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姫様、ご乱心! ~天才教育係(俺)の生存戦略はキュートな姫様のドS化でした~  作者: 坂森大我@ヤンチャンWEBコミカライズ『姫様、ご乱心!』連載中


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12 罪と罰とハッピーエンド

「どうしてだ!?」


 俺は王宮の中庭で磔にされていた。

 姫様の指示通りに聖女リアーナを懐柔したものの、どうしてか投擲の的にされていたんだ。


「エマさん……?」


「お部屋を掃除するのも大変なんです。先ほども飛び散った果実の掃除をしましたから。中庭なら問題ないとの判断です」


 そうじゃない!

 良識あるメイドなら、超絶有能教育係の死刑を阻止するべきだろ!?


「せんせぇぇ、スキルはやはり実践を介してブラッシュアップすべきですよねぇ?」


 もうダメだ。

 これは完全に『わたくし、退屈なので逝去あそばせ?』の眼じゃないか。


「なぜだ……?」


 俺は姫様の命令を完遂し、聖女リアーナと腕を組んで戻っただけだぞ?

 加えて王陛下のご命令通り、無料でティアナ殿下や少女たちの奴隷具を解除してもらったんだ。


「エマ、先生の両肩に一つずつリンゴを……」


「はい、殿下」


 いやいやいや、リンゴを狙うのなら、俺は必要ないでしょ?

 従順な教育係を脅かす必要はないと思うのですけど。


「ここに三本のペティーナイフを用意しましたの。リンゴの数と同じですわ」


 リンゴは二つですよね!?

 三つ目のリンゴはどこにあるのですか!?


「一投目!!」


 もの凄い殺気と共にナイフが投擲され、左肩のリンゴが爆発。加えてナイフは磔にした板をも貫通してしまう。


(やはり死の接吻のせいか?)


 あのキスは処刑を意味していたのだ。

 必死で抗う俺を嘲笑うだけで、結論は既に出ていたらしい。


「二投目ですわ!」


 華麗なフォームだ。盗賊も真っ青になるナイフ使いじゃないか。きっと、これが天賦の才なのだろうな。


 右肩のリンゴもまた破裂して、残すは中央のリンゴ(俺の頭部)だけとなった。


「最後のリンゴ様に質問です。どうして、わたくしを裏切ったのでしょう?」


 今も鬼の形相で俺を睨む彼女は辞世の句ではなく、理解できない質問をした。


 裏切るってどういうことだ?

 俺は姫様の要求通りに、聖女を籠絡させたというのに。


(いや、違う……)


 姫様はその先を俺に要求していたんだ。

 俺に突きつけた宿題は懐柔といった簡単なものではなかったらしい。


(姫様は聖女の地位そのものを欲していたのか?)


 そんな気がする。

 聖教会を掌握するのに聖女として入り込む。聖女を操るのではなく、自ら聖女となって聖教会を乗っ取ろうとしていたんだ。


 つまり、姫様の企みは聖女の暗殺──。


 これ以外に存在しないと思う。ならば俺はこの状況にも弁明を並べることができよう。


「姫様、全て計画通りですよ……」


「はいぃ?」


 分からないですか?

 俺は既に聖女を完全に制御している。王城が建つほどの寄付金を免除してくれるくらいに。


「裏切りではありません。姫様のお考えは熟知しておりますゆえ。ただ聖教会にはまだ利用価値がございますし、事を急ぐ場面ではないのです」


 聖女の暗殺ともなれば大仕事だ。

 幾ら姫様が望まれていたとしても、二つ返事で実行できるはずがない。


「先ほどの件でしたらご心配なく。俺は姫様が望まれるがままの未来に到達してみせましょう」


「本当ですか!? わたくしは期待しても良いのですね!?」


 目を輝かせて姫様。やはり姫様は聖教会を直接的に支配したいようだ。容姿に似合わず強欲がすぎるってものだな?


 やはり俺は天才だ。皆まで聞くよりも前に理解してしまうなんて。


「当然でしょう? 準備が整うまでお待ちください。(暗殺は)然るべきとき、手筈通りに行いましょう」


「ええ、(婚姻は)手筈通りに。わたくしはその折を楽しみにしておりますわ」


 予想通りか。

 王国だけでなく、宗教組織をも手中に収められるとか、とんでもないお姫様だぜ。


「(聖女が羽織る)純白の衣装。きっと姫様はお似合いになると存じます」


「嫌ですわ。アルフレッド先生ったら気が早い。まあでも、(ウエディングドレスの)準備は始めた方が良いかもですわね」


「姫様ならば問題ありませんよ。美しいブロンドの髪が白銀の衣装に映えるでしょうな」


「うふふ、ご期待ください。アルフレッド先生……」


 いつしか殺気は消えていた。

 やはり姫様はリアーナを亡き者とし、空白となった聖女の枠に名乗りを挙げたかったらしい。


「それは良いとして、アルフレッド先生には注意しておかねばなりませんの」


 再び少しばかりの緊張感があった。

 可愛い顔して暗殺以上に困難な問題を突きつけてくるんじゃないだろうな。


「無茶をしないでください。盗賊団のアジトに一人で乗り込んだと聞きました。事前に話を聞きたかったですわ。その件に関しては残念に思います」


 えっ?

