97話
強い口調で「デケェの! お前に話はねぇ! 何より、“つい”で納得できるほど、儂らドワーフは甘くねぇぞ! しっかりと理由を聞かせてもらおうじゃねぇか!」と、大きな声が武器屋に響く。
ドワーフのオッサンはグライを威圧していき、それに対して、グライは後退りする。
「なんでぇ! テメェがやった事の説明も出来ねぇのか! “つい”だか、なんだか知らねぇが、男なら自分の口で説明しやがれ、このスットコドッコイがァ!」
そこまで口にしたドワーフのオッサン。正直、言い過ぎかと聞かれれば、そんなことは絶対にない会話だ。
口調だけ見れば、酷く攻撃的で発言だけを拾えば、とんでもない店主だと俺も思う。
ただ、口調に対して、グライへの質問は厳しいながらに、話を聞く姿勢をしっかりととってるんだよな。
「……デケェの! オメェのツレは、口がきけねぇのか! あがり症で喋れねぇのか! はっきりしやがれ!」
「俺に話はないんじゃなかったのか?」
「時と場合ってやつだ! それより、そのガキだ! まさか、口がきけねぇのか?」
俺とドワーフのオッサンは、自然と視線をグライへ向けた。
「口は、きける……」
グライが口を開いた途端にドワーフのオッサンは顔を真っ赤にして大声を出す。
「口がきけるならとっとと喋らねぇか! 口がきけねぇ奴に怒鳴っちまったと思ったじゃねぇか! バカ野郎!」
流石に聞き流せるのもここまでだ!
「おい! オッサン!」
そう声を出した時だった。
「ごめんなさい。扉の仕掛けが二箇所に繋がってたから、気になって触りました。すぐに謝らなくてごめんなさい」
グライが震えた声で言葉にした瞬間、ドワーフのオッサンが肩に乗せていたハンマーで自身の肩をポンポンと叩く。
「はぁ……武器屋で扉のギミックに目を奪われたってかぁ?」
「あ、はい……なんで二箇所に仕掛けが繋がってるのかなって……」
「入って来たなら、テメェらも分かってるだろうが、壁に飾ってある剣のレプリカを押すパターンと他にもう一箇所仕掛けがあるんだよ! まぁ、今までバレたことがねぇがな! ガァハハハハ!」
自信満々に語るドワーフのオッサンに、俺は真実を教えてやるか悩んでいると、グライが事実を伝えてしまった。
「剣のレプリカに繋がってたんですね……だから、壁から取れないようになってたんだ……普通に足元の仕掛けしか分からなかったなぁ……」
その言葉に、ドワーフのオッサンがハンマーを床に落とす。
ガン! という重々しい音が武器屋に響く。
「お前! あの足元のギミックに気づいたってのか! ガハハハハ! こいつァいい! 気に入ったぞ! 怖がらせて悪かったな。目が利くやつは大歓迎だ!」
最初の威圧的な雰囲気が嘘のように笑うドワーフのオッサンは豪快に喋り出す。
「儂はガンジだ! 武器屋のガンジ・スカイ・シップ! ドワーフの中のドワーフ! 名工シップ家のガンジとは、儂のことだ! ガハハハハ!」
「俺は佐乃村 蛍だ。周りからはホタルって呼ばれてる。職業は料理人になるな」
「オレは、グライ。ホタル組長の下で色々な仕事を手伝ってる感じかな」
ドワーフのガンジは、話を聞きながら力強く頷いてみせる。
「そうか、そうか! それで今日は何を買いにきたんだ! 自慢じゃねぇが! 儂の店はいい品しかねぇからな。ガハハハハ!」
笑いながら、腰に縛っていた酒瓶を手に取ると“ぐびぐび”と喉に流し込むガンジ。
仕事場で酒って……
「仕事しながら酒を飲むのかよ……」
「バカ野郎! デケェの、儂らドワーフからしたら、酒は命の水だぞ! 酒を飲まねぇで、最高の仕事なんざ出来ねぇってんだ!」
ドワーフの常識なんて知らねぇが、郷に入っては郷に従えって言うからな。気にするのはやめよう。
「で、どんな武器を探しにきたんだ? 言ってみな!」
俺はガンジの言葉に頬を軽く指で掻く。
その様子から、ガンジが眉間に皺を寄せる。
当然、そうなるのはわかっていたので、俺は軽く視線を逸らす。
「なんでぇ、冷やかしかよ! こっちとしちゃあ、久しぶりにいい目をした連中が来たって思ったのによぅ……」
ガンジの言葉にグライが小さな声をあげた。
「あの……ガンジさん。オレ、武器はよく分からないけど、この仕掛けについて、知りたいです……」
お前、武器屋でそれはダメだろ!
「ダハハハ! ガキがいっちょまえに、ギミックを知りてぇってか! ガハハハハ! いいじゃねぇか、ドワーフのギミックに興味を持つ奴は五万といるが! どいつもこいつも、目がねぇ奴ばかりだからな!」
バシバシと背中を叩かれるグライ、ゲームなら、『瀕死』って表示が出るんじゃないかと心配になる。
「痛いです。ガンジさん」
「バカ野郎! ギミックを学びてぇなら、親方って呼ばねぇか!」
「え、あ、はい! 親方……」
「よし! なら、話は決まった! デケェの! こいつは明日から、儂の弟子として、ガッチリとドワーフの技を仕込んでやらぁ! ドンと任せておけ!」
あまりに強引すぎるだろ。俺はガンジの発言に苦言を言おうとしたが、グライが一歩前に出た。
「親方……オレで出来るのかな、オレさ、何やっても全部中途半端にしかできない落ちこぼれで……はっきり言って、不安なんだ」
「バカ野郎! 全部が中途半端だぁ? つまり、何をやらせても、普通に出来るってことだろうが!」
グライの身体がビクッと震えた。だが、ガンジは語り続けた。
「何より、目が利くなんてのは、努力だけじゃどうにもなんねぇ。オメェがやれる最高を見つけるってのが若さだろうが! ギミックに興味があるなら、歯車一つに魂込めて、泣き言は組み上げてからにしろ!」
そこから、ガンジの話は兎に角長かった。泣きながら、酒瓶を空にすると次の酒瓶を開けては話し続け、グライは嫌な顔をするどころか、号泣しながら頷いていた。
結局、この日はガンジの武器屋ですべての時間を使うことになってしまった。
「グライ、大丈夫か?」
疲れているであろうグライを心配して声を掛ける。
しかし、グライからは予想外の反応が返された。
「組長……オレさ、あんな仕掛けを作ってみたいって思ったよ。最初はそんな風に思わなかったんだけどさ、親方の歯車一つに魂を込めてるって話とかさ」
俺にそう語るグライの顔からは、憑き物が落ちたようにすら感じるほど、いい表情だった。
「なぁ、グライ、焦らなくていい……ただ、やりたいのか?」
歩きながら俺は無駄な言葉を削り、グライに質問した。
「正直……分からない。でも、オレ……はじめてやりたいって思ったんだ。何とかしなきゃとか、オレがやらないととかじゃなくて、やりたいって」
「なら、答えは出たみたいだな。明日から、グライの弁当も作らないとな、あの感じだと昼に店まで戻るのは無理そうだからな」
「うん。オレもそう思う。明日からは組長の弁当を食べて、オレなりに頑張るよ」
俺は夕日に照らされたグライの顔を見て笑い返した。
因みに、その日の夕食はカツ丼にした。
俺の勝手なイメージになるが、男が頑張るって決めたなら、勝負飯は、カツ丼一択。それしかないだろうが!




