20 ドSは自己責任
どうしてか分からんが、狂乱の舞踏会は俺が望んでいた以上の結末となっていた。
炊き出しの準備をしながら、俺は昨日のことを思い出している。
「神がかっている……」
いや、既に俺自身が神なんじゃないか?
もうフローリス様はいらない気がする。
[※気のせいです!]
「ダニエルの信頼まで得てしまうとか、神イベントすぎるじゃん」
普通に消化するだけでも御の字であったというのに。俺は予定外の結果まで得られていたんだ。
「はい? 神イベント?」
おっと、いけない。
俺の隣には炊き出しを手伝うリアーナがいたんだ。不用意な発言だったかもな。
「女神様の加護は有り難いなぁと思ってね」
「そういえば王城では大変な騒ぎだったらしいですね? また悪魔教の仕業だとか」
悪魔教がしゃしゃり出たおかげで無事に終わったと言える。
悪魔教徒よりも強大な闇を持つ姫様が行動を起こさなかったおかげ。発狂薬が二番煎じであったのも幸運だったな。
「世界が光に照らし出されるたび、陰が生まれて黒く色付く。残念ながら光と闇は背中合わせなんだよ」
ま、今回の騒動における原因は両方とも闇だったけどな。
より濃い暗黒の姫様が動いていたら、王国は滅びていただろう。
「アルの目映い煌めきは闇を生み出すかもしれませんが、アルが発する輝きによって闇を消し去って欲しいと思います」
確かにそうかもしれん。
神の如き俺が輝きすぎるせいで、陰が生まれている。悪魔教徒も姫様も俺が輝かしい善良な人間だからこそ存在するのかもしれない。
[※自己評価を改めてください!]
本日も炊き出しは大成功となった。
リアーナを凝視するスケベ野郎が増えた気もするが、俺の評判に繋がるのなら存分に視姦してくれたまえ。
「あの……アルフレッド様」
炊き出しが終わった頃、食材の調達を任せている商人が声をかけてきた。
「ご依頼いただいていた毒草をお持ちしたのですが」
そういや毒物の調達も頼んでいたのだっけ。
「ああ、助かる。幾らだ?」
「タダみたいなものですので、お代金は必要ありません」
昨日の今日であったのだが、商人は幾つかの毒草を用意してくれたらしい。
「こちらが軽い症状を引き起こす毒草。こちらは量によって致死に至る毒の実です。この魚の棘には少量でも危険な猛毒がございます」
「なるほど、この赤い枝は何だ?」
ただの棒切れが含まれていた。説明がなかったので俺から問うことに。
「それは……発狂薬の原料です」
思わず息を呑む。
躊躇うような口調。恐らく商人も昨日の噂くらい知っているのだろう。
「普通に流通しているのか?」
「分かりません。丁度、仕入れをしたという仲間がくれたのですよ」
「仕入れただって?」
発狂薬を求める人間は多くない。俺が知る限り、姫様と悪魔教徒だけだ。
一般の商人に依頼するとするならば、悪魔教徒の可能性が高い。
「アル、やはり悪魔教は……?」
「どうだろうな。堂々と王城に入り込んでいたし、考えているより根深いと思う」
悪魔教は敵を見誤っている。
王国には俺がいるし、何より悪の化身である姫様がいらっしゃるのだ。
ちゃちな悪は立ち所に絶対的な闇に呑み込まれてしまうことだろう。
「アル、気を付けてください。何か進展がありましたらお伝えしますので」
リアーナは聖教会の所属であるというのに、王国の大臣補佐に情報を流してくれるらしい。従順なのは本当に助かる。
「なあ、もし俺が裏切ったらどうする?」
一応は聞いておきたい。
姫様はリアーナの暗殺を考えている。強要されたとき、俺は主人の求めに応じるしかない。
「アル、私は貴方の所有物。貴方の意志が私の望みですわ。もし仮に私が怒るとするならば、それは貴方が自分の意志を曲げることでしょうか」
ご立派なことで。その胸と比肩するほどの志があるみたいだな。
俺には明確な目標がある。またそれは何があっても覆らないものだ。従って俺はそのままの文言を返すだけだった。
「俺が目指す世界は最初から一つしかない」
◇ ◇ ◇
午後は姫様の授業。
何事もなく平時であるのは悪魔教徒が先走ってくれたおかげだ。
「失礼します」
「アルフレッド様、どうぞ」
どうやらエマさんは完全に回復できたらしい。
翌日から働いているとは思わなかったが、いつもと変わらぬ様子である。
「エマさん、傷口は綺麗になっていますか? 何だったら重ねがけしますけど?」
「もうすっかり治りました! 確認されます?」
言ってエマさんはメイド服を脱ごうとする。
いやいや、リアーナほどではないとしても、貴方も破壊力があるのですよ!
