17 聖なる力を
コミックス発売記念でストック吐き出ししちゃいます!
俺は壁際で待機していた。
もちろん、何も飲食していない。さりとて、普通に食事を取る人たちにも変化は見られなかった。
「上位貴族のエリアじゃなかったのか?」
そんなはずはない。
姫様は俺をからかっている。大惨事になることを予想できずに。
「悪魔教徒も教皇様を狙っているはずだし」
何かあるとすれば上位貴族のエリアに違いない。姫様だけじゃなく悪魔教徒までいるのであれば。
「きゃあああっ!!」
ここで叫声が轟く。
やはり上位貴族のエリア。それは壇上に近い場所から届いていた。
「クソッ!」
俺のせいか?
俺が飲食しなかったから、誰かが口にしてしまったのか?
「嘘だろ!?」
エマさんが斬られていたんだ。
しかも、右手に長剣を握るのは俺もよく知る人物だった。
「ダニエル!?」
祝辞を述べられた教皇様がまだ舞台裏であるからか、手練れという僧兵はこの場にいない。
「ハイヒール!!」
咄嗟にハイヒールにて治療。エマさんのドレスはお腹の辺りが裂けていたんだ。
「エマさん、大丈夫ですか!?」
「私は大丈夫です。ダニエル様が急に笑い声を上げられて……」
幸いにも傷は浅かったらしい。状況を把握できるくらいに落ち着いてもいる。
「ぐわぁああああ!!」
ダニエルは完全に発狂しているじゃん。てか、俺に斬り掛かるってのか!?
「身体強化!!」
超天才の俺を舐めるんじゃねえよ。
武器を携帯していなくとも、初期のダニエルくらいわけないって。
「アルフレッド様!?」
「エマさん、心配無用です。俺は長剣を受け止めただけですから」
拙い剣。俺は素手で受け止めていた。
ここだけの話、泣くほど痛かったけどな。
「う゛あ゛あ゛あ゛っ!!」
尚もダニエルは長剣を振り上げる。
ヤバいな。最上位の貴族だし、俺はダニエルに無茶をできない。手出ししたのなら、逆に裁かれることになる。
「クソ、超浄化さえあれば!!」
教皇様が精力不足なのは分かる。
でも、若い俺が精力不足ってどういうことだよ?
「アルフレッド様、危険ですわ!」
「エマさん、離れてください!」
マズい。ダニエルは駆け寄ったエマさんに攻撃対象を変えた。再び彼女はダニエルに斬られてしまうのか?
「させるかぁぁっ!!」
「きゃあああっ!」
俺はエマさんを突き飛ばしていた。
それにより何とかエマさんは斬られずに済んだ。しかし、このままダニエルが発狂し続けたのなら、確実に大勢が斬られてしまうことだろう。
「エマさんは距離を取ってくだ……」
言って俺は倒れ込んだエマさんに視線を向けたんだ。
突き飛ばしたのは俺だけど、彼女は派手に尻餅をついている。
そこで俺は気付いた。
ドレスが捲れ上がり、エマさんの真っ白な秘部が露わになっていることに。
(おパンツ!?!)
生で初めて見たぜ。
ありがとう女神様。俺は今日ほど貴方様に感謝したことはありません。
[※失礼すぎます!]
「ぐおぉぉっ!?」
刹那に身体の芯から湧き立つもの。強烈なエナジーを局部に感じたんだ。
「これが……聖なる力?」
[※違います!]
俺は聖なる力に目覚めていた。
あり得ないほどの精力が溢れ、今にも爆発しそう。
「今なら超浄化魔法を唱えられるんじゃ?」
尋常じゃない精力を感じる。
枯れ果てた教皇様を軽く凌ぐものだ。
「大いなる女神の慈愛……。大地に満ちたる神の息吹よ」
詠唱を開始。ダニエルの罪を最小限としなければならない。
俺はダニエルをドM化して利用しなければならないのだから。
「深淵に潜む邪悪なるもの。その闇を取り除きたまえ」
さあ全てを浄化してやろう。
俺に対する憎しみも、狂ったその精神まで。
「ハイピュリフィケーション!!」
一瞬のあと、目も眩む輝きが降り注ぐ。
それはダニエルへと降りかかって、彼を静かに清めていた。
「発動した……」
やはり聖なる力は偉大だ。白い布にも感謝しかない。
小さなリボンや細部に施されたステッチまで俺は絶対に忘れません。
[※忘れてあげてください!]
