98話
朝の弁当作り、数日前までは、ソマリとポメラの獣人コンビ用に作るだけだったが、今は更に2人分の弁当を追加で作っている。
2人前も4人前も、正直言ってたいして変わらない。
ソマリ、ポメラ、カイト、グライ。
どいつもこいつも若い。早い話、ガテン系のガッツリとした弁当になっていく。
玉ねぎたっぷりの焼肉風炒め、甘い玉子焼き、ポテトサラダ。
メニューだけ見れば寂しく見えるだろう。ただ、これは量でカバーしていく。
大きめの弁当に白米をぎっちり詰め、その横にフライパンで作った焼肉風をこれでもかと押し込み、玉子焼きを切らずにドン! と滑り込ませ、最後にアイスディッシャーの14番(約60cc)ポテトサラダを添えてやる。
「よし! 完成だな」
俺の弁当を背後から覗いてきたモモと眠そうなドレイク。
「先輩、いつから、この店はデカ盛り弁当の店になったんッスか……見てるだけでドン引き弁当ッスよ……ドカベンもびっくりッスよ」
「マスター! ドレイクの手より大きいポテトサラダ〜スゴいよ」
自然な感想だろうが、言われてみれば、カイトとグライの弁当まで、獣人コンビと同じサイズに作っちまっていた。
「うーん。たしかに、やべぇ量の弁当になってるなぁ……」
考えてみれば、白米だけで、一升を使い、一つの弁当に2合半の米を詰めているからだ。
「こりゃ、カイトとグライは食べきれないかもしれねぇな……」
ただ、作っちまったものはしゃあない。本人達に見せて、食える量に減らして貰えばいいだろう。
その結果、2人もソマリとポメラ用に作ったサイズの弁当を持ってくらしい。
カイトもグライも最初は驚いていたが、それでも満面の笑みを見せてくれた。
「組長! おれ、この弁当を食べて、バンバン焼きそばを売ってくるぜ!」
「オレも、組長の弁当に負けないくらい親方から色々と学んでみるよ」
朝食が終われば、ソマリとポメラが元気に冒険者ギルドに向かって飛び出していく。
「ホタル! 行ってくるぞ! ボク達がいなくても、無茶したらダメなんだからな!」
「ホタル! 頑張ってくるぞ! ソマリ、オイラ達も無茶せずにやるんだぞ!」
元気に走り出した獣人コンビの後から、カイトとグライも荷物を持って中心街に向かって移動を開始した。
カイトは、相棒である焼きそば焼ける君に焼きそば用の荷物と弁当を積んでいく。後ろ姿だけ見れば俺よりもずっと商人に見えるな。
グライの方は、巨大な弁当を包んだ袋と肩掛けカバンに俺が渡した鉛筆やメモ帳を入れて、嬉しそうに駆け出して行った。
これが、子供を見送る親の気持ちってやつなのかもな。まぁ、嫁なんていないがな!