それに思い出しちゃうから!
貴方の隠しエリアを俺は瞬間記憶しちゃってるのだし!
「ちょちょ、大丈夫です! 脱がないでくださいって!」
「うふふ、アルフレッド様は意外とウブなんですね?」
ちくしょう。
俺だって経験さえあれば、幾らでも受け入れられるってのに。隠しエリアの財宝さえ知っていたら……。
(てか、エマさんって独身だよな?)
俺と同じ侯爵家の出身。
ダニエルも後ろ盾になってくれるみたいだし、俺はおパンツを凝視した責任があるのかもしれない。
「エマさんは婚約者とかいらっしゃるのでしょうか?」
「あら、私ですか? おりませんわ。ずっと手のかかる方の側付きですから」
「今まで一度も?」
「ええまあ。私は四女ですし……」
おお、ならば未経験?
それなら盛大に失敗したとして、気付きもしないはずじゃん。
来たるべき夜に俺が失うプライドが存在しないってことだ。
『エマ、綺麗だ……』
『あなた、私って未経験の新品なのです』
『ふはは、可愛いやつだ。俺はとびきりの上級者だけど、初心者のエマに付き合ってやろう。まるで未経験者のように、戸惑う様子を演じてみせるぜ』
『お優しい! この年で新品だなんて恥ずかしかったのですわ!』
『今から俺も童貞だ。さあエマ、一緒に恥ずかしがろう!』
『あ゛あ゛あ゛あ゛っ!!』
何て素晴らしいんだ!
完璧すぎる甘い夜じゃないか!
ゴクリと唾を呑み込んでから、俺はエマさんと視線を合わせる。
「エマさん、婚約者がいないというのなら……」
「あっ、はい!」
頬を染める彼女を見ると、脈があるように感じる。
彼女は地位も充分だし、ここは勢いに任せて交際をお願いしても……。
「エェェマァァァ……?」
ここでドスの効いた声がした。
それはエマさんの背後。殺気がだだ漏れの姫様がそこにいたんだ。
「ででで、殿下! いや私は別に!?」
「そそそ、そうですよ! 姫様、昨日は大変でしたね!」
何に腹を立てているのか分からないが、これ以上ないほど不機嫌なのは理解できた。
「先生ぇぇ、わたくしは信頼という言葉の意味を今一度考えたくなっておりますの」
だからってナイフを抜かないでください!
信頼と暴力は対極にあるものですから!
いや、分かってます。エマさんは自分の所有物ってことでしょう!?
「そういや俺は姫様にプレゼントを持って来たのですよ!」
「ええ!? わたくしにですか!?」
何とか異次元にまで傾いた機嫌が元に戻ればいいな。姫様の機嫌を取るのにピッタリのものを手に入れてきたんだ。
「ドワン親方の新作ナイフセットです!」
どうしてかジト目を向けられている。
なぜだ? 姫様ならば小躍りするプレゼントだろう?
「えっと、鞭の方が良かったですか?」
「いいえっ! ホント嬉しいですわ! ナイフで!」
喜んでもらえたなら何より。
とりあえず頭部爆破の刑を執行されずに済んだみたいだ。
「いや、最近は物騒なので、姫様には投擲用にこのナイフセットが必須かと考えます。ちょいと失礼……」
「せせせ、先生!?!」
このナイフセットは太股に取り付けられるホルダーがあるんだ。
ちょうどスリットのあるドレスだし、取り付けて差し上げよう。
「アアア、アルフレッド様……?」
姫様は固まっているし、どうしてかエマさんも困惑顔をしている。
まあでも、この実用性を理解してもらうには装備してもらわないとな。
「うん、ピッタリだ! 姫様の肉付きが良ければ取り付けできないところでしたね!」
「せんせぇぇ、どうやら死にたいようですわねぇ?」
ええっ!?
ピッタリだったのに、どうして『わたくし、絶望の闇に墜ちた人間が見たいですの!』の表情をしているんだよ!
「エマさん!?」
助けを求めるも、エマさんは首を振る。
どうやら儚い恋であったらしい。意思疎通できたかのような感じだったのに、やはり俺はからかわれただけのよう。
このあと俺は酷い拷問を受けることに。
「う゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」
絶叫が木霊する姫様の私室。だが、貴賓室しかないこの階は声を張ろうと虚しく消失するだけ。助けなど来るはずもなかった。
「姫様、おやめくださぁぁい!!」
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姫様めちゃ可愛いので、どうぞよろしくお願いします!




