手に入れて食い散らかしたいとダニエルは思った。果汁まみれになりたいと考えたはずだ。


「ダニエル、お前は何を見た?」


 確認しておかねばならん。後学のため……いや、ダニエルの師匠として!


「ぼぼ……僕は……」


 俺の質問に言葉を詰まらせるダニエル。やはり童貞には過ぎたものを見てしまったらしい。


「薄もやで霞むリアーナ連峰を見ました……」


 相変わらず表現が独特だけど、天才の俺には分かる。

 巨大な二つの果実を双子山に見立てているってことくらいは。


(てことは爆乳を拝んだのか!?)


 許せん……ああいや、羨ましい。俺は謎の光で覆われたスチルしか見ていないってのに。


「薄もやだと……?」


「新雪が降り積もる大地。その頂は遠く霞み、差し込む後光は僕を惑わす」


 要約するとリアーナの素肌は新雪のように真っ白で、謎の光によって天辺は見えなかったってことだろうな。


(リアーナは謎の光の使い手だし)


 やはり法衣を脱いだとして俺が知るスチルと変わらないようだ。ならばダニエルは俺と同じ経験値しかないってことだな。


「ダニエル、リアーナの秘部は鉄壁のスキルにて守られているんだ。童貞が手を出して良い人じゃない」


「でも、僕はもうリアーナ様しか……」


 困ったことになった。せっかくダニエルはドMの道を歩み始めたというのに、爆乳ルートしか視界に入っていないという。


「姫様も爆乳に成長あそばされるかもしれんぞ?」


「無理ですよ! 姫殿下は既に成人しているんです! どう足掻いても羊たちが鳴く牧歌的な丘にしかなり得ません! 僕は登山家なんです!」


 とんでもない不敬を聞かされてしまった。まあ、俺もその意見には同意だけども。


「師匠が姫殿下と婚約すれば良いのですよ!」


 こんなに意見を口にする人間だったのか?

 言うに事欠いて俺が姫様と婚約だなんて。


「ダニエル、言うじゃないか?」


「僕はリアーナ様の一件で天恵を獲得したのです。精神力(神級)ですからね?」


 マジで? 主人公補正ってやつ?

 神級の精神値を獲得してしまうほどにリアーナの果実は衝撃的であり、ダニエルがその収穫を待ち望んでいるってか?


「いや、俺と姫様では身分差がある。ライオール公爵様も反対するはずだ」


 もしも俺が公爵家の人間であれば引き受けただろう。俺にはハイヒールがあるし、毒物もハイピュリフィケーションにて回避可能。何より俺はドSな姫様が好きなのだから。


 だが、俺は教育係に転生してしまった。姫様との相性は最悪なんだ。


(俺はまだ未使用の名刀を斬り落とされたくない!)


 ゲームは姫様を孕ませたらクリアとなる。主人公ダニエルは婚約者なので、いつでも夜の営みに誘うことが可能だ。


 しかし、姫様の好感度がMAXになっていないと、


『貧相なソレでわたくしを刺す? 粗末なモノは斬り落として差し上げますの!』


 とイチモツを斬り落とされてバッドエンドを迎える。もちろん教育係もとばっちりを受け、なぜか断頭台へと送られるのだ。


(俺が姫様と夜の営みなんて絶対に不可能!)


 死の接吻を受けた俺が夜の営みに誘えるはずもない。新品未使用の名刀を根元から斬り落とされるだけだっての。


「お似合いだと思いますけど?」


「バカ言うな。姫様の相手はお前しかいない」


 なぜか心が痛む。いや、当然かもな。

 俺は生き残るために、本心を欺いて動いているのだから。


 それにダニエルがリアーナを落とせるとは思えん。リアーナは既に権力者だし、公爵家といえども興味を示さないはずだ。


「リアーナは俺のことが好きみたいだぞ?」


 禁断の一手を繰り出す。

 先に攻略してしまったんだ。過度に憚られる話であったけど、ダニエルが諦めてくれるのならと。


「大歓迎です! 師匠も一緒に登頂しましょう!」


「マジで!?」


 ダニエル、お前はどこで性癖をそんなにもねじ曲げてしまったんだ?


