16 姫様の成人記念パーティー(狂乱)
コミックス発売記念で今週二度目の更新です!
俺は真っ先に会場入りしていた。振る舞われる料理の確認をするためだ。
「赤ワインだと思うけど」
赤ワインに合う肉料理も危険だと思う。姫様のヒントは安直なものではない可能性もあったんだ。
「赤みを帯びた料理は一つだけか」
牛肉の赤ワイン煮込み。それ以外は立食っぽい軽食が並ぶだけ。混入が料理だと仮定するならば、赤ワイン煮込みが最有力となるだろう。
「ま、少しも飲食するつもりはないがな!」
姫様には悪いが、俺はこのような余興で断頭台に送られるなんて御免だ。加えて、悔しがる姫様をからかうという野望も断食を決めた理由だった。
「おい、お前がアルフレッドか?」
ここで俺は背後から声をかけられた。
振り向くと、そこには赤い髪をした少年が立っていたんだ。
(誰だこいつ?)
初めて見る顔だ。ゲームの記憶にもない。
しかし、燃えるような赤い髪は一定の予測もさせていたんだ。
(ダニエルか?)
ゲームの主人公はもう少し大人っぽかったが、きっと彼はダニエルに違いない。
ここもゲーム世界とは少しばかり異なっているのだろう。
「ダニエル様、初めまして。俺はアルフレッド・リブ・バロウズです」
「知っている。姫殿下をそそのかす売国奴だろ?」
えっと、どうしてそんなに好感度が激低いの?
俺たち初対面ですよね?
「畏れ多いですよ。俺はただの教育係ですし、侯爵家の人間ですから」
「どうだかな? まあ、姫殿下を籠絡したとして、お前の悲願は叶うものじゃない」
どうもダニエルは誤解しているようだな。
俺は最善を尽くすだけ。身の程はわきまえているし、生き残るために動いているだけだ。
「ダニエル様、パーティー会場での帯刀は禁止されておりますが?」
受付で没収されなかったのかよ。
俺は万全を期するつもりだけど、万が一にも発狂してしまったらダニエルの剣を奪ってしまうかもしれない。
「僕に指図するな。剣は武門であるライオール公爵家の誇り。預けるわけにはならない」
「それは失礼しました」
困ったな。ますます断食モードで挑まねばならないじゃないか。
俺は剣も魔法も超一流。ライオール公爵家の剣であれば誰であっても一刀両断にしてしまうぞ。
(天才すぎるのも問題だな)
俺はダニエルから距離を取ることにした。
だけど、他にも上位貴族たちは帯刀しそうだよな。姫様はここまで理解した上でヒントを与えたのかもしれない。
続々と貴族たちが会場に集まっていた。
上位貴族たちは壇上に近いエリアにいるのが慣例だ。俺は念のために壁際で時が過ぎるのを待つだけである。
「アルフレッド先生!!」
ここで姫様が現れていた。
いつもはメイド服のエマさんもドレスに着替えている。
「姫様、聞いていた赤いドレスではありませんね?」
「これから舞台裏で着替えますの。わたくしは壇上で挨拶しなければなりませんので」
「そうでしたか。楽しみにしております」
「先生もタキシードがよく似合ってます!」
ウキウキの姫様。壁際に避難している様子から、対策が不十分だと察知したのかも。
姫様は狂乱の舞踏会が幕を上げる瞬間を待ちわびている感じだ。
「それではまたあとで!」
「アルフレッド様、失礼いたします」
メイド服じゃないエマさんも最高だな。
姫様にはない胸の膨らみが特に素晴らしい。今にも零れ落ちそうじゃないか。
「おいアルフレッド、調子に乗るなよ?」
姫様たちが去って行くや、俺はまたもダニエルに絡まれている。
俺はダニエルとも親密になる必要があるってのに。
「承知しております。俺は終始、この隅におりますから」
「そうしていろ。じゃあな」
ダニエルも挨拶回りに忙しそうだ。
公爵家の跡取りともなれば、ほぼ全員と挨拶しなければならないことだろう。
しばらくジッとしていたのだけど、執事に食事や飲み物を勧められるので、端の方を動き回ることに。
「バロウズ卿ではございませんか?」
俺に声をかけてくる人は多くない。大臣補佐をしているとはいえ、貴族院を卒院したばかりの若輩者であるのだから。
「マギナ教皇様!?」
思わぬ方が現れていた。
姫様が初めて公の場に登場するパーティーであったけれど、対外的な意味合いを持たないものであったというのに。
「ご挨拶せず申し訳ございません。名簿にお名前がございませんでしたので」
「ははは、それは混乱を避ける目的でしょうな。王陛下の計らいかと存じます」
まあそうか。
教皇様の身に何かあれば王国は諸外国から非難を受けるだろう。従って、ごく一部にしか知らされていないのだと思う
「姫殿下の成人記念パーティー。せっかく王国に住んでいるのです。祝辞を述べたいと考えております」
(いよいよヤバくなってきたじゃん)
教皇様の御前で大量殺戮だなんて絶対に回避しないと。教皇様をも巻き込んでしまう可能性だってあるし。
『どうなっても知りませんよ?』
『うふふ、よろしくてよ?』
あの余裕は知っていたからだろう。
姫様は俺が教皇様に不敬を働くかもしれないとワクワクしていたのだな?
