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辺境王国と冒険者たち  作者: 弓師啓史


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38 荒野の一騎打ち

 並べられた物はリアンナ姫の武器と、新しい装備だった。

 彼女は自分の愛剣を持つ。

 先進国で作られた最上級の魔法武器。

「その剣。現世の武器も相当なものですな、感服いたしました。しかし、姫の装備には魔術や呪詛に対する力がないようです。よければこれをお使いください」

 バリーは机に置かれていた二つの品をリアンナに差し出す。

 一つは首飾り。

 貴族の女性が持つような美しい一品。大きなダイヤモンドがついている。

 もう一つは地味な色の小さな金属製の盾。手首につける非常に小型の盾だった。

「これは?」

「首飾りは魔除けです。呪詛はダイヤモンドの聖なる光に力を失います。盾は魔力潰し。魔法の武器の効果や直接攻撃の魔力を防げます」

「……ありがたく頂戴しよう」

 怪人の差し出すアイテムに一瞬迷ったが、物の美しさもあり受け取るリアンナ。

「姫の鎧は控室にあります」

 バリー。

 リアンナはうなずいて使用人の案内でそちらに向かう。


「あら、私の装備は?」

 意地悪な顔をしてターニャが問う。

「首飾りも盾も一つしかないぞ」

「私が言ってるのは私のロッドの話」

「やっぱりか」

 がっくりするバリー。

 ぽんっと、次の瞬間には例の象頭ロッドになって宙に浮く。

「あら」

 フェリーゼ女王が笑顔になる。

「このロッドがあれば、ターニャ様も大魔道士なの」

 ロッドを手にして少女は胸を張った。

「何度も言うが、慎重に扱えよ」

 ぬいぐるみの頭が鼻を上げて念を押す。

「面白そうね、少し見せてくださいな」

 フェリーゼ。

「はい、どうぞ」

 ターニャはロッドを渡す。

 フェリーゼは子供のように目を輝かせて、ぬいぐるみの頭をポンポンと叩いてみる。

「陛下、私はおもちゃではありませんぞ」

「一度、魔法を撃ってみたいと思っていたの、あの土壁に光線を撃って」

 広間の土壁を指さす女王。

「はあ、しかたありませんな。一回きりですぞ」

 次の瞬間、象の目から怪光線が発射され、いきなりぽっかりと壁に穴が開く。

 綺麗に丸く人が通れるくらいの穴である。

「きゃ、面白い、次はあの床に」

「陛下、もうだめです!」

「ええ、もうちょっと」

「だめです!」

 バリーが強く言うとフェリーゼは不承不承諦める。

 そして、ターニャに渡した。

「いつか、世界が平和になったらこのロッドはお返しします」

 受け取りながら、ターニャが言う。

「お前との契約はもっと短期だぞ。勝手に伸ばすんじゃない!」

 ツッコミを入れる象頭。


 リアンナは使用人に案内された控室で鎧を着け、剣を振って体の様子を見る。

 先ほどの薬水が効いたのか、大分動きが戻ってきている。

 剣は違和感がある、少し軽いようだ。

 武装を整え、広間に戻る。


「失礼とは存じましたが、姫の剣に魔物を倒せる力を呪符しております。世の中には刃が通らない魔物も多いのです。魔黒軍にはそのような敵も」

 バリーの説明。

「……親切、感謝する」


 その日、夕方まで彼らは休息する。 

 ターニャはリアンナにそれとなく話しかけ、事件のあらましや、無実を証明しようとする。

「……だから、アーロン王国も妖術に騙されていたのよ」

「ええ、私も事件はおかしいと思って調べていたの。私の目の前で二人の囚人が消えたこともあります」

 リアンナはターニャの言葉にうなずく。

「消えたというのは噂で聞いていますけど、本当なのですね」

「ええ、城の使っていない部屋に彼らが飛び込んで、私たちが急いで中に入ったら煙のように消えていたわ」

「二人の行方は?」

「城の魔道士たちもわからないと。衛兵隊も調べていますが」

「城の異界に入ったのだ。そのうち出てくるだろう」

 バリーが口を挟む。

「そう、なのね」

 リアンナは彼らがいつ出て来るかとは聞かなかった。

 彼女は父を心配して心ここにあらずといった状況だったのだ。

 やがて二人は押し黙ってしまう。


 太陽が山の後ろに隠れる頃、ディアが二人を麓の街門まで案内する。


 城から谷まではかなりの急斜面だった。

 くねくねと曲がる階段と坂。

