8 昼休みの逃避行
(……ん。)
昼休みに朔は目を覚ます。
(どこだ、ここ……?)
朔はぼんやりした頭で周囲を見渡す。
すると、そこは人気の無い埃っぽい空き教室だと分かる。電気もつけておらず、窓からは心地よい風が入っている。
(あぁ、そうだ。別館の空き教室に逃げてきたんだ)
昼休み始めの教室には、学校に来るのが珍しい維月を一目見ようと多くの生徒が押しかけていた。
それなのに維月は多くの生徒を気にも留めず、朔に理解不能なメッセージを送ってくる。
なので寝ようと思っても寝れなかったのだ。
そんな寝るのに適していない教室から逃げ出して朔は別館に来ていた。
別館は特別教室が多く、休み時間に訪れる生徒は殆どいない。なので、朔の昼寝にうってつけの場所だった。
(うん……、もう少し寝るか)
朔の睡眠不足はちょっとやそっとの睡眠ではなくならない。朔は長い昼休みを活用してゆっくりと寝ることにした。
***
朔は誰かが近くにいる気配を察し、目を覚ます。怠慢な動きで瞬きをして、近くにいる人を見る。
(誰だ……?)
「起こしたか。すまないな」
そこには、無表情だが美形の男子生徒、維月がいた。
寝起きの朔に維月の美しい顔はあまりにも破壊力が高い。思わず顔を顰めてしまう。
朔は、まだはっきりとしない頭を最大限働かせて状況を整理しようとする。
「何であんたがここに?」
「お前が教室からいなくなったからな」
ごく普通のことのように言う維月になぜここが分かったのか朔は疑問に思う。
すると、維月は朔の心を見透かしたように言葉を続ける。
「窓から渡り廊下を渡るお前が見えた。別館の中でも人のこない場所を行きまくれば必ずお前に会えるだろう?ほら、こうして会えてるしな」
満足げな笑みを浮かべて維月は言う。
しかし、朔はその言葉に若干引いてしまい顔を引き攣らせてしまう。
(うわ………)
「ストーカーかよ……」
「ふっ、そう受け取って貰って構わないぞ」
笑って言う維月に、朔はだいぶ怖くなる。
もしや朔は執着されてはいけない相手に執着されているのでは無いだろうか。今更だがようやく気が付いた。
(ストーカーって警察に相談でいいんだよな)
警戒しながら朔は言う。
「用が無いなら出てってくれ。私は寝たいんだ」
睨みつける朔を全く気にせず維月は朔に近づく。
その表情は普段とは違った、朔を心配するような真面目な表情だった。
「用ならあるぞ。お前、飯食って無いだろ」
予想外の返答に朔は目を丸くする。
「だから何だ」
朔は訝しむような目を維月に向ける。
維月はさらに近づいて来て隣の床に座る。そして、持っていたものを朔に渡す。
「これ」
朔は渡されたものを見る。
(……サンドイッチだ)
朔の手の中には売店で買ったと思われる卵のサンドイッチと果汁100%のオレンジジュースがあった。
「何でこんなもの……。いらないんだが」
朔は眉根をよせて維月に言う。
だが維月は淡々とした口調で言う。
「はぁ。お前、朝から何も食って無いだろ。」
(まぁ、その通りだけど…)
朔はあまり食事に興味が無い。
基本、食欲よりも先に睡眠欲が勝つのだ。食べている暇があるのならば寝ると言う考えが朔にはある。
そして今日も例外では無かった。
「な、だからこんなにも細いんだよ」
そう言って朔の腕を優しく掴む。
朔のパーカーから覗く手首は華奢で、維月が力を込めれば折ることも容易だろう。
「ほら、俺の前で食べろ」
命令口調だが、声は優しい。
そこから本当に心配していることがうかがえる。なので仕方がなく言われた通りにする。
「……分かった。食べれば良いんだろ」
サンドイッチの包みを取って朔は一口かじる。
濃厚な卵とふわふわなパンの味が口に広がる。
サンドイッチはあまり食べない朔だが、これは好みだった。
(美味しい……)
黙々と食べる朔を維月は片膝を立てて頬杖をつきながら眺める。
空き教室にクラスで浮いている不良が2人一緒に隅の壁の側に座っている。
それはとても奇妙で不思議な光景だと誰もが思うだろう。しかし、朔にはとても心地良くて落ち着けた。
最後の一口を食べた朔は、維月に感想を伝える。
「美味かった。…ありがとな」
少し照れくさそうに礼を言う朔を穏やかな目で維月は見つめる。
「あぁ」
静かで穏やかな沈黙。
何も話さず、何もしない。朔にとってはそんな今の時間がとても心地良い。
いつの間にか朔は眠りについていた。
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