23 紅雪が舞い散る夜に
投擲のスキルは発現したものの、ナイフはど素人です。使用するのは王城で襲われて以来でした。
(刺したり斬ったり経験するべきでしたわ)
[※拷問しましたよね!?]
「嬢ちゃん、そんなへっぴり腰で戦えるかな?」
「頭領、捕まえたら好きにして良いのですよね!?」
「もちろんだ。死んだ奴らの分も楽しめ」
一斉に襲いかかってきました。
へっぴり腰でも構わない。わたくしはナイフを振るだけよ。
使い手は素人でも、このナイフはドワン親方謹製。切れ味は違いましてよ?
「えええい!!」
先頭の男性に突きつけていました。
相手が殺そうとしていないのは助かります。わたくしは回避に囚われることなく、攻撃できたのです。
けれど、多勢に無勢。わたくしは下がる一方であり、気付けば壁際まで追い詰められていました。
「えええいっ!!」
下がりつつも攻撃を繰り出す。だけど、刃長の短いナイフでは投擲のような威力を発揮できません。
「ここまでなの……?」
流石に無理です。
怪我を負わせることはできても、わたくしのナイフでは仕留めきれない。現状は抵抗でしかなく、時間稼ぎにも等しいものでした。
諦めかけた直後、わたくしの脳裏に声が届きます。
それは予想だにしないこと。一縷の希望をもたらせる福音に他なりません。
『ナイフ使い(神級)を習得しました』
◇ ◇ ◇
街道を戻った俺たちは近衛兵たちの死体を発見していた。
「やはりアサシンの仕業か……」
見事に首筋を斬られている。全員が声を上げることなく始末された感じだ。
「アサシン? 殺し屋が無乳……殿下を攫ったのですか?」
「この手際の良さはアサシンに違いない。王陛下も使えない近衛兵を付けたものだな」
近衛兵が気付いておれば大虐殺は避けられたというのに。
「アルフレッド様、轍を発見しました。姫殿下の馬車は南に向かったようです」
「南か……」
南側は物騒だと聞く。
カインズ共和国の議会は解放軍という名の悪党共に乗っ取られ、無法地帯と化したらしい。
「南といえば共和国は滅びたのでは? 聖教会でも支部と連絡がつかず、問題になっております」
「らしいな。恐らく姫様を連れて行こうとしたのだろう」
「だったら、王女殿下にあんなことやこんなことをさせるつもりでしょうか!?」
性女モードをやめろ。それに俺は言ったはずだぞ?
「誰の企みか知らんが、奴らは猛毒を呑み込んだ。もしも連行に成功したのなら、今度は解放軍が壊滅するだろう」
俺の言葉にリアーナは思い出したのか、小さく頷いた。
「そういえば強者でしたわね……」
「ああ、姫様は狂者なんだよ」
問題ごとが片付いて良いことずくめであったが、姫様が攫われたという事実が重い。
俺の責任になるのは明らかであり、国境を越える前に俺は姫様を救出しなければならなかった。
「急ぐぞ……」
「承知しました」
俺たちは発見した轍を辿っていくことに。
結果は分かっていたものの、懸命に馬を走らせていく。
◇ ◇ ◇
『ナイフ使い(神級)を習得しました』
女神様の声を聞いた。
幾度となく突き刺した結果として、ナイフ使いというスキルを授かっていたのです。
『姫ならば素質はピカイチです』
先生はどこまでお見通しなの?
得られたスキルは最高ランク。世界でも数人しか所有者がいないという神級だったのです。先天的な才能がなければ決して得られないものでした。
「アハハ……」
「嬢ちゃん、どうした? 大勢を相手にする決心がついたか?」
もう負ける気がしませんの。
先生と女神様、ありがとうございます。おかげさまで、わたくしはエマの操を守ることができそうですわ。
「ええ、まあ……」
「それは良いことだ。抵抗したとして無駄だからな!」
まるで子犬が吠えているかのよう。既に先ほどまでと立場は違いましてよ?
「大勢を相手に立ち回って見せますの!」
これがわたくしの決意。女神様の加護の力を見せつけてあげましょう!
「でやあああっ!!」
自然と身体が動く。これが天恵の力?