 そして、その道沿いどこの誰が建てたとも知れない土壁の建物が並んでいる。

 建物の中には瞑想にふける人々。

 彼らはいわゆる「亡者」には程遠い人物ばかりのようだ。

「この国の住人は魔物や亡者とは思えない。教えてもらわなければ誰もそう思わないだろう」

 リアンナが感想を述べる。

「ここの者どもは女王陛下の『死の静寂』と呼ばれるマナにより、悪しき力を封印しております」

 ディアが答える。

「マナとは何だ?」

「神の言語。世界創造の力です。マナは細分化され、細かな意味として分かれて世界に散っております」

「……要は強力な魔力ということか、専門性のある」

「言うなれば、そうです」


 やがて、三人は門につく。

 そこには五十人ほどの完全武装の戦士が待っていた。

 皆、黄金色の鎧に身を包み、神々しい剣や槍、大弓などで武装している。

 青白い肌と、赤い瞳。

 やはり、彼らは人ではない。

「お集まりいただき感謝する。皆、リアンナ姫の指示で動くのだ」

 ロッドの頭、バリーが大声を出す。

「姫様。私はドレフュス。我らは死を恐れません。既に死んでいるのですから。どのような策でも我らを自由にお使いください」

 筆頭と思しき大男がリアンナに跪く。

 非常に背が高く長い手足。

 髭のない高貴な顔。

 元は上古の人間なのだろうか。

「私に策なんてありません。ただ、正面の敵を打ち破って、アーロンに帰還したいだけなのです。そのためなら、一人でも突撃するつもりです」

「では、姫様の背中は我らが守りましょう」

 にやりと男は笑う。


 彼らはぞろぞろと、門を出る。

 門の先は狭い谷あいの道。

 しばらく、徒歩の行軍となった。


 日も暮れ、暗闇が完全に訪れた頃、光る目があたりに満ちている。

 悪臭と雑談。

 落ち着きのない何かの気配。

「我らは闇でも見えるが、姫様はまともな人間。光がないといけない」

 バリーがそう言うと、天空に白い光を発する球が現れる。

 一瞬、まぶしくて、何も見えなかった。


 目が慣れて見ると、そこは開けた平原の始まりである。

 その、谷の入り口を封鎖するように、皮鎧とシミターや槍などで武装する集団が陣を構えていた。

 不気味な豚のような顔の亜人間の集団。

「ヴォカーンのオーク兵だ、あんな雑兵(ぞうひょう)」

 戦士たちの一人がつぶやく。

 リアンナは剣を抜くと、戦勝を祈願してユオンやケルヴォンなどの天上神に祈りをささげる。

「ドレフュス殿。姫様の道を掃除してもらえぬか」

 バリーが先ほどの筆頭の男に声をかける。

「承知した」

 古代の戦士たちは人間には引けそうもない特大の大弓を構え、はるかな射程から斉射する。

 降り注ぐ矢は鎧や盾ごと敵を貫き、オークたちは何も出来ずに死んで行く。

 慌てて、矢を撃ち返してくるが、射程も届かず、威力もない。

「このまま矢戦で勝てそうね」

 ターニャ。

「連中の士気は衰えてません。すぐに向かってきますよ」

 ドレフュスが優しげな笑顔で答える。

 確かに、矢の死傷者を見捨てて体制を整えると、オーク軍は槍とシミターを構えて突撃を開始した。

「敵は数が少ない! 乱戦に持ち込め!」

 敵の中でひときわ大柄な鎧の将軍が大声を上げる。


 戦士たちは弓を置くと、槍や剣を構えた。

 リアンナは戦士たちを見もせず、盾と剣を構え一人突撃した。

 戦士たちは遅れじと、同じく疾走を開始する。

「ま、まって!」

 ターニャは慌てる。

「お前まで突撃してどうする」

 バリーの声。

「だって」

「後ろからついて行き、両翼の近接していない敵に火の球を叩き込むのだ。下手に近くを撃つと、自分や味方を巻き込むぞ。魔法使いは常に冷静でなければならん」

「わかったわ」


 二つの集団は激突する。

 数はオークの方が圧倒的だが、既に彼らには恐怖感があった。

 光り輝く上古の戦士は一騎当千であり、その気配だけでひるんでいる。

 乱闘が始まると、リアンナは次々と敵を斬り捨てていく。

 彼らの皮鎧は彼女の剣の前にほとんど意味がない。

 そして、背中を守る戦士たちも、案山子でもなぎ倒していくようにオークを打ちのめしている。

 ターニャも囲もうとするオークたちに次々と火の球を打ち込む。

 ロッドのおかげで威力は三倍増しといったところ。

 敵は文字通り消し飛んでいく。


 緒戦で勝負は決していた。

 オークは武器を捨てて逃げようとする。

