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24 尋問

 バルガス家の男、リガルの喉に剣を突きつけるリアンナ姫。


「話してもらおうか、なぜお前たちはエルヴィという娘を追っている? ティルクと言う少年との因縁も。あと、司法長官とはどういう取引をしているのか」

 うめきながらも、恐怖に身を震わせるリガル。

 明らかに魔法の籠った細剣はカミソリのような鋭さだ。

「レティ様、ここは早めに引き払いましょう。いつ援軍が来るか……」

 デリクは低い背を伸ばしてキョロキョロする。

「そうだな。デリク、この男の手を止血して、拘束してくれないか」

 うなずくと、デリクは急いでリガルに処置を施す。


 その間、リアンナは愛馬の様子を見に行く。

 彼女の白馬は何もなかったかのように地面の雑草を食べていた。

 鼻面を撫でてやるとうれしそうに摺り寄せてくる。

 男を縛って引き立てて歩いてくるデリク。

「やれやれ、何の因果かこんな仕儀になりましたが、よかったら、こいつの尋問を手伝ってもよろしいですか、レティ様」

「ええ、構わないわ。しかし」

 やさしい目をするリアンナ。

 しかし、次の瞬間には殺気とともに剣が手にあり、デリクの喉にぴたりと押し当てられる。

 殺気のこもった女獅子の目。

「へへ、こ、これはご冗談を」

「貴様、城を脱獄したデリク・ヴィクターだな。どうやって生き返って脱出した。貴様の仲間は今どこにいる。素直に吐いたほうが身のためだぞ」

「そう言われましても、俺にもさっぱりわからないことだらけでして……」

 ぐいっと剣を動かすリアンナ。

 この剣の切れ味は散々見た。

 のけぞるデリク。

「わ、わ。ちょっと待った。話します。わかってることは全部話します。今の俺はほとんど武器も使いきってあなたにかなうわけもない。逆らう気はありませんよ。ただ、本当に俺にもわからないことだらけなんです」

 必死に本当のことを言っているとアピールするデリク。

 やがて、リアンナの目からすっと冷酷な殺気が消える。

 剣を引く。

(マジで恐ろしい姉ちゃんだ。あの優しいオーディナル王妃の娘なんだろうか。顔はそっくりだが……向こうが優しい慈愛の女神なら、こちらは血に飢えた女獅子だ……王妃の願いなんて聞くんじゃなかった。この女が娘だったら、一緒にいるのは命がけじゃないか)


 ふと、広場を見ると、死屍累々。

 砂地は黒く血を吸っている。

 リアンナも血塗れでこちらも殺伐とした雰囲気そのもの。

 白い衣装だっただけに余計に血が目立つ。

(せっかくの美女が台無しじゃないか、早く美しい衣装に着替えてもらわないともったいない)

