10 過去と今
教室を離れた朔は空き教室で座り込んでいた。
窓から入る日差しが朔の眠りを誘う。
***
朔は夢を見ていた。
ぼんやりと2人の男女と小さな男の子が見える。
朔の家族だ。
3人は振り返って朔の方を向くと、顔を顰めて次々に暴言を吐いた。
『気持ち悪いのよ!あんたなんかが私の娘なわけないでしょ!』
朔の母親は朔を何度も殴る。
昔のことだ。
ずっと殴られ続けて慣れている。
口を開くと悪化することが分かっているので幼い朔は口を閉ざす。
次に言葉を放ったのは朔の父親だ。
『これが娘?馬鹿馬鹿しい。ただの薄汚れた変な色合いのガキだろう』
そう言って朔の色素の薄い髪を引っ張る。
次は朔の弟だ。
朔と違い両親と同じ黒髪黒目の弟は、両親が朔を虐めているのを見て朔を虐げるようになった。
だが弟はなぜ両親が朔を虐めているのかも分かっていないだろう。
『お前は姉じゃない!近寄んな化け物!』
弟にまで朔は蔑まれる。
とうとう最後の時がやってくる。
暗い家の中、荷物をまとめた家族は朔を見て言う。
『あんたなんか家族じゃない。いらないんだよ』
朔を冷たい目で見下ろして家族は家から出ていく。
そうして朔は独りになった。
***
「ゔ……、あ゙ぁ゙っ」
朔は呻きながら起きる。
すると目の前には維月が眉をよせて朔の前に膝をついていた。
手を朔の方に近づけているあたり、悪夢をみていた朔を起こそうとしたのだろう。
(久しぶりにみた……。あの転校生のせいで昔を思い出したからか?)
朔は思考をなんとか働かせる。だが、冷や汗が頬をつたい体はとても冷たく顔も青白い。
先程友奈に触られそうになった時よりも悪いだろう。
目の前にいる維月が突然焦りだす。
「おいっ!お前」
(どうして慌ててるんだ……?)
朔が不思議に思っていると、維月の手が朔の頬に添えられる。
維月の手は大きく骨っぽい。朔の頬がじんわりとあたたかくなる。
維月の手が朔の眦をそっとぬぐう。
いつの間にか泣いていたようだ。
「大丈夫か?」
維月は心配そうに朔の顔を覗き込む。
「……問題、ない」
寝起き特有の掠れ声で朔は答える。
しかし維月は朔の言葉を信じていない。
「問題ないやつが泣くかよ。何があったんだ?」
眉をひそめて維月が優しく言う。
(なんで……)
朔の目からさらに涙が溢れる。
(もう…良いかもな。知って離れるならそれで……)
朔は心を決めた。
人に自分のことを言うのは初めてだ。
「あ、あのな。私は捨てられたんだよ」
声が震えてしまう。
維月が眉をひそめる。
「8年前、私が7歳の時。夜に家に置き去りにされた。今は家族がどこにいるのかも何をしているのかも知らない。まぁ殴られるよりはましなんだけどな。笑えるよな……」
言っていてさらに悲しくなる。
維月もなぜか悲しそうな顔をしている。
「そうだったんだな。悪いな、そんな事無理に聞き出そうとして」
維月は朔の過去を聞いても優しい。
(なんで、どうして……)
戸惑う朔に維月は言葉を続ける。
「俺はそんな事でお前を離れたりしない。むしろもっとお前と仲良くしたいと思える」
意味が分からない。
でも朔にはとても嬉しい言葉だった。
「ぅ゙、うぅ……」
朔はさらに泣いてしまう。
維月はそっと涙をぬぐって言う。
「どうだ?俺と仲良くしてくれないか?本心で答えてくれ」
本心などはじめから決まっていた。ただ朔が怖くて伝える事ができなかっただけで。
「わ、私もだ。……仲良くしたい。維月と!」
そう朔が言った瞬間、維月が朔を抱きしめる。優しく、でも力強くしっかりと抱きしめる。
こらえようとした涙がまた溢れ出る。
「あぁ。俺は朔の友達だ。家族なんかよりよっぽどいい存在だ」
(維月…。初めての『友達』)
朔は珍しく笑みを浮かべる。
まだ涙を浮かべたままだが、その笑みはとても綺麗だった。
「そうだな。……本当にそうだ」
朔が笑顔でいうと維月が目をみはる。
しかしすぐいつもの無表情に戻って朔に優しく言う。
「朔、早速だが俺とサボらないか?」
堂々とサボりの提案。
学校の成績上位の人間としてはあり得ないが、朔の返事は決まっていた。
「あぁ。もちろんだ維月」
10話まで更新出来ました!今まで読んでくださりありがとうございます。
これからは友人になった朔と維月を見てください!
11話からは更新時間を変えます。ですが毎日更新するのは変わりません!
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