21 初めての……
「う゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」
俺の絶叫が木霊する姫様の私室。俺は拷問を受けていた。
回復魔法を使用する時間は与えてくれたけれど、リアルにドSな攻撃を受けるのは臨死体験のようである。
どうやらエマさんの傷を完全に治療したことが殺傷具合の目安になっているらしい。
「殿下、もうそれくらいで。神力が尽きれば流石にアルフレッド様も死んでしまわれます」
拷問が続いたわけだが、エマさんがようやく制止の声をかけてくれた。
全てドSを目覚めさせた俺の責任なのだけど、現実だとマジで死ぬかと思ったじゃん。
「服がボロボロになりましたよ……」
「自業自得ですわ!」
今もまだ不機嫌そうな姫様。完全に授業どころじゃなくなったな。
ここで、どうしてかエマさんが姫様に耳打ちをする。まだ俺に対する仕打ちが残ってるってのか?
「先生!!」
満面の笑みを浮かべる姫様を見ると不安しか募らない。彼女は笑顔で内臓を引き摺り出すような人なのだし。
「なんでしょう……?」
「これはお礼ですの!」
言って姫様はラッピングされた箱的なものを俺の前に出した。
何だこれ? 大きさ的には背丈の半分くらい。
正直に姫様からのプレゼントは怖い。ゲームにおいてはホラー的な役割だったのだ。
『これはプレゼントですの。料理をすると聞きましたので』
『大きな箱ですね? 大鍋かな?』
稀に飴を混ぜ込むものだから、プレイヤーは期待してしまうんだ。姫様のドSを完全に忘れるような感じで。
『腐乱死体ですわ!!』
『ぎゃああああっ!!』
中身は行方不明になった執事の部品だった。姫様曰く熟成肉なのだとか。
腐った人肉で料理を作らせるエピソードは全身の毛が逆立ったぜ。できあがったものを食べるシーンはガチで吐き気を催したし。
「早く包みを解いてくださいな?」
これは拷問の続きなのか?
俺は恐る恐る包みを解いてみる。
だが、中身は行方不明の執事ではない。腐乱死体とも違う。
「あれ……服?」
中には立派な仕立ての服が入っていた。
銀色に輝く生地は目に眩しいくらいだ。エマさんの隠しエリアとタメを張れるほどに煌めいている。
「これを……俺に?」
「昨日のお礼ですわ。既製品に少し手を入れただけですけれど。ちょうど服がダメになりましたし、着替えてください!」
いや、ダメになったんじゃなくて、ダメにしたのは貴方でしょうが。
「私からはこれを。薄給ですので安物ですが……」
「エマ、薄給は言いすぎでしょ?」
エマさんはハンカチ。これまた上質のシルク生地であった。
「良いのですか?」
「もちろんです。ただし、少しばかり反省はして欲しいですわね?」
何を反省するのか皆目見当がつかなかったけれど、ここは頷いておこう。姫様は超が付くほど短気なのだから。
「では着替えさせていただきます」
まさかプレゼントをもらえるとは考えていなかった。
騒動を未然に防いだご褒美は既にもらっている。
俺は昨晩、この姫様と甘い夜を過ごしたんだ。
誰しもが嫉妬するダンスパートナー。俺は最初のお相手として踊らせていただいたのだから。
「で、どうして着替えを見ているんです?」
なぜか二人共が俺の着替えをマジマジと見ていた。流石に気になってしまうのだけど。
「ちゃんとサイズが合っているのか確認ですわ……」
「後学の……ああいえ、私はメイドなので、お手伝いする必要性を常に考えております」
いや、俺は赤子じゃないんだぞ?
服くらい一人で着られるっての。
「ま、血だらけで気持ち悪いし、早く着替えますよ」
何を企んでいるのか知らないが、俺は気にせず着替えることに。
一応は警戒していたけれど、二人は本当に着替えを見ているだけだった。
兎にも角にも本日は授業どころじゃなくなったな。ただのプレゼント交換会になっていたんだ。
真新しい白銀に輝く衣装。俺は気分良く執務へと向かうのだった。
◇ ◇ ◇
パーティーから数日が経過し、わたくしはお父様に呼び出されていました。
「というわけで、急な出立だが頼む」
昨夜遅く、ヴァルディア帝国から使者が到着されたようで、わたくしを第一皇子殿下の誕生パーティーに招待したいとのこと。
「お父様、護衛を増やしてもよろしいですか?」
初めての外交です。よって、わたくしはアルフレッド先生の同行を希望しております。
「アルフレッドか? お前は本当に……」
「先生が一緒じゃないと行きたくありませんわ!」
ここはゴリ押しですの。
先生は大臣といっても補佐でありますし、しばらく留守にしても問題ないはずです。
「仕方ない。護衛としては一流だし、話を通しておく」
やりましたわ!