 そう思う、デリク。

「こいつの尋問には東に戻ると都合が悪いわ。ここから離れて適当な廃墟を見つけましょう」

 リアンナは戦いが終わると少し優しい言葉遣いになる。

「ええ、もちろん。賛成です」

「案内を頼めるか? デリク」

「はい。西地区のことはそれほど知ってるわけじゃありませんが」

「それと」

「はい?」

「先ほどは助けてくれてありがとう」

「ええ、はい。へへへ、なんか照れるな。偉い人にお礼を言われたのって初めてかもしれない」

 思わず頭を掻くデリク。


 二人は男を引き連れ西地区北部の廃墟街に消える。

 強い日差しが地を焼き、上空には死肉を嗅ぎ付けた禿鷹が舞っていた。


 西地区の北、城に近い地域は建物の風化も弱く、ほとんどの建物はそのまま使える。

 石畳も堅牢で、一見したら人が住んでいると思わず錯覚するほど綺麗な状態であった。

 しかし、実際にはこの付近に最も人がいない。

 それは、この辺りが西地区特有の惨殺事件が多発する地域だからである。

 最近では、ここに住み着いた一家が数日後に互いを掻き毟るように殺しあった形で見つかった。

 何があったのかはわからない。

 ただ言えることは、前日まで仲のよかった家族が、お互いを棍棒で殴り、目を潰し、喉を食い破って殺しあったと言うことだけである。

 その事件が三年前。

 それ以来、最悪のおたずね者ですら長く住むことはない。

 西地区の住民はほとんどが南半分に集中し、崩れかけの廃墟にこっそり住んでいる。

 南は北と違い、かなり風化が進んでいた。

 行政の目も行き届くことはなく、人口密度の高い南のスラムと合体し始めている。

 逆に、この状態はリアンナとデリクには好都合だった。

 人気のないところでリガルを尋問し、街に戻るにも近い。

 追手もそう簡単には来ないだろう。


 二人は適当な民家の廃墟に入り、リガルを朽ちかけた椅子に座らせる。

「レティ様、この男の尋問は忍びの俺にさせてください。こんなチンピラの相手はお嬢様のような身分の高い方がなさることではないと思います」

 デリク。

 このレティが身分の高い女性であることは明らかである。

 剣は魔法の剣、馬も最上級、鎧にも魔法がかかっているだろう。服も生地からして庶民が気軽に買えるものではない。そして、最も決定的なのがレティの物腰だった。

「……ええ。しかし、立ち会うのは譲れないわ」

「場合によっては拷問もしますよ。こいつ次第ですが」

 男は拷問と聞いても顔色を変えない。

 度胸だけは据わっている。

「おい、確かリガルと言ったな。バルガス家でのお前の立場は?」

 猿轡をはずし、たずねるデリク。

 しかし、男は薄ら笑いを浮かべただけで何も答えない。

 リアンナは腕を組んで見下ろしている。

 彼女は血まみれのマントと上着を脱いでいた。

 鎧があらわになる。

 鎧は不思議なピンク色。

 魔力を帯びて特殊な色合いなのだ。

(こんな鎧着てたら、そりゃ強気になるよな。少々の攻撃でもびくともしない。そして、あの動き。よっぽど軽くて動きやすいのだろう。いくらするんだ、この鎧、目玉が飛び出る値段だぜ絶対)

