10 思わぬ邂逅
「哀れなリンゴがどうなったのかを……」
なぜか再び姫様が狂気モードになっていた。
(クソ、死の接吻を有耶無耶にできたと思ったのに……)
この目は明確に前世の記憶と同じだったんだ。
『わたくし、九死に一生を得られなかった人間が見たいですの』
『姫、九死に一生を得られないって……?』
『分かりません? 九回死ぬことですわ!!』
『ぎゃあああああ!!』
てな具合に間違った解釈にて九回も殺しに来る目じゃん。これは絶対にヤバいって。
でも、どうしてだ?
俺はただ功績を重ねようとしていただけのに。
(やはり帝国の姫君にライバル心でもあるのか?)
F世界V国。フローリス世界におけるヴァルディア帝国は大国の一つ。隣り合う王国とは争いごとが絶えなかった。
(ならば、早々にティアナ殿下には帰国してもらうしかないな)
姫様の機嫌を損ねてはならない。
投擲スキルの的にはなりたくないし、隣国の姫君が破裂するなんて事態は回避すべき事案なのだ。
「姫様、俺は聖女様に取り入って、迅速に対処いたしますので」
「その先は分かっておいでですわね? せんせぇぇ?」
怖すぎる。何に苛立っているのか不明だけど、俺やティアナ様の頭部が破裂寸前であることだけは確かだ。
「もちろん理解しております! 適切に対処しますゆえ!」
「よろしいですわ。流石は先生ですの……」
そろそろナイフから手を離してくれませんか?
姫様に背を向ける覚悟ができませんので。
「アルフレッド、よろしく頼む。儂は帝国との争いを好まぬ。誤解されぬように頼むぞ」
王陛下の命を受け、俺は後ずさりしながら謁見の間をあとにする。
何とか姫様のスプラッタナイフは回避できた模様だ。
◇ ◇ ◇
俺は再び平民街へとやって来た。
大聖堂へと赴くもマギナ教皇様は所用で留守にしているようだ。
「まいったな。聖女リリアナとは面識がないってのに」
聖女リリアナ。エロゲーである『姫様、ご乱心!』において、彼女はエロスチル発生装置のようなものだ。
普段はお淑やかで品行方正な女性だけど、彼女は主人公ダニエルの愛人候補である。
「リリアナを攻略しなければゲームクリアは不可能だし」
ダニエルがリリアナを愛人にしなければ、姫様を陥落させられない。
なぜならリリアナと関係を持つだけで、精神値とテクニック値が爆伸びするからだ。
「この機会に仲良くなっておけば、後の攻略にも役立つはず」
ドMルートを突き進むのなら精神値の向上が必須。刺されても斬り裂かれても心が折れない強いダニエルになってもらわなければならないのだ。
「ま、彼女の弱点は分かっている」
出会えさえすれば問題ない。リリアナは遠回しに口説いては駄目だ。
押し続けること。初手から迫っていけば確実に落とせるはず。
「リリアナは押しに弱い!」
いきなり攻めるのは悪手のように思えるが、リリアナは鈍感であって遠回しな選択肢では絶対に伝わらない。
『リリアナ、大好きだ!』
『ダダダ、ダニエル様!?』
『即時、合体するぞ!!』
『あぁぁれぇぇ!』
とまあ、こんな感じで直球オンリーでいく。
初手からドンドン攻めていけば、彼女はその性格から拒絶できないのだ。
「博愛精神を逆手に取り、ダニエルの経験値になってもらうぜ」
作戦は立てたのだけど、肝心のマギナ教皇様がいないと取り次いでもらえそうにないな。
「出直すか……」
一応は女神像に死にたくない旨を祈ってから、俺は大聖堂をあとにしようとする。
だが、そのとき、
「お待ちください」
俺を呼び止める柔らかい声が届く。
振り向くと、純白の法衣に身を包んだ女性がそこにいたんだ。
(たぶん聖女リリアナだよな? 類を見ない爆乳だし)
ゲームではブロンド髪だったと思う。
だけど、ヴェールから覗く彼女の髪色は桃色。しかしながら、全てのプレイヤーを魅了した爆乳は聖女である証しだ。
「聖女様……?」
「はい、私は聖女リアーナです。貴方様はバロウズ卿でしょうか?」
聖女に違いなかったが、名前が異なる。
まあしかし、そもそも異世界にあった物語だ。多少は差異が生じるものなのだろう。
「リアーナ様、初めまして。アルフレッド・リブ・バロウズと申します」
「ご丁寧に。ご評判通りのお方ですのね?」
クスクスと笑うリアーナ。俺の評判って何だろうな?
「いえ、ただの大臣補佐ですよ。権力も何もございません」
「ご謙遜なさらずとも。貴方様の祈りはフローリス様に届いておりますから」
む? 俺の願いが届いているって?
そんなこと分かるのか?