「教皇様、祝辞のあと教会に戻られますよね?」
「せっかくなので、存分に飲み食いして楽しんで帰りますぞ!」
どれだけ生臭坊主なんだ!
貴方は尊き人なのだから、俗っぽい行動をしないでください。
(いや、教皇様であればハイピュリフィケーションを唱えられるんじゃ?)
仮にも聖教会のトップ。類い希な神力の持ち主だと聞いた。
であればハイピュリフィケーションくらい鼻クソをほじりながらでも詠唱可能じゃないか?
「教皇様、鼻クソ……ああいや、ハイピュリフィケーションを唱えられませんか?」
「最上位の浄化魔法か。最近は神力が衰えていましての。下位の浄化魔法しか発動できません」
ウソだろ?
神力って衰えるのかよ?
「もう唱えられないのですか?」
「神力は肉体に宿る聖なる力。年と共に衰えるのですよ」
「性なる力!?」
マジかよ?
神力が年齢と共に衰える性なる力ってことは?
(精力だったのか!?)
[※違います!]
なるほど、だったら爺さんには厳しいよな。
「教皇様、悪魔教をご存じですか? 俺は悪魔教徒がパーティーに潜り込んでいるという想定をしています。奴らは発狂薬を使用する。それを解毒するにはハイピュリフィケーションしかないのです」
俺は万が一に備えて作り話を始めた。
姫様が犯人なのだけど、事前に悪魔教を匂わせておくことで俺の責任を最小限とするためだ。
「バロウズ卿も知っておられましたか? 聖教会でもパーティーに紛れ込んでいるという情報を得ております。手練れの僧兵を配置しておりますのでご安心くだされ」
「えっ? 本当ですか!?」
「私めが餌となり炙り出す作戦です。必ずや尻尾を掴んでみせましょう」
出任せなのに、マジですか?
姫様って悪魔教徒だったの?
「発狂薬についての情報感謝いたしますぞ。まあしかし、ハイピュリフィケーションは同行させた誰にも唱えられません」
もし仮に姫様以外にも悪魔教徒が紛れ込んでいたのなら、今宵の舞踏会は地獄と化すだろう。
「教皇様、何とかなりませんか!?」
「あと十年若ければ……」
寄る年波には勝てぬってか。
精力が減退しているのだから仕方ないけど。
「こんなことであれば聖女リアーナを連れてくるべきでした」
「リアーナを!?」
確かに類い希なお胸を持つ彼女が隣にいたとすれば、枯れ果てた泉である教皇様の精力も復活を遂げられたのかもしれない。
『教皇さまぁぁ、私の風船が膨らみすぎましたの』
『おお、リアーナ! 大きくなりすぎよってからに。どれ私が吸い出してあげよう』
『嗚呼、風船の代わりに教皇様のが大きく!!』
『ウハハ、最高じゃ!!』
クッ、手に取るように想像できてしまう。
きっと教皇様も常日頃からお世話になっているのだろうな。羨ましい限りだぜ。
「む? 始まるみたいですじゃ。私めは舞台の方へ向かいます」
「ええ、お気を付けて……」
教皇様と話し込んでいると姫様と王陛下が壇上へと現れていた。
まだ何の対策も立てられていなかったというのに。
姫様の挨拶や教皇様の祝辞では何も起こらない。
しばらくすると楽団が舞踏会の開始を告げる小夜曲を演奏し始めていた。
「狂乱の舞踏会を超える地獄が始まろうとしている」
姫様に加え、悪魔教までもが発狂薬を使用したのなら。それは想像を絶する惨劇になるはずだ。
「絶対に阻止してやる」
決意を新たにしていた。
俺は誰も殺めないし、誰にも殺させないのだと。
「セレナーデに流血は似合わない」
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姫様めちゃ可愛いので、どうぞよろしくお願いします!




