94話
その日の朝は、いつも以上に賑やかだった。
複数の金属音を纏った足音が店の外から鳴り響き、近付いてくる。
騒がしさに気づいて、窓から外を見ると懐かしい顔が鎧姿で整列していた。
先頭に立った人影が、日の出と同時に気合いの入った大声を張り上げた。
「ホタル殿ーーーッ! アルム・ニヤンキ! 魔物討伐の任より、今戻りましたぁぁぁ!」
「ホタルの兄貴!」
「ホタルの旦那ッ!」
「「「オレたちも帰って来ましたぁぁぁ!」」」
朝っぱらから、賑やかだと思ったら……アルムさん、サンセル支部長の話だと、まだ戻らないって話じゃなかったか?
ただ、俺が窓を開ける前にドタバタと階段を駆けていく音が聞こえた。
次に扉が乱暴に開かれる音と共に、怒号が響く。
「朝っぱらから……うるせぇッス!」
声がしたと同時に“ドガンッ!”と、無慈悲な衝突音が鳴り響く。
因みに声の主はパジャマ姿のモモだ。寝起きが悪いタイプじゃないんだが、“睡眠妨害には死を!”ってタイプなのは間違いないな。
「ぎゃああああ!」
「アルム隊長! 大丈夫ですか、う、うわぁぁぁ!」
「ぎゃああああ、やめてください、モモさん!」
「モモの姐御! うぎゃあぁぁぁ!」
そろそろ、止めに行くか……カイト達が騒ぎを聞いて慌てたら大変だしな。
とりあえず、煙草に火をつけてから、階段を降りていく。
騒ぎを聞いて目覚めたソマリとポメラはしっかりと武器を手に外に向かおうとしているのが見えた。
「ホタル大変だぞ! 敵襲ってやつが起きてるんだぞ!」
「オイラ達も、モモに続くんだぞ!」
やる気満々の獣人コンビを軽く止めてから、外に出る。
煙草の煙を空に向けて吐き出してから、俺は大声を出す。
「ふぅ……お前らァァァッ! いい加減に止まれッ!」
空気を震わせるような腹からの声に、モモが動きを止める。
防戦一方だったアルムさん達が嬉しそうな表情を向けてきた次の瞬間、俺の顔面に目掛けて、助走をつけた拳が飛んでくる。
「何が! お前らなんッスかァァァァッ!」
「ぐぁ!」
「先輩は馬鹿なんッスか! 頭がお花畑の大草原ファンタジーッスか! 武装した大酒飲みの団体が朝っぱらから、騒がしく来て、いらっしゃいませする気ッスかァ!」
「ホタルがやられたぞ!」
「モモ、強いぞ!」
ソマリとポメラの声が聞こえ、モモの「ふん!」とそっぽを向く姿が見えた。
しかし、凄まじい不意打ちだったな……顎が、やべぇ。痛え、鼻ついてるよな……
騒ぎを聞いて、エスが側にやってくる。
「主様、大丈夫?」
「あぁ……なんとかなぁ」
「モモはヤキモチ、許すのが男の甲斐性」
「おう、てか……なんにヤキモチを妬いたってんだ?」
「先輩は二度寝するッス!」
そう質問した瞬間、俺の頭部にヘルムが投げつけられ、その衝撃で俺の意識は完全にブラックアウトした。
「あぁ! ホタル殿! ホタル殿ぉぉぉぉッ!」
───
──
─
次に目覚めた時、俺の頭は酷く痛み、額には濡れタオルが当てられていた。
「かぁ……痛ぇ……モモのやつ、全力でぶつけてきやがって……朝から酷い目にあったぜ」
「ピカピカのホタルが目覚めたぞ!」
「ツルツルのホタルがやられてびっくりしたんだからな!」
ソマリとポメラが慌てて、駆け寄ってきたのでどのくらい意識を失っていたのかを質問する。
「ホタルは、結構寝てたぞ!」
「だな、オイラ達が倒れたホタルを運んでやったんだぞ!」
「そうか、モモ達はどうした?」
質問すると2人は同時に外を指さした。