 デリクはちらりとリアンナを見てそう思う。

 リアンナは非常に強かったが、この鎧が小さな怪我を全て封印していたのは大きい。よほどのクリーンヒットでなければ、彼女に打撃を与えるのはむずかしい。

「へ、そんな鎧着てやがったのか。それがなければ俺たちは負けなかったぜ」

 リガルが口を開く。

「女一人によってたかって襲い掛かってやがった癖に、何を言っている。クソ、チンピラ! とりあえず、素直に吐くか、忍びの拷問を受けるかどっちなんだ」

 クナイをちらつかせるデリク。

「ユアン。裏切り者め。この街で生きていられると思うなよ」

「その糞生意気な態度、すぐに悲鳴に変わるぜ」

 デリクは普段はしない厳しい顔をすると、懐からすっと糸と穴の開いた硬貨を取り出して見せる。

 ぎょっとするリガル。

 糸は硬貨の穴に通されており、手を広げた程度の長さの振り子になっていた。

「これは恐ろしい拷問器具だ、死にたくなければ硬貨の動きに注目しろ」

 デリクは恐ろしげな声を出しながら、糸に吊るした硬貨を左右に振る。

 リガルは馬鹿にしたように睨みつけているが、目の前の硬貨の動きに目が動いてしまう。

「リガル、お前はだんだん眠くなる。この動きから目を離したら最後だ」

 やがてリガルは目が力を失い、とろんとした表情になった。

「だんだん、眠く眠く……」

 デリクは振り子を振りながら、ささやくように声を出す。

 根が単純なのか、リガルはやがてこくんと首を落として眠ってしまう。


「……それの、どこが拷問なの。デリク」

 ちょっと呆れた声を出すリアンナ。

「へへへ、拷問と言いながら、実は催眠術で敵を騙す。これも忍術です」

「でも、眠ってしまったら話は聞けないわね」

「プロの仕事にぬかりはありませんよ、レティ様。この男に合図を送ると目を覚まし、起きた時には私の言いなりって寸法です」

 デリクはそう言いながら、リガルに声をかける。

「おい、リガル。俺が手を叩いて合図を送るから、目を覚ました時には素直に答えるんだ、一、二、三!」

 パンッ! と、手を叩くと、無表情にリガルは目を覚ます。

 リガルの目は据わり、先ほどの凶暴な表情は影を潜めている。

「おい、お前の名前は」

「リガルです」

「お前のバルガス家での立場は?」

「若頭です」

「お前個人の全財産はどこに隠してある?」

「商業地区にある自宅の地下」

「鍵は?」

「俺のベルトの隠しポケットの中です」

「待って、何でそんなこと聞くの? そんな男の財産に興味ないわ」

 リアンナが口を挟む。

「へへへ、ヤクザ者にとって金は全てです。財産のありかを聞き出してそこに本当にあるかを確認したら、これから聞く情報の正確さも高まるでしょう」

「演技されてるかもって、あなたもちょっと疑ってるのね」

「うっ」

 図星を指されて狼狽するデリク。

「……ま、まぁ、とりあえず、鍵を持っているか調べます」

 腰のベルトを引き抜き少し探ると、確かに、ベルトには小さなポケットがありその中に鍵があった。

「あったわね」

「これでこの男がどっぷり術に嵌っているとわかりました」

 ややほっとするデリク。

「そんな迂遠なことより、剣で脅せば十分でしょ」

「いえいえ、お嬢さん、ヤクザ者の中には糞度胸だけで生きているようなのも多いですから、拷問しても嘘を突き通す奴もいるんです。意外と催眠術みたいな手段の方が確かですよ。それに血も流れない」

 やや、不満なリアンナだが、最後の言葉をしとして引き下がる。

「わかったわ、尋問を続けて」

「おい、リガル。続けて聞くぞ」

 術に嵌ったリガルは素直に答える。

 男は若頭であり、バルガス家の主リーガン・バルガスから直接命令を受けて動いていた。

 エルヴィを追っていたのは、彼女がティルクと言う少年への報復を妨害すると公言し、バルガス三男のラパレイを脅迫したからである。エルヴィに身のほどわきまえさせるために探していたと言う。

「なぜ、バルガス家がティルクなどと言う少年の命を狙うの、あなたたちから見たらくだらない存在でしょ」

 リアンナが問う。

「おい、何でお前らはティルクの命を狙う?」

「ティルクがラパレイの坊ちゃんの足に怪我をさせて、まともに歩けない体にしたからです」

 リガルは無表情に答える。

「ラパレイって、聞いたことがあるな。有名なチンピラだ。あいつ、バルガス家だから好き放題暴れてたのか」 

 デリクがうなずく。

「なるほど、バルガス家から見たら面子めんつを潰されたわけね」

「そう言えば、おいリガル、なぜ、ティルクの脱走のことを知っていた?」

「司法長官からの連絡であの小僧が逃げ出したと言う連絡がありました。街にいるかもしれないからついでに探せと」

 リガル淡々と答えた。

「バルガス家と司法長官はグルなのね。わかっていたけど」

 ため息をつくリアンナ。

「おい、なぜ、レティ様を襲ったんだ。人数だけ言ったら必殺の布陣だったな」

 デリク。

「お嬢さんを捕まえろと命令されたからです。理由は知りません」

「誰の命令だ? バルガスの親分か? あのハーフオークたちの方がお前より上なのか」

「ハーフオークはバルガスの親分の上の人から派遣された隠密で、親分にはあいつらの命令に従うように言われています」

「命令の中身は?」

「お嬢さんを捕まえるか、手に余るようなら殺せと命じられました」

「命令の理由は?」

「知りません」

「上の人って誰だよ、どこかの貴族か? 外国のスパイか?」

「親分以外知りません」

「何も心当たりは無いのか」

「どこかの大貴族。親分のスポンサーです。商売で儲けがなくても金回りが良いのはそうだと聞いてます」

 他にも色々と聞くが、それ以上の情報はなかった。

「どうやら、この男が知っているのはこれだけのようね」


 大きくため息をつき、石の壁にもたれかかるリアンナ。

 美しい眉根をひそめ、腕を組んで考え事をしている。

「これからどうします」

「バルガスの『上の人』に俄然興味が湧いてきたわ。でも、今は汚れきった体を洗いたいわね。でも、まだそう言えば」

 そう言うと、するりと剣を抜き無感動にデリクに突きつけた。

「うわ、お嬢さん。何のまねです」

 デリクは跳び上がるが、吸い付くように剣は迫ってくる。

 何人もの血を吸った筈なのに、細剣には傷一つ無い。

「あなたのお話がまだですわよ。デリクさん」

「えーと、もちろん、お話しますが場所を変えませんか。こいつに聞かせたくないので」

 ちらりと捕虜を見るデリク。

 男は完全に無表情。

「催眠術にかかっているなら問題ないでしょう」

「術者によっては魔法で記憶を探れると聞きます。万が一……」

「そうね、なら、外で話しましょう」

 背の高い女騎士と小さな痩せた忍びは連れ立って廃墟の民家を出る。

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