18 明け方の夢のように
コミックス発売記念の連続更新は最後です!
以降は概ね週1の更新になるかと思います!
どうぞよろしくお願いいたします!
ダニエルは俺に頭を下げてから家臣を引き連れ会場を後にしてしまう。さりとて、明日の朝、一緒に鍛錬しようと約束をしていた。
「姫様と一曲踊っていけば良かったのに」
上手く収拾は図れたと思うが、バツが悪かったのかもしれない。
俺としては姫様の好感度を少しくらい上げて欲しかったのだけど。
「アルフレッド先生!!」
ここで姫様のご登場となる。
真っ赤なドレスは誰よりも目立っていた。とはいえメインヒロインであるのだし、当たり前なのかもな。
「姫様、まだ安全確認ができておりませんけれど?」
俺がそう話すと姫様は耳打ちするように近付く。
「あの執事は悪魔教徒であったらしいです。ワインに発狂薬を盛ったのだとか」
「本当ですか?」
「ボウモア伯爵家の嫡男でした。彼は熱心な信者であるらしく、単身で騒ぎを画策したと豪語しております……」
聖教会主導で尋問を行っているらしいが、悪魔教徒であることしか分かっていないようだ。姫様は現状で判明した事実を聞かされただけだという。
「お父様も先生の機転に感謝されております。パーティーを中止せずに済んだと」
姫様のお披露目だもんな。
遠方から貴族たちを集めているのだし、中止にはしたくなかったことだろう。
「ですが、まだ脅威が……」
単身で事に及んだとの自白を信じるのかどうか。生憎と俺は疑り深い性格なんだけど。
「問題ありませんわ。何か問題が起きたとして、先生が浄化できると聞きましたの」
そゆことか。
パーティーの安全は俺の超浄化で保証されたってことらしい。
「しかし、俺にはまだ不安が……」
「どうしてですの?」
いや、貴方様が使用する発狂薬が見つかっていないからですけど?
浄化はするつもりですが、俺的には悪魔教徒より姫様が画策する事案の方が恐ろしいのですけど?
「それを俺に聞きますぅ?」
「わたくしが安全を保証しますわ」
ああ、そういうこと。
姫様的にはもう充分に楽しめたってことね。今以上の混乱を引き起こすつもりはないようだ。
「ま、分かりました。今回は骨が折れましたよ」
「先生であれば余裕でしょう?」
「少なくともギリギリでしたね。エマさんのおかげで何とかなりました」
「エマのおかげ?」
おっと、いけない。
エマさんの隠しエリアを発見したことは秘密にしておかないと。バレた世界線の処分は恐らく断罪に匹敵するだろうし。
『殿下、アルフレッド様におパンツを見せろと命じられました』
『何ですって!?』
エマさんは俺をからかったりする。きっと尾ヒレを付けて報告するはずだ。
『せんせぇ、エマのおパンツを拝むなんて千年早いですわ』
『誤解です! 偶然に見えてしまっただけなのです!』
『およよよ。嫌がる私のドレスを無理矢理に引っぺがしたのですわ』
『何ですって!?』
言い訳無用の状況に追い込まれてしまうだろう。
俺は口答えせず、ただ処罰されるだけだ。
『せんせぇぇ、潔白でしたら証明してくださいな?』
『どどど、どうしろと!?』
まさにジ・エンドだ。
きっと姫様は俺を殺しにかかってくる。
『頭骨から脳みそを取り出し、エマのおパンツが記録されていないか調べますの!』
『ぎゃぁあああっ!!』
うーん、サイエンス。いや、サディスティックか。
てか、脳みそを取り出されたところで死んでいるだろうな。
「ああいえ、エマさんが斬られたことで、聖なる力が湧き立ったのです。そのおかげでハイピュリフィケーションを唱えられました」
これは嘘じゃない。聖なる力が精力であるのはまたしても秘密だけど。
「そういうことでしたか。エマは念のため治癒士に見てもらっております。しかし、エマの身体に傷が付かなくてよかったですわ」
マジでそう思う。
初めて見た秘部は真っ白な霧で覆われていたけれど、フローリス世界の百景に選ばれるほどの絶景だったからな。
「しかし、先生はダニエル様をどうして助けられたのです? 敵視されていませんでしたか?」
ここで話題が転換される。
ひょっとして好感度が激低い状態で現れたわけは姫様の策略だったのか?