先生とラブラブ外交だなんて楽しいに決まってます。それに何だか新婚旅行みたいですの。
とりあえず、外交については了承し、わたくしはエマと回廊を歩いていました。
「殿下、早速ですが、着替えとか準備しなければなりませんね?」
「エマも同行するのだし、心配してないわ!」
「少しはご自分でやってみてはどうでしょう?」
「言われなくてもやりますぅ。先生もご一緒なんですから!」
「あまり、はしゃがないでくださいよ?」
「エマはうるさいなぁ……」
かといって、小言も気になりませんの。
お父様に命じられたら先生も引き受けるしかないだろうし、わたくしはウキウキで出立に備えるだけですね。
◇ ◇ ◇
「なんてこった……」
炊き出しから戻ると、俺は王陛下に仕事を押し付けられていた。姫様の護衛でヴァルディア帝国まで向かわねばならないらしい。
「炊き出しは追放エンドに必須だというのに」
しょうがない。
街に戻って、しばらく炊き出しが中止になることを伝えなければいけない。好感度は油断すると直ぐにリセットされてしまうからな。
大臣補佐業務を放置し、俺は再び大聖堂前へと。何事かと群がる群衆に炊き出しができなくなる旨を告げている。
「アル!」
再び現れる聖女リアーナ。早速、現れたか。まるで彼女は俺の到着を女神様から通知されているかのようだ。
「リアーナ、時間があるのなら、しばらく炊き出しを頼めないだろうか?」
「どうしてです? 私はアルと一緒に炊き出しがしたいのです。むしろ私を煮るなり焼くなりして欲しいですわ」
無理を言うな。現状で俺がリアーナを調理するなんて不可能なんだよ。
『あなたぁ、今夜はコッテリまったり料理してくださいですぅ』
『俺は超天才。調理の腕前も当然のこと超絶エリートだ』
『素敵ぃ! 最高の旦那様ですわぁ!』
前菜はピロートーク。ここまでは俺でも可能だ。
しかし、メインディッシュになると、俺には圧倒的に知識が足りなかった。
『まさか早いマズい早いの料理人だったなんて……』
『なぜ早いを二回言った!?』
『しかも致命的にレシピが間違っております』
『そ、それは……』
俺はやり方を知らないんだ。従って、戸惑った末に適当な調理となってしまう。
『私はバスターソードで豪快に調理されたかったのに!』
それはすまない。俺はテクニックで勝負するタイプだから(白目)。
『ちまちまと料理をする貴方には幻滅しましたの』
もう言うな。もうやめてくれ。
俺の料理人ライフはとっくにゼロを指しているんだ。
『ショートダガーとか無理ィィ!!』
『あ゛あ゛あ゛あ゛っ!!』
離婚ですわとリアーナ。
やはり俺と彼女は絶対に交わってはならない。それがお互いの幸せであり、互いが傷つかないことなのだ。
「冗談言うな。俺は今日から帝国に行かねばならない。姫様の護衛なんだ」
帝国の第一皇子殿下の誕生パーティー。本来なら何かといがみ合うグリフィス王国には招待状など届かなかったはず。恐らくティアナ殿下の件が関係しているのだろう。
「ああ、あの姫様ですか……」
リアーナは何だか邪悪にも感じる表情を見せる。不穏な雰囲気を彼女は醸し出していた。
「リアーナ、姫様の機嫌を損なうなよ?」
「私は聖教会の人間ですよ? 国政に口出ししたりしませんわ」
「本当だろうな?」
俺はお前のために言っているんだ。
邪悪具合で聖女が勝てるような相手じゃない。殺そうとしている人間の懐に飛び込むんじゃないぞ?
「それはそうと今日の衣装は素敵ですわ! 私の法衣と色を合わせてくれたのですね?」
「違う。これは姫様にいただいたものだ」
「まぁた、あの姫様ですか……」
不服そうなリアーナ。かといって、姫様は俺の服をズタズタにする気でこれを買っていただけだ。既製品だと話していたし、深い意味はないと思う。
「とりあえず分かりました。炊き出しは助祭たちに命じましょう」
どうしても一人では嫌なのかよ。
ま、助祭たちには悪いが、俺としては続けてもらうことが大切だ。
「じゃあ、それで。俺は旅の支度があるから頼んだぞ?」
「お任せください!」
いつになく引き際がいい。俺としては助かるのだけど。
大丈夫……だよね?
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そちらもお読みいただければ幸いです!




