13 聖女の暗殺
一週間が経過し、帝国からティアナ殿下の迎えが到着していた。
王陛下まで見送りに出てこられるのは対外的な理由に他ならない。
「皆様、とても良くしていただき感謝いたします。救出いただいたアルフレッド様につきましては後ほど謝礼の品を届けさせますので」
「殿下、俺は別に謝礼など必要ありません。帝国との友誼。個人的にもお願いしたいですね」
「あらまあ……」
追放処分となったとき、受け皿になっていただきたい。
どうしてか顔を赤らめるティアナ殿下は謎でしかないが、俺としては真意が伝わったと考えたいところだ。
「承知いたしましたの。国家間の友誼。そして個人的なお願いも……」
何だか殺気を覚える。
振り返ると、なぜかソフィア殿下が狂気モードと化していたんだ。
(なんだ? ひょっとして姫様はティアナ殿下をも?)
自分以外が主役になるのが許せないのかもしれない。
俺に圧をかけて抹殺を願っているのだろうけど、俺にとってティアナ殿下は生命線なんだ。ここは気付かないフリをするしかない。
「それでは帝国に戻りますの。ご機嫌よう……」
ウチの姫様も可愛いが、狂気成分がない姫君も捨てがたい。
刺される心配も暗殺を強要されることもないのだし、もし仮に追放処分が下ったのなら聖教会を通して帝国に亡命させてもらおうじゃないか。
お見送りのあと、俺は聖教会へと向かう。祈りと炊き出しは必須の日課なのだから。
「アルフレッド先生!!」
そそくさと立ち去る予定が、鬼神のような表情の姫様に呼び止められてしまう。
「ななな、何でしょう?」
「お分かりかと存じますけどぉ?」
頬を膨らませた可愛い表情だけど、姫様の要求は可愛らしさに比例しない。
きっと皇女殿下の殺害命令を無視したことの叱責だろうな。
「姫様のお考えは理解しております。ですが、無闇矢鱈と事を急ぐのは悪手。計画的に動きましょう」
「彼女と親しくすることも計画でしょうか?」
そりゃ亡命の受け皿候補なのだし。
だが、それを口にしてしまっては胴と首が切り離されてしまう。
「友好的であるほど、俺たちにとって(暗殺の機会が増えるので)良い塩梅です」
そういうと、なぜか姫様は表情を和らげてポンと手を叩く。
返答は濁していたものの、どうやら伝わったみたいだ。
「そういうことですか! ならばティアナ殿下には(結婚披露)パーティーにご出席いただきましょう!」
理解が早くて助かります。
とはいえ、パーティーで暗殺するとなれば、毒殺しかないような気がする。
「準備は任せてください。先般の件も滞りなく」
「よろしくお願いしますわ。わたくし、とても楽しみです」
帝国のプリンセスには申し訳ないが、貴方様には棘だらけの美しい薔薇が巻き付いてしまったようだ。藻掻くほどにそれは貴方様を苦しめるだろう。
「姫様、俺は聖教会へ向かいます。炊き出しの時間ですから」
「お気を付けて。昼からは授業をお願い致しますね?」
上機嫌の姫様。毒殺は姫様の美学に反している気もするのだが、殺害方法まで指定されていないし、俺の知ったことではない。
(聖女に続いて隣国の姫君もか。毒物について研究する必要があるな)
いつもと同じように大聖堂へと入る。女神像の前で徐に跪き、熱心に祈った。
もちろん、俺の未来に光が射すようにとの願掛けだ。
「アルフレッド、おはようございます」
早速、聖女様のご登場らしい。
狂気の姫君にロックオンされたとも知らず、ノコノコと現れるなんて暢気なものだ。
「リアーナ、おはよう」
さて、どうしたものか。
ソフィア殿下は聖女のポストを狙っている。かといって、聖教会ナンバー2であるリアーナが不審死を遂げてしまっては物議を醸すのは必然だった。
(何とか聖女を辞退させてみようか)
姫様もポストが空けばそれでいいはず。俺としても無駄な罪を背負いたくないし。
「リアーナ、つかぬ事を聞くが、お前は聖女であることをどう思っている?」
「聖女? ずっと聖女でしたから考えたこともありませんけれど」
「どういうことだ?」
「聖女は女神様によって選定されているのです。産まれて間もなく、女神様が降臨され、私が聖女なのだと告げられたのですわ」
なら絶対にウチの姫様には無理じゃん。容姿からは考えられないほどの巨悪である姫様が聖女に選定されるはずもないのだから。
「じゃあ、聖女を辞めるとかは?」
「そういうものではありませんわ。私は世界の安寧を願うだけの存在ですから」
やっぱ暗殺しかないってのか。
聖女に選定されないとしても、ポストすら埋まった状態じゃ姫様は絶対に俺を許さないし。
「それはそうと炊き出しの時間ですわね? 私もお手伝いしようと考えておりますの」
話題を変えたリアーナは俺の腕に絡みつく。
(うっ、今日も柔らかい!)
巨大な風船で俺の腕を挟み込むんじゃない!
一歩踏み込んで矜持心をズタズタに斬り裂かれる覚悟を俺はまだ決めていないのだぞ!?
「だけど、現実のリアーナには謎の光がないんだよな……」
俺がプレイしていた『姫様、ご乱心!』はパソコン用のゲームソフトだ。しかし、エロシーンには配慮があって、胸の先とか股間とか肝心な部分は謎の光という真っ白な煌めきで隠されていたのだ。
「アル、どうして謎の光をご存じなのでしょう?」
急に愛称で呼ぶリアーナ。やはり彼女は距離の詰め方が雑すぎるような気がする。
「えっ? リアーナは謎の光を知っているのか?」
「アルこそ、どうしてです? 謎の光は私が女神様から授かったスキルなのですけど」
やはりフローリス世界はゲームの理に基づいているのか?