女神様がわたくしに生きろと指示されているみたい。
「ぬお!? 手加減していたのか!?」
「あら? わたくしは今まで通りでしてよ?」
ここは一気呵成に。天恵を得たことを悟られてはなりません。
瞬く間にわたくしは部下という男性たちを斬り裂く。小屋には死体の山ができていました。
「王女を攫うだけの簡単な仕事じゃなかったのか……?」
「どうかしらね? わたくしは悪を許さないのですよ」
わたくしは声を張る。これは虐殺ではない。正当な行為であるのだと。
「崇高な意志を継ぐ者として!」
負ける気がしませんの。
残すところは一人だけ。先生に頂いたナイフであれば圧倒できるはず。
「クッソ……」
頭領もまた剣を抜く。
どうやら、わたくしを生かそうというつもりはなくなったみたい。
「死ねえええ!!」
剣戟は王城で襲われて以来です。しかし、あの頃よりも、わたくしはずっと落ち着いていました。
(ナイフの扱いなら絶対に勝っている)
相手をよく見る。
無闇に突っ込むのではなく、相手の攻撃に合わせたらいいの。
「簡単に死ねるような身分ではありませんの!」
わたくしには守るべき国民がいる。
そして何より大切に想う人が……。
「見えましたわ!!」
振り下ろされた頭領の剣。わたくしはナイフでそれを受け止めています。
「ぐぬぅ!?」
「わたくしのターンですの!」
頭領の剣をいなし、わたくしは踏み込む。彼の懐に入るや、思い切りナイフを突き刺しています。
「ぐああああっ!?」
そのまま体当たりをすると、頭領は尻餅をつきました。
「覚悟ォォッ!!」
トドメを刺そうと馬乗りになったそのとき、
「姫、お止めください!!」
わたくしを制止する声がしたの。
やはり、わたくしを追って来てくださった。わたくしは嬉しくなり、制止されずともナイフを振り下ろせなかったことでしょう。
「アルフレッド先生っっ!!」
「ワームバインド!!」
先生の拘束魔法が頭領を縛り付ける。それは緑色をしたスライムのような縄でした。
「姫様、無闇に悪漢を殺してはいけないと申したでしょう?」
そういえば最初に聞いた気がするわ。背後関係を吐かせるために生かして捕らえるのだと。
「でも、怖かったんです!」
「ま、次からはお願いしますよ?」
先生は呆れたような顔をしています。やはり、やり過ぎたのかもしれませんね。
「少しは褒めてくださいよ?」
かといって、わたくしにも主張がありますの。
エマを守り切った。加えて、悪漢たちを一人で殲滅したのですから。
「よく頑張りましたね。想定内ですけれど」
先生はわたくしの活躍を予見していたかのよう。更なる天恵を得ることまでお見通しだったのでしょうか。
流石です。アルフレッド先生……。
◇ ◇ ◇
森の中にあった小屋へと踏み込んだものの、俺は絶句していた。
おびただしい死体の山に充満する血の臭い。まさに俺が危惧していた状況となっていたんだ。
「姫、お止めください!!」
呆然としている暇はなかった。
今まさに姫様が馬乗りとなって、最後のアサシンを葬り去ろうとしていたのだ。
即座に拘束魔法を使用したけれど、姫様は合法殺人を止めてくれるだろうか?
「無闇に悪漢を殺してはいけないと申したでしょう?」
「怖かったんです!」
姫様は今更ながらに取り繕う。二十人以上を斬り裂いたあとでは信憑性がないっての。
「少しは褒めてくださいよ?」
「よく頑張りましたね。想定内ですけれど」
現状は予想通り。アサシンたちはこの仕事を後悔したはずだ。自ら爆弾を懐にしまい込んだのだし。
とりあえず、イベントは完遂。二人が無事ならそれで……。
って、えええっ!?
