95話
朝の賑やかな騒動から、急遽、土産に貰ったフルーツフロッグの肉を使った魔物汁を作ることになったので、大量の野菜を食材の食感や火の通りやすさを考えてカットする。
パジャマから私服に着替えるためにモモがいなかったからいいが、手土産がカエルの肉だと分かったら……多分、発狂するだろうな。
そんなことを考えながら、薄切りにしたフルーツフロッグの肉を一度、砂糖水で洗っていく。
「あぁ、ホタルの旦那……なんで肉を水につけるんでさぁ……」
アルムさんもザックの言葉に頷いてみせる。
「そうですぞ、ホタル殿……せっかくの新鮮な肉が……むしろ、我々に落ち度があったなら、言っていただければ」
なんか、叱られた犬っころみたいな雰囲気のアルムさん達は明らかにガックリと肩を落とした。
「鮮度は問題ないが、何もしないで焼いたり煮たりすると肉が硬くなるんだ。まぁ、噛み応えはあるだろうが朝っぱらから、顎を使うのはしんどいからな」
「つまり、ホタル殿のやってる行為は、肉を柔らかくするという認識でいいのか?」
「アルムさん。正解だ! この砂糖水で肉を洗えば、柔らかくなるんだ」
俺がそう説明した途端、アルムさん達はギョッとした顔になる。
「砂糖! 肉を洗うのに砂糖を使ったのか……ホ、ホタル殿、因みにその後は、その水はどうされるのか?」
そんなアルムさんの質問に「捨てるが?」と俺が答えた途端、兵士達が慌てて声を上げた。
「捨てるなら、オレが飲む!」
「砂糖が入ってるなら、オレだって!」
信じられない発言に俺は呆れながら返事をする。
「本気で言ってるなら、俺も本気で止めるし、なんなら朝から手合わせタイムになるぞ?」
低いドスの効いた声にアルムさん達は、やっと静かになった。
ただ、このまま説明も無しに作業を進めれば、いつか、別の場面で砂糖水を飲みかねないと判断したので、分かりやすく説明をする。
「生肉を洗った水を飲んだら、食中毒や寄生虫にやられるかもしれないぞ」
食中毒の恐怖に関しては、とりあえず俺が想像できる出来事を説明し、寄生虫に関しては食事前に話したことを後悔するくらいに話を盛ってやった。
「それでも、まだ飲みたいか?」
その場の全員が首を横に振る。
俺は納得した後に作業を再開していき、ピンクの大根や黄色い人参、緑で良かったと言いたくなるネギや赤いジャガイモなどを煮ていた寸胴鍋の蓋を開ける。
いい感じに煮えてきたのを確認してから、フルーツフロッグの肉を重ならないように入れていく。
ある程度、火が通ったタイミングで、味噌、麺つゆ、味醂といった複数の調味料で味付けをしてから火を止める。
魔物汁を作っている間に米が炊けたので、手早く保温ジャーに移して、次の米を炊いていき、大人数の朝食の為に大量の玉子焼きを作り、浅漬けを皿に盛り付けていく。
正直な感想を言えば、鮭や味付け海苔なんかもあれば完璧だと思う。
ただ、さすがにやり過ぎるとモモがまた暴走しそうなので、これくらいにしておくことにした。
人数分の米が炊けるまでの間に、浅漬けや玉子焼きをテーブルに運ぼうとしていると、モモに起こされたドレイクとパラがトタトタと階段を降りてくる。
「マスター、おはよう。ドレイク、手伝うよ」
「組長、パラも運ぶ。ドレイクと手伝う」
「おはようだな。ドレイク、パラ。なら、頼むよ」
次に気まずそうに顔を出したのはモモだった。
「先輩、さっきは悪かったッス。エスと一緒にカイト達を起こして来るッスよ」
「おう、ただ、セスはもしかしたら、牛舎の方にいるかもしれないから、もし牛舎にいたら、ミルクも頼めるか?」