「姫様のせいですからね?」
「アハハ、しょうがないじゃないですか? 先生を悪く言われましたので、カッとなってしまいましたの」
姫様を怒らせるとは意外とダニエルは鋼メンタルの持ち主なのかも。俺には絶対にできないことだぜ。
「殿下、お待たせしました!」
「エマ、大丈夫だったの?」
「平気ですよ。本当に斬られたのかと治癒士が疑うくらいに。アルフレッド様のハイヒールは効果抜群ですわ」
傷跡が残っていないようで何より。ま、俺のハイヒールは切断された腕でもくっつけてしまうからな。
「それでアルフレッド様、私を助けようと突き飛ばしてくれたじゃないですか?」
咄嗟の判断だが、正解だったに違いない。
脳天が真っ二つになってからではハイヒールも効果を発揮できないし。
「エマさん、礼には及びませんよ」
「倒れたとき、私のパンツを見ていましたよね?」
感謝じゃないのかい!
てか、気付いていたのか。でも、そこは大目に見るところじゃない?
「せんせぇぇぇ?」
あかんて。思わず前世の方言が出てしまうほど、俺は恐怖に打ち震えていた。
ドスの利いた姫様の声は恐ろしいったらありゃしない。
『わたくし、辞世の句が聞きたいですわ』
『俺はまだ生きる気満々ですよ!?』
『さあ、早く詠みなさい! 吟じなさい!』
『ぎゃあああ!!!』
人生最後の句を強要される寸前じゃん。
ここも間違いなく姫様は殺しにかかってくることだろう。
「先生ぇ、弁明を聞きましょうか?」
「あっ、はい……」
しょうがない。何とか姫様が納得する理由を口にしないと。
俺が生き残る可能性は姫様の命令に従い、評価を得ることでしかあり得ないのだ。
「偶然に チラリと見えたよ 白い布」
「なぜ俳句調ですの!?」
違ったのか?
てっきり辞世の句を強いられているのかと思ったじゃないか。
「いや、本当に偶然だったんです。何も覚えていませんし」
「本当ですかぁ?」
瞬間記憶してしまったが、覚えていないことにしないと。命の危機に晒されることになる。
「全然、全く少しも。小さなリボンならともかく、ステッチの数なんて覚えきれませんよ」
「かなり詳細に記憶されているようですわね!?」
なぜバレたんだ!? 姫様は思考を読み取れるのか!?
目一杯の殺気を全方位に放出しながら姫様は告げた。
「有罪ですの……」
クッソ、せっかく俳句を詠んだのにギルティだなんて。
季語を入れなかったことが原因かもしれない。いや、姫様の怒りは下の句を省略したことだろう。
「白雪の丘に しばし佇む」
「誰が下の句を詠めと言いましたか!?」
ナイフを抜く姫様に戦慄する。
ダメか!? せっかく季語を入れてみたのに!!
「白雪の丘は白いパンツとかかっているんですよ」
「解説も求めていませんわ!!」
まさに万事休す。もう俺は罪を受け入れるしかなくなっていた。
「罰はお手柔らかにお願いします……」
「そうですわね。一つテストをしましょう。それに合格できたのであれば、無罪放免とさせていただきますわ」
「テスト? 俺は貴族院始まって以来の天才ですよ?」
「それは頼もしいことで。まあでも、先生ならば簡単な問題ですわ」
簡単な問題だって? ということはそれほど怒っていない?
ならば俺を合格させるためのテストなのかもしれない。
「わたくしと踊ってください──」
俺は息を呑んでいた。そんな話はしていたけれど、俺の順番は最後だと考えていたんだ。
なぜなら舞踏会において、最初に踊る相手は本命と相場が決まっているのだから。
「俺で良いのですか?」
「二度も言わせないでください」
これは物議を醸す可能性が高い。
タリスカー公爵の陰謀論にまで発展しかねないぞ。王家派はそれを許すだろうか?