ってことはリアーナの果実も謎の光で隠されている?
謎の光が存在するのであれば、俺はリアーナの秘部を拝めない。もし仮に俺が最初の夜に失態をしでかしたとして、プライドがズタズタになるだけで見返りがないってことだ。
「夢も希望もねえな!?」
「希望ですか? 確かに、解毒魔法のような普通のスキルでしたが……」
おっと、いけない。
思わず、本音を撒き散らしてしまったじゃん。
「ああいや、謎の光はどうして覚えた? 解毒といったか?」
俺はリアーナの毒殺を考えている。従って、この話を聞き流すわけにはならなかった。
「実は悪魔教に狙われております。とあるパーティーに出席した折、特殊な毒を盛られたのですわ。そのとき女神様の声が脳裏に届きまして、謎の光で解毒するようにと。謎の光は悪しきものを除去する力なのです」
ガチで女神様の使徒みたいだ。危機に際して即座に対応してくれるなんて。
また悪しきものについても理解できた。見えすぎは健全な青少年の育成に毒だからな。
(悪魔教ってゲーム内で邪教徒と呼ばれてたやつらか?)
邪教はほんの少し出てきただけ。存在自体があやふやだったけど、バッドエンドの一つでその名を聞いたと思う。
「悪魔教がどうしてリアーナを襲う?」
「どうも大悪魔の復活に私の魂を供物としたいようなのです。私は女神様の神力を濃く授かっておりますから」
そういや、そんな話だった気がする。
悪魔に贄を捧げて復活を目論んでいるとか。上位貴族を惨殺した教育係が邪教の一員だと指摘されて、断頭台へと送られたっけ。
(んん?)
いや、落ち着け。冷静に考えよう。
確かあのイベントは毒を盛られて発狂した教育係が大乱闘を演じ、主人公だけでなく上位貴族を軒並み惨殺したんだっけ?
しかも毒は姫様に盛られたものなのに、教育係アルフレッドが邪教の一員だと姫様は証言してしまったんだ。
確か『狂乱の舞踏会』というシナリオだったはず。主人公諸共、貴族たちをぶっ殺した教育係はめでたく斬首刑に……。
(教育係って俺じゃん!!)
何てことだ。
リアーナは単なる経験値供給器だったのに。彼女との接点は邪教との繋がりでもあったのか。
「私の魂くらいで大悪魔が復活するとは思えないのですけどね」
いや、栄養を蓄えた果実が二つもあるし。
きっとリアーナの魂を贄に差し出されたのなら、大悪魔も秒で復活するだろう。
『ぐふぅぅ、栄養……栄養……』
『サタン様、今すぐ栄養を搾り取りますので!』
『いやぁぁ! 搾らないでぇぇ!』
『ぐぬぅ! 漲るぞ! 生命力ぅぅ!』
魂の概念は分からんけど、こんな感じだろう。
リアーナの果実であれば死人でも生き返るはず。男限定だけど。
(悪魔教がリアーナを殺害してくれたら助かるけど……)
俺にとって願ったり叶ったりの展開だが、静観していいものだろうか?
いや、違う。俺は邪教に絡むゲーム内の結末を知っているじゃないか。
『アルフレッド先生は巨乳好きであり、悪魔教徒ですわ』
恐らく姫様は俺が巨乳好きだと知っている。俺は毎日エマさんのお胸を凝視しているのだから。
『なんと! ならばアルフレッド、邪教徒ではないと証明しなければならん。この巨乳を踏みにじってみせるのだ!』
『踏み乳!?』
手枷を付けられた教育係の眼前に巨大な踏み乳が運ばれてくる。
完全なる異端審問。たわわな果実を踏みにじらなければ、俺は悪魔教徒とされてしまう。
『無理だぁぁっ!』
『判明した! アルフレッドは悪魔教徒だ!』
理不尽すぎる。
男なら絶対に踏みつけられない。そのような野蛮人にはなれなかった。
「許せねえ。悪魔教……」
「アル、ひょっとして悪魔教と戦うおつもりですか!?」
当然だろう?
巨乳を信仰に絡めんじゃねえよ。俺は絶対に許さないからな。
「リアーナ、教えてくれ! 悪魔教について知っていることを全て!」
後手に回ってはいけない。
姫様に濡れ衣を着せられる前に悪魔教の対処法を考えておくべきだ。
「悪魔教は確実に存在しますが、神出鬼没なのです。聖教会でも調査しておりますけど、拠点はおろか構成員でさえも不明ですの」
ま、そうだろうな。
眉唾物の存在だからこそ、俺は『狂乱の舞踏会』にて姫様に嫌疑をかけられたのだ。完全なマッチポンブであったというのに。
「認めんぞ! (斬首刑の理由を増やすなんて)悪魔教は絶対に許さねえ!」
「まあ、私のためにそこまで!?」
誤解を招いているようだが、結果的に間違いじゃない。
悪魔崇拝とか知らねえけど、邪教は徹底的にぶっ潰してやるぜ。巨乳好きの自由を勝ち取ってやろうじゃないか。
「邪教徒は地獄の汚泥にまみれて死ね……」
超天才の俺を巻き込んだこと、後悔させてやろう。
たとえ、それが未確定の未来であったとしても。
「蜘蛛の糸すら届かぬ地獄の深淵まで叩き落としてやる!!」
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そちらもお読みいただければ幸いです!




