9 不躾な転校生
その日の朔は珍しく教室内で起きていた。
昨日、維月にサンドイッチを食べるように言われた後、眠れたからである。起きた時に維月はおらず、夕方だったので朔はバイトに行った。
そんな事もあって、久しぶりに朔は学校でうつ伏せずにしっかりと座っていた。
隣の席には当然のように維月がいる。
(こいつ、最近までサボり魔だったくせになんで来てるんだよ!)
起きているといってもやることは特にないので朔はスマホで音楽を聞く為にイヤホンを用意する。
いつの間にか担任が来ていたようだ。
朔は名前すら知らない担任の男性教師をぼーっと見る。教師は女子生徒を連れていた。
(誰だ、あの女子)
朔は不思議に思う。
隣の席の維月は微塵も興味がなさそうにスマホをいじっていた。できれば朔に向ける好奇心を少しは彼女に向けて欲しいと朔は思う。
「皆さん、えっと転校生を紹介します。えっと…こっちで自己紹介してください」
(えっとが多いな。ふにゃふにゃしてる教師だ)
覇気のない教師の言葉を聞いてクラス中がざわめきたつ。転校生などとても珍しいので仕方がない。
特にこんな中途半端な時期にくるものなのだろうか。
転校生である女子生徒が教師の隣に行き、自己紹介をする。
「はじめまして。相川友奈です。よろしくお願いします」
ふわりと控えめに友奈は微笑む。笑顔に周りを明るくする効果でもあるのかと錯覚してしまいそうなほど可愛らしかった。
友奈は美少女だ。
華奢な体躯にふわふわの少し茶色がかった黒髪。ぱっちりとした大きな目に柔らかそうな唇が愛らしい。
そんな友奈が微笑むだけでクラスの男子はもちろん、女子てすら頬を染める。
友奈の席は喜ばしいことに朔とは近くない。
(席が近くじゃなくて良かった。近くだと絶対うるさいだろうしな。)
内心朔は喜ぶ。しかし、現実はそう甘くなかった。
***
「ねぇ!朔ちゃんって言うの?可愛い!仲良くしよう!」
いつもよりマシとはいえ、万年寝不足な朔に友奈のハイテンションな高い声はとても響く。
朔が顔をあげると机に手をついて朔のほうに乗り出す友奈がいた。
(頭痛い……。高い声めっちゃ響く…)
朔はひっそりと頭痛に耐える。
そんな朔に気づかず友奈は興奮気味のまま、話しかける。
「髪染めてるの?キレーなホワイトブロンド!無気力系?可愛い!友達なろ!!」
ハイテンションな友奈の発言は内容を理解するだけで朔にはいっぱいいっぱいだ。
しかし、最後の発言にだけは朔は頑張って返事をする。
「絶対にならない」
朔が返事をした瞬間、友奈が悲しげな表情になる。当然、クラスメイトからの批判の目線が朔に集まる。しかし朔は気にしない。
スマホが振動する。維月からだ。
ろくでもない内容と分かっていても一応メッセージを確認する。
『よくやった。あんな女と友達になる必要はない。』
『お前の友達は俺1人で十分だ』
(転校生の美少女をあんな女呼ばわり…。)
実際ろくでもなかった。
先程の朔の言葉を褒め称えるのは維月だけだろう。他の生徒からは確実に裏で非難されている。
ツッコミどころ満載のメッセージを読んで、朔は溜息をつきながら返信する。
『あんたの為じゃない。あと友達じゃない』
スマホでメッセージを送る朔に友奈はしつこく話しかける。机を挟んで目の前にいたはずの友奈はいつの間にか朔の隣にいる。
「本当に髪綺麗!サラッサラのストレートだぁ。羨ましい!」
友奈が朔の髪に触れようと手を伸ばす。
(っ!それ、は)
朔は昔を思い出してとっさに友奈の手を振り払う。
友奈には朔に危害を加える気はないだろう。だが、朔は条件反射のように振り払っていた。
「触んな」
朔が思っていたよりも低い声が出る。
目の前の友奈は驚きで目を見開いて固まっている。他のクラスメイトも同様の反応だ。
恐らく険しい顔の朔を見て睨まれたとでも思っているのだろう。
朔は椅子から立ち上がり、教室を出た。
(はぁ、はぁ。まずい、頭クラクラする。とりあえず人のいないとこ行かなきゃ……)
昔を思い出したせいで心臓がバクバクしているし、冷や汗が流れている。
残暑が厳しいと話題のこの時期なのに、朔の手先はとても冷たかった。
朔が教室を出るのを呆然とクラスメイトは見る。
維月は先程の朔の様子を思い返しながら何かを考え込んでいた。
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