「逃げるな! 逃げる奴はこうだ!」

 先程の大柄な鎧武者が仲間を斬り殺す。

 しかし、それに怯えて立ち止まったオークは次々と姫と戦士に討ち取られてしまう。

「ヴォカーン将軍、諦めろ。貴様に勝ち目はない。ここは引かれてはどうだ」

 ドレフュスが勧告する。

「ドレフュスか? バリーはどこにいる、なぜ、人間の手助けをするのだ!」

「我らが誰の味方をしようが、そなたらには関係のない話だ」

「魔物よ、我の邪魔をするな。引かぬなら容赦しない!」

 リアンナが吼える。

 ヴォカーンとリアンナは睨み合う。


 ヴォカーンはリアンナより頭が二つ高く、横幅は二倍。

 分厚く悪魔をかたどった醜悪な鎧に身を固め、顔は兜のために分からないが、その形状で彼がオーク種族であるのは推測できた。

 そして、手には雷気を帯びた特大の大斧を持つ。

 その大斧を掲げ、ヴォカーンはリアンナと対峙する。

 オークたちは怯えていたが、立ち止まって様子を伺うことにしたようだ。

 双方の軍勢は一時手を止め、この一騎打ちを観戦する。


 二人の戦士は武器を構え、じりじりと隙を伺う。

 オークの将軍に比べ、リアンナはあまりに細く小柄に見えた。

 しかし、彼女の表情に微塵の恐怖もない。

 逆にヴォカーンの方が気圧される。


 睨みあう二人だが、突然、ヴォカーンの瞳が輝く。

「勇気だけは認めるが。終わりだ、人間の女」

 鎧の悪魔の装飾から不気味な黒い気配が伸びてリアンナを包む。

 魔力を見える人間であれば、巨大な黒い手が伸びて彼女を掴んだのが見えただろう。

「!」

 虚を衝かれた、しかも同時に斧の斬り込みが襲い掛かる。

 ドン!

 地面を割り、石くれを飛ばす大斧。

 必死に避けるリアンナ。

 斧の一撃は直撃なら即死、手足なら切断は間違いない。彼女の鎧でも防げそうにない。

「なぜ、俺の『悪魔の手』を喰らって動ける」

 ヴォカーンの呪詛の直撃を受けたはずのリアンナ。

 しかし、その様子に変化はなかった。

 姫の胸元のダイヤモンドが輝く。

「そんな小技、姫には通用しない」

 バリーが声を上げる。

「なに!」

 ヴォカーンは慌てて地に刺さった斧を引き戻す。

 しかし、リアンナは地面から斧を抜く隙をすかさず捉え、必殺の突きを繰り出した。

「隙あり!」

 剣は狙いたがわず、大オークのわきの下に入り、鎖帷子を難なく貫く。

 ずぶずぶと体を突き刺す。

 しかし、獣のようにヴォカーンは吼えると、信じられない力で斧を一閃させる。

 慌てて盾で受け流す。

 バリバリ!

 斧から電撃が走ったが、それも盾が吸収して事なきを得た。

 しかし、あまりに武器の破壊力が大きく、リアンナは左腕が痛みでしびれてしまった。

「ち!」

 剣は深く入りすぎて抜けず、思わず手放している。

 ヴォカーンはふらふらと歩きながら、ぶんぶん斧を振り回す。

 リアンナは逃げ回る。

 まともな人間なら苦痛や失血で倒れていただろう。

 しかし、この男は手負いの獣のように必死にリアンナを攻撃した。

「こんな、細剣ごとき!」

 ヴォカーンはそう言いながら彼女の細剣を力任せに抜き、バキッとへし折ってしまう。

 尋常の体力ではない。

「姫様、これを!」

 ドレフュスが自らの佩剣を鞘ごと放り投げる。

 はっしと受け取ったリアンナは、鞘を抜き剣を構えた。

 ずしりと重く長大な剣で、白く輝く。

 彼女が持つとドレフュスが持っていた時より輝きが増したように見える。


 リアンナは片手で使うに辛かったので、左手を添えると両手で持って斬り込む。

 ヴォカーンは慌てて斧で防ぐ。

 ガリ!

 魔法の大斧が白い剣に削られた。

「クソ!」

 吼えるオーク。

 しかし、剣を抜いたため出血が酷くなり、動きが鈍って二撃目を防げない。

 ザクッと利き手の籠手を割り、斧を落とさせた 

「とどめ!」

 防御ができなくなったオークの胸板を白い剣が刺す。

 剣は板金鎧ごとバリッと胸板を貫く。

 兜の中でごぼごぼと言う音がして、だらだらと血が流れる。

 ヴォカーンは膝をつき、そして、力尽きて倒れた。

「やったー!」

 喜ぶターニャ。

 悲鳴を上げて逃げ出すオークたち。


 リアンナはへたり込みそうになるが、必死に耐える。




2026/6/27 8/26 微修正

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