いやまあ、確かにお導きはあった。何しろ、面識がなかった聖女とご対面できたのだし。
「ありがとうございます。それで聖女様、不躾ですが……」
早速、攻略開始だ。押しに弱い聖女を押して押して押しまくるしかない。
「とてもお美しいですね……」
とりあえず褒め倒しだ。好感度を上げまくることこそが聖女攻略なのだから。
「お上手ですわ。私はどこにでもいるような女ですわよ?」
「いえ、一目見て息を呑みました。まるでフローリス様の生き写し。貴方様以上の美貌を持つ女性がこの世に存在するとは思えません」
顔を紅潮させる様子を見る限り、好感度がガン伸びしたと疑わない。
さっさとカンストさせて、奴隷具の解除を願うっきゃねえ!
「聖女様は彼氏とかいらっしゃるのでしょうか?」
直球オンリーだ。
姫様とは違って刺される心配がないのも良い。前世の記憶通りに俺は攻略するだけだぜ。
「わわ、私は神に仕える身……。彼氏だなんて……そんな……」
「聖女様とてご結婚なさるのでしょう? 生涯、純潔を守る規則もないはずですが?」
早く陥落しろ。貴様の仕事はダニエルの精神値をアップさせることだ。経験値供給器と成り果てるがいい。
「それは……そうなのですが、未だかつて告白とかされた経験もございませんし」
「そんなバカな……。貴方様は一輪の花。フローリス世界に咲く純白の薔薇だというのに」
歯の浮く台詞はゲーム世界の選択肢だ。
実をいうと俺は童貞であって、女性経験は少しもない。
婚約者がいたこともあったけど成人を前に破局していたし、貴族院では学びに重点を置いていたから。
つまり前世から今まで異性との経験値はエロゲーからしか摂取できていない。加えて、その経験値も謎の光によって肝心の部分が見えなかったんだけどな。
「そそそ、それほどまでに……?」
良い感じになった気もするが、もう一押し必要だろう。
俺は聖教会への寄付金を大幅に減額させるという重大任務を請け負っている。
奴隷具の解除を、極めて個人的な用事として処理してもらわねばならんのだ。
「美しい貴方様との出会いは女神フローリス様の思し召し。この出会いによって些細な俺の用件は叶う。美しい貴方に(奴隷たちが)見捨てられないことを俺は願ってます」
「わわ、私が見捨てるだなんて、そんな……?」
これだけ美しいと褒めちぎったんだ。
無料で奴隷具を解除してくれ。二十人くらいいるけど、全員無料でお願いします。
「貴方様に願いごとがあるのです。どうか承諾いただけませんか?」
「よよよ、用件は概ね理解しましたが、貴方様はフローリス様に誓えるのですか!? まずはそこからです!」
具体的には口にしていないものの、聖女ともなれば願いごとを察知できるのかもしれん。
正直に彼女が何を言っているのか理解できないけど、無料で引き受けてくれるのなら誓うくらいしてやろう。
「誓いましょう。(寄付金がない)俺は願うしかできません。明確にしておくと、その願いは国家や聖教会とは無関係であって、極めて個人的なお話です」
「こここ、個人的なお話であるのは理解しましてよ! 誓っていただけるのでしたら、異論はありませんわ!」
王陛下の話によると、聖教会を通すと城が建つらしい。
だから、これは個人的な用事。間違っても教皇様に報告しないでくださいね?
「思えば、私の価値は聖女であることだけでした……」
どうしてかリアーナが語り出す。けれども、その表情は俺の要求に難色を示すものとは違う。
「貴方様は私を個人として見てくれました。一人の女として……」
そういえばゲームでもこんな会話があったような気がする。
きっと俺は聖女に認められたんだ。押しに弱い彼女は、もう俺の要求を断れないはず。
「承知いたしました。私は貴方様が望まれるままに」
やったぜ!
聖女リアーナの攻略が完了。褒めまくった甲斐もあるってものだ。
ところが、続けられたリアーナの台詞に俺は愕然とさせられてしまう。
「一生涯に亘り、アルフレッド様を愛しましょう」
んんん?
愛するってなに?
俺はただ個人的に奴隷具の解除を頼みたいだけなんだけど?
「ああいや、俺は奴隷の……」
「まあ! 奴隷のように尽くしてくれと仰るのね? 分かりましたわ。承知いたしましたの! もう貴方様しかおりません。ふつつか者ですが、末永くご寵愛くださいまし!」
あれ……?
あれれ?
奴隷のように尽くしてくれるのなら、奴隷具の解除くらいしてくれそう。だけど、不純聖女との交際なんて望んでないっての。
「アルフレッド様ぁぁっ……」
色っぽい目で見るんじゃない!
俺は童貞なんだ。そんな我が侭ボディで迫られても対処できんぞ。
「お慕い申し上げますぅ」
パンパンに膨らんだ二つの果実が俺の腕に絡みつく。
柔らかい……。ああいや、実にけしからん。
「身も心も貴方様のものですぅ」
俺はどこで間違ってしまったのだろう。
それとなく要求をぶつけるつもりが、どうしてか俺の身柄を差し出すことに。
(ヤンデレ聖女ルートに入ったのか?)
好感度上げを急いだせいで、禁断のルートへ入ってしまったのかも。
困惑する俺をよそに、リアーナは尚も効果抜群の連続攻撃にて俺を惑わせていた。
状況は不明なままであったけど、明確に分かることもあったんだ。
爆乳ってヤバい──。
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そちらもお読みいただければ幸いです!