「わかったッス! モモに任せるッスよ」
笑顔で牛舎に向かってモモが駆け出していく。
その姿にエスが小さく呟いた。
「主様は、罪な殿方……」
「聞こえてるぞ? エスはカイト達の家に向かってくれ、頼んだぞ」
「御意」
たまに思うが、エスって、変に言葉のチョイスが古臭いんだよな……まぁ、気にしたら負けだからな。
ドレイクとパラが手伝い出すとアルムさん達も料理を運び出す。
相変わらずの給食スタイルを懐かしく感じながら、カイト達の到着を待っていると扉が開かれる。
「お、来たか……ん? なんで、イケメン眼鏡?」
そう口にした途端、イケメン眼鏡こと、エレガが入口から凄まじい剣幕で部下達を引き連れて歩いてくる。
その様子を目の当たりにして、アルムさん達の表情が凍りついていくのが分かった。
「──アルム討伐部隊長……並びに討伐部隊員の諸君は、報告書の作成を前にこんな場所で何をしてるのかね……納得する理由を聞かせてもらおうじゃないか?」
「……」
「黙りかね? はぁ……まったく、悪いがコイツらは、まだ任務中扱いだ。連れて行くぞ?」
俺に向かって、イケメン眼鏡が確認してくる。
「まぁ、仕事だってんなら仕方ないが……ただ、アルムさん達が飯を食べるまで待ってやってくれねぇか?」
そんな俺の言葉にイケメン眼鏡は軽く眼鏡を触ると、反対の手で指を一本立て、それを左右に動かす。
「職務を差し置いて、食事などする時間が騎士団に存在すると思っているのか? はっきり言うが、食事など腹が膨れれば──ぐほぁ!」
喋っていたイケメン眼鏡の背後、カイト達を呼んで戻ってきたモモとエスが話を聞いていたんだが……
「腹が膨らめばいいなら……モモが膨らむまで、蹴りをくれてやるッスよ……」
「同意。腹が膨らめば同じと言った。主様の食事と蹴りが同じか確かめればいい……下郎」
俺が止めに入る前に、ダブルキックを食らい悶絶するイケメン眼鏡、あれは流石に同情した。
「お前らなぁ、それは流石にダメだろ?」
「先輩は優しすぎるッス! この意味なし眼鏡は先輩のご飯を食べる価値がないって言ったんッスよ!」
「主様……甘すぎ、侮辱されたら怒るのが当たり前」
うちの戦闘狂共が……
「そうか、ただなぁ、ドレイクとパラ、ついでに言えば、ソマリとポメラがお前ら2人の真似をしたらどうすんだ?」
俺の言葉にドレイク達が元気に返事をした。
「モモ姉みたいになる!」
「えっと、ドレイクがモモ姐なら、パラはエス姐みたいになる」
「ボク達も負けないように強くなるぞ!」
「だな、オイラも頑張るぞ!」
元気なチビ達を見て、モモとエスが4人に向かってゆっくりと歩いていく。
「いいッスか! 先輩のご飯をバカにする奴だけは許したらダメッス!」
「主様のために戦うのは美徳、他は暴力、ダメ」
ダメだなこりゃ、はぁ。
その後は、痙攣から解放されたイケメン眼鏡とその部下達も含めての賑やかな朝食になった。
状況が理解できないカイト達は唖然としていたが、モモとエスの2人と和解したイケメン眼鏡が八つ当たりのように米と魔物汁を食べまくっていたのには驚かされた。
結局、アルムさん達もしっかりと朝飯を食べて騎士団へと帰っていった。
「ホタル殿。美味しい朝食だった。これ程に美味しく食べられるなら、フルーツフロッグを次も大量に狩りたいものだ」
そんな会話を聞いたモモが肉の正体がカエルだと気づいて発狂したが、まぁ……美味かったから良しとするか。
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