「覚悟が必要ですよ?」
「先生はそのような圧力に屈する方ではないと考えております」
ま、姫様から誘うのだから俺の知ったことではない。
そもそも姫様は更なる混乱を楽しみたいだけだろうし。
「ただ踊るだけでなく、わたくしを満足させられるかどうかが合否となります」
テストの内容は姫様が満足するダンスを披露できるかどうからしい。
ならば受けて立とうじゃないか。女性経験こそなかったが、俺は貴族院で歴代トップの成績。当然のことダンスも評点に含まれているのだ。
一応は落ち着きを取り戻した会場。姫様が小さく手を挙げると、楽団が演奏を再開し始める。
「アルフレッド先生、手を取ってくださいな?」
小さくカーテシーをしたあと、姫様が俺に向かって手を差し伸べる。
すると、会場中が一度にざわついた。
(当然だよな……)
誰もが最初のダンスパートナーを気にしていたはず。またその相手はダニエルだと考えていたことだろう。
(ま、男は度胸だ)
逆風には慣れている。実家の立場から肩身が狭い思いをするのは貴族院でも同じだった。
いいぜ? 受けて立とうじゃないか。
俺は今までもこれからも、実力でもって雑音を封じるしかないのだから。
「姫、どうぞお手柔らかに」
姫様が差し出した手を取ると、再び戸惑うような声が木霊した。
(外野は嫉妬でもしていろ)
まさに姫様が画策した通りの展開である。
貴族界を大混乱に陥らせて、彼女はほくそ笑むはずなのだ。
「先生、いきなりチークダンスみたいですよ?」
「貴方様が指示したのでしょう?」
「まるで記憶にありませんわ!」
どうだか。悪戯な笑みを見ると、予め演奏リストを伝えていたのは間違いないだろう。
アップテンポな曲であれば密着は少ない。けれど、チークダンスはそうじゃなかった。
ムーディーな曲に合わせて男女が踊る。恋人たちにお誂え向きな曲が演奏されていたんだ。
「失礼しますよ」
「あっ……」
俺は姫様を抱き寄せている。
貴族院で何度も踊った曲。だから別に戸惑うことも動揺することもないはずだった。
しかし、胸が過度に脈動している。痛いくらいに鼓動が高鳴り、俺を苦しめた。
(どうしてだ?)
まあ、理由は分かっていたんだ。
なぜなら俺が踊る相手は前世から好きだった人。ソフィア・レイ・グリフィス姫殿下、その人なのだから。
「先生……」
顔を赤らめて姫様の上目遣い。
彼女を見下ろすような俺はジッと視線を合わせていた。
(本当に綺麗だ)
疑う必要のないヒロイン顔。ゲームと異なり幼さは残していたけれど、それでも美しいと俺は断言できた。
「姫様、もっと派手に振り回しても良いですか?」
「もちろん。先生が好きなように踊ってください」
しばし外野ことは忘れよう。
俺はこの今を堪能すべきだ。叶わぬ想いであるのなら、与えられた機会くらいは全力で楽しもう。
「わわ、先生!?」
「ほら、もっと俺に身を委ねて!」
「分かりましたの!」
背中に回した手に力を込める。
姫様は俺に身体を預けるようにして、俺のダンスに合わせていた。
もしも俺の生まれが違っていたのならと考えてしまう。
至福の時間は明け方の夢と同じ。やがて覚めていく儚い世界なのだから。
「姫様、俺は合格でしょうかね?」
「分かりませんか?」
姫様の返しには思わず笑ってしまう。
満面の笑みを浮かべる姫様を見ると、及第点以上は確実だもんな。
しばし夢の中を彷徨う。もしも前世の記憶が蘇らなければ、俺はこの瞬間を味わえなかったことだろう。姫様との身分差に尻込みし、自身の気持ちを隠し続けたに違いない。
いつまでも続けば良い。
そんな風に思っていた。だけど、朝靄がいつしか晴れるのと同じで、甘美な時間は儚く終わりを告げる。僅かな余韻を残して、演奏が終わったんだ。
まばらだった拍手が、万雷のそれに変わった頃。
儚く朧気な夢は覚めて、確固たる現実に俺は戻されていた。
ヤングチャンピオンコミックスより『姫様、ご乱心!』第一巻が発売となりました!
実店舗の他、各種通販サイトでもお求めいただけます!
メロンブックス様とゲーマーズ様では特典があったりしますのでお得です!
姫様めちゃ可愛いので、どうぞよろしくお願いします!