 意外にも俺を心配するような言葉が発せられていたんだ。


「姫様……?」


 貴方様はドSであって、断頭台へと上る俺の姿に涙を見せる人じゃないですよね?

 俺は無事に戻ったというのに、どうして悲しそうな顔をしているのです?


「俺を心配していたのですか?」


 確認せずにはいられない。

 万が一にも『姫様、ご乱心!』のソフィア殿下では考えられないことだからだ。


「当たり前ですよ……」


 端的な返答に息を呑む。

 なぜか姫様は玩具でしかない教育係を心配しているという。


「わたくしはまだ愛を知りません」


 その台詞には意図せず前世の記憶が蘇った。

 確かに覚えがあったんだ。ハッピーエンドへの過程にそれはあったのだから。


 最初の夜にソフィア殿下は言った。自分は愛を知らないのだと。



『愛とは何? 身体を重ね合うことなの?』


 選択肢は二つ。一つはイエスであり、もう一つはノーであったはず。


『身体を重ねることじゃありません』


『じゃあ、何? 貴方はわたくしを愛していないの?』


 問いが続く。真のハッピーエンドはソフィア殿下を否定し続けた先にあったんだ。


『愛していますよ』


『なら抱いたらどう? それが愛し合うってことなんでしょ?』


『違いますよ。このまま抱いても、姫様の気持ちがどこにもない』


 小首を傾げるソフィア殿下に主人公は小さく笑う。


『姫様は心をなくされているのですね?』


『わたくしは全てを持っているわ! 何も失ってなどいない!』


『そうですかね? 僕にはそう思えません』


『無礼もほどほどにしなさいな? 貴方は王配でしかないのですよ?』


『出直します。おやすみなさい』



 このイベントで姫様を受け入れると、真のハッピーエンドには到達できない。

 魅惑的な格好で求める姫様を拒絶し続けなければならなかった。


 妙な記憶を思い出しちゃったな。

 初めてこのイベントを迎えたとき、俺は焦って姫様を抱いたのだっけ。


(それでも姫様は孕んでゲームクリアとなった)


 何か違うと思った。

 俺は真のハッピーエンドがあのイベントの先にあると感じたんだ。何度もやり直したのは本当に幸せそうな彼女が見たかったから。


「姫様は恋をしたことあります?」


 どうしてか俺は問いを返してしまう。記憶の通りにするのなら、彼女の話を否定し続けるだけだったのに。


「あります。九歳の頃でした。まあでも、良い思い出だったと考えるようにしております」


「どうしてです? 愛を知ることはできなかったのですか?」


「縁がなかったと申しましょうか。あの頃から、ずっと愛を探しています」


 姫様を袖にするなんて、どこの王子様だろうな。当時から可愛らしい美少女だったはずだけど。


「だからこそ、心配しております」


 再び息を呑んだ。

 それって、俺に求めているのか?

 失った愛を俺に……?


「俺はどうしたら良いのですか?」


 情けないことに、質問を返すしかない。

 ゲームの知識以外で俺は無力すぎた。


「聞かないでください。そんなこと……」


 脈打つ心臓が痛い。

 激しすぎる鼓動を聞かれていないだろうか?


「姫様……?」


「アルフレッド先生……」


 妙な雰囲気になってしまう。

 もしも俺が姫様に手を出したのなら、俺は恐らく罪に問われる。たとえ両想いであったとしても。


「キャァァ!?」


 不意に叫声と何かが割れる音がした。

 振り向くと、エマさんが割れた皿を拾い集めていたんだ。どうやらリンゴを乗せていた皿を落としてしまったらしい。


「エマァァ?」


「すみません、殿下!」


 きっとエマさんは気を利かせてくれたのだろうな。

 姫様の気まぐれに乗っかって、越えるべきでない一線を踏み跨いではならないのだと。


(俺はちゃんと姫様を誘ってあげないといけない)


 決意を新たにしていた。

 俺は姫様の教育係。推しである彼女のため、真のハッピーエンドに向かうのだと。


 最後のスチルには教育係の姿などなく、主人公とヒロインの幸せそうな笑顔があるだけなのだ。


「姫様、俺は必ずや貴方様が望む未来へと導きましょう」


 ドMルートを選択しつつ、俺はイレギュラー的な死刑をも回避し続ける。加えて、ドSな姫様が要求する難題も全てクリアしてやろう。


 それが姫様の幸せであるのなら。

 俺が生き残るだけでなく、最高のエンディングを彼女に見せたかった。


 是非、愛を知ってくれ。

 あのスチルと同じような曇りのない笑顔を見せてくれよ。


「珠玉に彩られた未来へと、俺がご案内いたします」


 たとえ姫様の望む世界が真紅に染まる血まみれの世界であろうとも。


 俺はどこまでも突き進むだけだ。

姫様、ご乱心! コミカライズ第一巻は6月26日発売です!

どうぞよろしくお願いします!

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