さてと、締めにしようか。
この茶番を終わらせて、俺は姫様にご褒美をいただかないとな。
「ぼぼ、僕は……?」
どうやら正気に戻った感じだ。だったら、俺はシナリオを進めよう。
「ダニエル様もお人が悪い。このような余興は全員が驚くとお伝えしたでしょう? 大騒動になってしまったじゃないですか?」
全てが催しであったことにする。
エマさんには悪いけれど、ここは乗っかって欲しいところだ。
「ねえ、エマさん? どこも斬られていませんよね?」
「えっ……? ええ、その通りですわ!」
俺のウインクに彼女は気付いてくれた。
確実に斬られていたけど、ハイヒールによって傷跡は残っていないはず。それに彼女もダニエルの立場や重要性を理解しているのだろう。
「ダニエル様、寸劇は終わりです。剣を収めてください」
「わわ、分かった……」
ダニエルが長剣を鞘に戻すと周囲から安堵の声が聞こえ、やがて拍手が送られた。
誰しもが余興であったことを知り、まんまと騙されたのだと笑い声を上げている。
「バロウズ卿!」
ここで教皇様が舞台裏から戻ってきた。
恐らく彼は真相を知っている。話を摺り合わせておかないとな。
「教皇様、何とか浄化しました。ダニエル様の余興ということにしてください」
「うむ。しかし、発狂薬は何に含まれていたのじゃ?」
確かに。まだ安心できない。
ダニエルに事情を聞いて、問題の食材を排除しなければ。
「ダニエル様、気が触れる前に何を食べられましたか?」
耳打ちするようにして聞く。
教皇様も気になるのか顔を近付けていた。
「そこの執事に赤ワインを入れてもらった……」
俺と教皇様は顔を見合わせ、次の瞬間には僧兵に指示が下る。
逃げ出そうとする執事を速やかに捕縛できていた。
「バロウズ卿、助かりましたぞ。裏で執事を尋問しますので私はこれで」
「気を付けてください。まだ何か起こるかもしれません」
「承知しましたのじゃ」
執事の尋問は任せておこうか。
ダニエルの発狂薬が悪魔教徒の仕業であれば、まだ姫様の発狂薬が残っているかもだし。
「アルフレッド、どうして僕を助けた?」
小さくダニエルが聞いた。
どうやら暴れた記憶は残っているようだな。
俺としては誰が罪に問われようと構わないが、お前だけは違う。こんなところで退場されては困るんだよ。
「貴方様が(俺には)必要だからです」
「僕が(王国に)必要だって?」
分からないだろうな。お前はこの物語の主人公であり、姫様を口説き落とす人間なんだよ。
「しかし、アルフレッドも王配の座を狙っているのだろう?」
「バカ言っちゃいけませんよ……」
「何だと!?」
落ち着け。俺はお前の味方だからさ。
ま、好感度が激低い理由は分かった。ダニエルはただ俺に嫉妬していたんだな。
「俺と姫様では身分が釣り合いませんし、そもそも姫様は超がつくドSですから」
◇ ◇ ◇
僕は愕然としていた。
アルフレッドは何を言っているんだ?
「俺は姫様のドSに付き合う体力がありませんからね?」
難解な話が続く。
いや、何となく理解できる話というか。
「姫殿下がドS……?」
「ここだけの話ですよ? 姫様はあれで気性が荒いのです。すれ違う人間全てを斬り裂くくらいに」
とんでもない話を聞かされていた。
でまかせだろう? 大人しそうな彼女に狂気的な一面があるなんて。
「嘘だ……」
「ご存じないですか? 姫様は襲いかかった暴漢を返り討ちにしただけでなく、滅多刺しにされてしまったのですよ?」
そういえば噂に聞いた。
姫様が王城で襲われたこと。加えて、暴漢を返り討ちにしたなんていう法螺話を。
「あれが真実だと言うのか……?」
「俺は隣にいましたからね。咄嗟に暴漢を守っていました。放っておけば暴漢は無数に刺されて死んでいたかと」
「姫殿下は武器を携帯されていないだろ!?」
「ご存じありませんか? 腰にナイフをぶら下げておいでです。銀の装飾が施された逸品なんですけど」
そういえば姫殿下はずっと大切そうに何かを握っていた。アクセサリーか何かだと考えていたけど。
(あれがナイフ!?)
じゃあ、噂話は真実なのか?
アルフレッドが話すように姫様は……?
「そんな……。姫殿下はドSだったのか?」
「超ドSです。ダニエル様もお気を付けください。姫様を怒らせると頭部が破裂しますからね?」
「破裂!? 鈍器とかも持っておられるのか!?」
僕の問いに、アルフレッドは小さく顔を振る。
「いえ、姫様は投擲のスキルを持っておられます。リンゴでもスイカでもナイフの投擲で爆破してしまうのです。頭を狙われたら最後だとお考えください」
これは困ったことになった。
王配は父上が望む結末。僕もその期待に応えようとしていたんだ。
けれど、姫殿下は噂に聞く淑女ではなく、極度にサディスティックであるらしい。
「アルフレッド、僕はどうしたらいい!?」
「お任せください。ダニエル様が王配を勤め上げられる術を俺は考えておりますから」
どれだけ有能なんだ!
僕は争いごとが苦手なんだけど、彼は既に王国の未来を考えてくれているみたいだ。
「まずは体力強化。姫様はナイフで人を刺すのが好きなのです。だからこそハイヒールまで使いこなす俺が教育係に選ばれております」
「なるほど、アルフレッドも苦労しているのだな!」
「本当に苦労が絶えません。先日など磔にされて、頭部を爆破される寸前でしたから」
僕は納得していた。
超有能なアルフレッドにしか姫殿下の教育係が務まらないってことを。
「次に精神力。姫様と付き合う上で最も重要なステータスです。拷問が大好きな姫様ですからね。簡単に死なない体力と決して折れない強い心を養う必要があるわけですよ」
「どうすれば良い? お前……いや、アルフレッド師匠、教えてください!」
僕もまた彼を師事しよう。
彼ならば僕が望む未来に連れて行ってくれそうなんだ。
「師匠だなんて。いやでも、ダニエル様がヤル気ならば、俺は貴方様を鍛え上げられるかと存じます」
「よろしくお願いします! 授業料は弾ませてもらいますから!」
思わぬ展開になっていた。全ては誤解だったんだ。
アルフレッドが姫殿下を籠絡し、王国を乗っ取ろうとしているなんて。
彼はただ王国の忠臣であっただけなのに。
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姫様めちゃ可愛いので、どうぞよろしくお願いします!