うんうん。と、頷く俺にドレイクとパラの2人が飛びついてきた。
「マスター!」
「組長!」
2人同時に俺を呼んだので、不思議に思いながら、視線を下に向ける。
「どうしたんだ、2人揃って?」
ドレイクとパラの2人は厨房に向けて指を伸ばす。
「マスター、あれはドレイク達の?」
「パラとドレイクのお弁当!」
ワクワク顔の2人の言葉に俺は慌てて厨房に視線を向ける。
「あ、ああぁぁぁ!」
俺の絶叫に似た言葉にドレイクとパラがビクッと身体を震わせた。
すぐに弁当箱を確認すると、傷がついており、蓋は閉まるが多少の歪みがあることが見て取れる。
「マジか、アイツら……一番大食らいの奴らが弁当を忘れんなよ……」
弁当を忘れたのは、一番手に出かけたソマリとポメラだった。
普段からマジックバッグに荷物を入れているため、弁当を入れ忘れた事実に気づかなかったらしい。
溜め息を吐きながら、俺はモモとエスに事情を話す。
「仕方ないッスねぇ、なんであの2人はおっちょこちょいなんッスかねぇ……」
「モモに同意、2人とも弁当がなければ絶望するはず……不憫」
「まぁ、そう言うことだから、俺は弁当を2人に届けてくる。ドレイクとパラは、セスの手伝いを頼む。他のことはモモとエスに任せるから、後は頼む」
「はいはい、セスにはモモから話しておくッスから、早く行ってあげるッスよ」
「悪りいな。モモ、みんなもなるべく早く戻るからよ。最悪、昼は適当に頼む」
役割を口にしてから、俺は素早くエプロンを外すと2人前の弁当をマジックバッグに入れてから冒険者ギルドに向かって移動を開始する。
大空から照らす太陽が俺の頭部をギラギラに輝かせる。
俺のベリーショートが最近、ハイベリーショートになり始めた気がするが……気のせいだと信じたい。
ラフな格好にサングラスで街を疾走する。
冒険者ギルドに到着するまでの間に向けられた視線はまるで珍獣か魔物を見るようなものも感じたが、ソマリとポメラが、腹を空かせて落ち込む姿を考えれば、気にもならない。
冒険者達が疎らなギルドの中に入ると、鋭い視線が向けられ、その後に視線が蜘蛛の子を散らすよう逸らされる。
「ホタルさん? 珍しいですね。ダイルギルド長に御用事ですか?」
声を掛けてきたのは、書類を手に奥の部屋に向かおうとしていた、冒険者ギルドマスターの秘書であるクラリスさんだった。
「クラリスさん。久しぶりだな」
「そうですね。冒険者登録以来、ホタルさん……と、言うより、ソマリちゃんとポメラちゃん以外の方は来られていないですからね」
「あぁ、それより、その2人はどのクエストに向かったか教えてくれないか?」
「ソマリちゃんとポメラちゃんですか? 少しお待ちください。調べさせていただきます」
クラリスさんは受付に並べられた数枚の紙束を調べ始める。
そうして、数分で1枚の紙を俺の方に手渡してきた。
「本来は冒険者の受けたクエストを細かく説明するような真似はしません。今回はホタルさんが、2人のパーティーリーダーだから出来る行為だとご理解ください」
そこまで説明されて、俺は渡された紙に目を通す。
「この採取クエストの指定されてるボルガ山ってのは、何処だ?」
俺の質問にクラリスさんは、無言で地図を取り出すと、冒険者ギルドと書かれたライムの街を指差し、ゆっくりと地図をなぞる。
「今いるライムの街から、森を進んで、最初の別れ道があります。別れ道には看板がありますので、後は道なりに進めば、ボルガ山への入口につきます」
説明を聞いて、クラリスさんに挨拶を済ませると、俺はすぐにライムの街から森を目指す。
騎士団が管理する門で、俺の姿を見た騎士が声を掛けてくる。
「あれ、ホタルさんじゃないか? ライムの外に向かうなんて珍しいな? 何かあったのかい」
時間がないので手短に訳を説明する。
「ああ、毎朝元気に飛び出していく獣人の嬢ちゃん達か、今日も嬉しそうに森に向かったが、ホタルさん、嬢ちゃん達にも言ったんだがな……」
歯切れの悪い騎士から俺は予想していなかった言葉を聞かされた。
「森に魔物が増え続けてるのか?」
「えぇ、我々騎士団でも近々調査を開始することになる筈です」
「不安になる情報をありがとな、ただ、俺が向かうのはボルガ山なんでな。じゃあな」
騎士が何かを言おうとしていたが、長話をしすぎたので俺は慌てて走り出していた。
太陽の位置を確認してから、俺は【身体強化】を発動させて、更に速度を上げていく。
昼飯までに届けねぇと、アイツらが泣いちまうからな! 全力で行くぜ!
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