(NTR属性まで獲得するなんて……)


 一緒にプレイするなんて絶対に拒否する。

 いざというとき、



『師匠、登山口も知らないのですかぁ?』


 とダニエルに呆れられ、


『貴族院では男の嗜みまで学べませんからね? ぷっ……』


 と見下されてしまうじゃないか!



 そんなの絶対に無理! 弟子に馬鹿にされるとか俺のプライドが許さんって!


「ダニエル、とにかく姫様と婚約しろ。リアーナは愛人枠にしておけ」


 そもそも、それが正しい形なんだ。リアーナで経験値を貯めて、姫様に挑むべき。


「愛人とかリアーナ様に失礼ですって!」


「愛多き女だぞ? 縛り付ける方が失礼だ」


「分かってますけど、僕なら真実の愛を届けられる!」


 ダニエルの新属性的に兄弟(助祭たち)が大量に存在することもご褒美だろう。

 俺は新たな生存ルートを模索する時期に差し掛かっているのかもしれない。


「ならチャレンジしてみろ。言っておくが、レポートは必須だからな?」


「分かってます! 偉大なる頂に挑戦した道程を詳しく書き綴ればいいのですね?」


「その通りだ。リアーナは謎の光の使い手。強い意志でもって看破しろ」


 ダニエルの主人公補正であれば、謎の光を突破する天恵を得られるかもしれない。


 俺は新たな生存ルートの模索に入る必要はあるけれど、ダニエルのレポートは命と同じくらい価値があるはずなんだ。


(前世では魔法使いやら賢者やらと罵られたからな)


 童貞で終えた前世。三十歳童貞で魔法使いであり、五十歳童貞で賢者だっけ?

 奇しくも転生した俺は攻撃魔法も回復魔法も使いこなす賢者となっている。


(次の転生も賢者とかシャレにならん)


 姫様には手が届かない。だったら、ダニエルのマル秘レポートによって、俺はエマさんを攻略してみようか。彼女なら謎の光を使わないし、何よりエマさんは巨乳である。


「ダニエル、やはり巨乳は世界を救うのかも……」


「師匠もそう思いますか! 絶対に世界を救うのは巨乳ですって!」


 この人生を輝かせるには謎の光の向こう側へ行かないと。断頭台の恐怖は依然として残るけれど、無念を覚えた前世に報いるべきだ。


「確かに希望に満ち溢れている。無いよりも有るを選ぶべきか」


 今の俺があるのは前世の俺がいたおかげ。彼が存在しなければ、今頃は姫様に刺し殺されていたはずだ。


「俺は彼の意思を尊重しなければならない」


 死ぬまで童貞だった前世の俺。その無念は想像に容易い。

 だったら俺は彼に報いるべき。ただ生を繋ぐだけでなく、男の本懐を遂げてこそ、彼は成仏できることだろう。


 エマさんを攻略し、前世にはなかった華々しい人生を謳歌する。ダニエルが死地に赴き入手した情報によって。


 マル秘レポートを読破した後であれば、エマさんもきっと驚くだろう。



『ああん! アサシンとは全然違いますぅ!』


『エマ、まだまだこれからだ!』


『超絶エリートハンサムのアルフレッド様ぁぁっ!!』



 と身悶えることだろう。

 うん、天才の俺だから、恐らくこの未来に到達してしまうな。


「ダニエル、お前が挑む頂は天高くそびえ立つマウンテン。覚悟はできたか?」


「師匠、承知の上です。たとえ酷い高山病になろうとも、僕は歩を止めない。頂上を目指します!」


「よくぞ言った。それでこそ我が愛弟子。ならば俺も見習うとしようか」


 弟子が勇気を振り絞るというのなら、俺もこの身を差し出そう。よって、ダニエルに伝えるのは俺の意気込みだけ。


「今日から俺も山を愛する登山家だ──」

ヤンチャンWEB等、各種電子書籍サイトにてコミカライズが連載中です。

そちらもお読みいただければ幸いです!

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