「エマさん!?」
部屋の隅に素っ裸のエマさんがいたんだ。
その理由は想像に容易い。オマケで手に入ったメイドなど、あんなことやこんなことを命じられたに違いない。
(マジか。エマさんまで経験者になってしまうなんて)
身分的にも相応しく、未経験の女性。俺は密かにエマさんならと期待していたのだけど、残念ながらアサシン共に穢されてしまったらしい。
「アルフレッド様……」
悲痛な声。いや、本当に残念です。
婚約しても良いかと考えていたけど、エマさんはもう……。
『エマ、愛してるよ……』
初めての夜。それは甘美な時間になるはずだった。
『アルフレッド様、どうしたのです?』
『ああいや、その……』
そのとき俺は硬直するだろう。戸惑って、どうすれば良いのか分からない。
『アルフレッド様、そこではありません!』
『違うのか!?』
ただでさえエマさんはアサシンを取っ替え引っ替えしている。よって、俺の失態を見逃すはずもない。無力な俺に長い息を吐くことだろう。
『アルフレッド様、別れましょう』
『そんな! エマッッ!!』
『殺し屋よりも使えない童貞だったとは……』
寝室を出て行くエマさん。百年ローンで建てた家から捨て台詞と共に去って行く。
『これでも私、経験人数は二十人ですから』
あ゛あ゛あ゛あ゛っ!
もうダメだ。二十人からいたアサシンと楽しんだエマさんの相手など俺には不可能。
間違った行為をして嘲笑されるはず。俺の矜持心はズタボロにされてしまうんだ。
「エマさん、怪我はないですか?」
残念だが、エマさんはもう……。
儚い恋だったのかもしれない。
「アルフレッド様、(襲われる前でしたから)私は大丈夫です」
「気高いのですね。心中お察し致します」
俺は一生独身なのかもな。来世も賢者が確定じゃないか。
姫様は手の届かない人だし、エマさんは上級者になってしまったし。
(上着を貸すべきだよな?)
一糸纏わぬ姿のエマさん。俺は上着を貸す用意があるけれど、乳房を隠す手が受け取るときに離れるんじゃないか?
(謎の光に遮られた秘部へと俺は辿り着くのか?)
PCゲームだが、『姫様、ご乱心!』は肝心な部分が全て謎の光で隠されていた。
魅惑の果実にある美味しい部分ですら俺は拝むことができなかったんだ。
(さりげなく手渡せばいい……)
かといって、俺には紳士という評判がある。長年に亘り築き上げたそれを容易く失っていいものだろうか?
(俺はどうすれば……?)
エマさんの果実が露わになったとして、マジマジと見たのなら変態扱い不可避だ。だったら謎の光で隠してくれた方がジックリと堪能できるというのに。
『謎の光を習得しました』
えっ?
貴族院の三年生以来、音沙汰のなかった声が俺の脳裏に届く。
(フローリス様の加護……)
意図せず俺は『謎の光』を習得。やはり女神様は俺を救済してくれたらしい。
リアーナ曰く、悪しきものを除去する魔法だと聞いたけど、俺が知る謎の光はそんなものじゃない。
「エマさん、上着をどうぞ! 先っちょとかは気にしなくても構いません。なぜなら、俺が隠してあげますから!」
「はぁ……。ありがとう……ございます」
スケベじゃないことを明確にし、俺は上着を彼女に手渡す。
「謎の光!!」
ここで透かさず謎の光を実行する。
記憶にあるがまま。謎の光はエマさんを包み込み、俺が知りたい部分を全て隠してしまう。
「先生、今のスキルは光属性なのでしょうか!? 凄いです!」
姫様も感動している。
光属性は稀少なスキル。神聖魔法の使い手でもある俺だからこそ習得できたのだろうな。
しかし、エマさんの肢体が眩しい。ボンとしてキュッとしてボンとしているじゃないか。
秘部は拝めなかったが、これはこれで有り難い。
「さてと……」
俺の上着は彼女の太股まで充分に隠すことができた。これにて俺の仕事は完遂ってところか。
「俺たちは王都へ戻ります。残念ですが、皇子殿下の誕生パーティーは欠席とさせてください」
「致し方ありません。こちらも警備が杜撰で申し訳ございませんでした」
前向きに考えようか。二週間も業務を放置せずに済んだ。
明日からはまた平穏な日々が始まるのだろう。
ヤングチャンピオンコミックスより『姫様、ご乱心!』第一巻が発売となりました!
実店舗の他、各種通販サイトでもお求めいただけます!
姫様めちゃ可愛いので、どうぞよろしくお願いします!