開かれたままの扉の先に視線を向けると、エスがドス黒いオーラを具現化させて纏わせたんじゃないかと思うほど、冷たい視線を正面に並んだ騎士団とモモへと向けていた。
「モモ、言い訳はある?」
「うぅぅぅ……エス、モモも悪かったかもしれないッスが、非常識なアルムさん達の方も叱るッスよ!」
「安心して……モモの話、聞いたら、次はそっちにも聞く」
エスのやつ、かなり怒ってるみたいだな……ありゃ、誰が見てもホラー映画のワンシーンじゃねぇか。
その後、モモが謝罪するまでエスからの追求が続き、聞いてると自然と痛みを忘れて、苦笑いを浮かべてしまっている俺がいた。
アルムさん達の番になり、エスが本気の威圧モードに入ったので、俺はふらつく身体に鞭を打ちながらその場に向かう。
「エス、そこまでにしろって、アルムさんは俺の知り合いだ」
「主様の?」
エスは多少困惑した表情を浮かべた後に、アルムさん達に鋭い視線を向ける。
「主様の知り合い……最低限の礼儀と時間を弁えて、さもないと次は無い……」
エスの機嫌が直った──かは、分からないが落ち着いたので、とりあえず店の中にアルムさん達を通すことにした。
モモも、自分がパジャマ姿のままで、外に飛び出していた事実に気づき、怒り半分といった赤面具合で自室に走って行ってしまった。
ただ、そんなモモの様子を見ていたアルムさんが小声で疑問を問い掛けてきた。
「ホタル殿……なんなんだ、あの上位の魔物より恐ろしい女性は……正直、我々が戦ってきたどの魔物よりも恐ろしかったんだが」
「エスは、本気のモモと互角に喧嘩できるからなぁ。むしろ、アルムさん達が無事でホッとしてるくらいだよ」
そう告げてから、案内した客席にアルムさん達を座らせて、時間は掛かったが全員分の珈琲を出していく。
「良い香りだ。ホタル殿の店に戻ってきたと実感するなぁ」
「「「間違いねぇ」」」
相変わらずの賑やかさだったが、それに気を取られて、朝食を作らないわけにもいかないので、手早く米を炊く用意を済ませてから、味噌汁を寸胴鍋に作っていく。
アルムさん達も食べるだろうから、多少多めなくらいが丁度いいだろうな。
味噌汁を作ると分かるやいなや、獣人コンビが肉を入れろと騒ぎ出した。
朝から、味噌汁に肉って……
「ツルツルのホタルは、ボク達が好きな肉を嫌うのか!」
「ピカピカのホタルも肉は好きなはずだぞ! オイラ達は知ってるんだぞ!」
俺の横で騒ぐ2人、その声に反応したのはアルムさんだった。
「知らない獣人の子達だな? またホタル殿は人助けをしたのだな! 実に素晴らしい。そうだ! ホタル殿に土産があるのだった」
アルムさんはそう告げると、仲間に向かって合図を出す。
合図を見て積荷を解き出す兵士達。
取り出された綺麗にカットされた魔物の肉だった。
「ホタルの旦那、肉は厨房側に置いて大丈夫ですかい?」
アルムさんの副官であるザックが問い掛けてきたので、ラップを敷いたまな板を複数用意していき、魔物の肉を順に置いていってもらう。
「因みに、これはなんの肉なんだ?」
質問にはザックが答えてくれた。
「こいつは、フルーツフロッグって魔物でさぁ! 今回の任務は、国の管理区域にある果樹園に大量発生したフルーツフロッグ討伐だったんでさぁ」
これ、カエル肉かよ……ただ、確認はしとかねぇとな……
「名前からして、果物が好きそうな感じは伝わるが、味はどうなんだ?」
「味は、癖もなくて、焼いてよし、煮てよし、生では無理ですが、それ以外ならどう調理しても美味く食べれるって肉でさぁ」
そこまで聞いて、俺の中で天秤が浮かんでいた。
ただ、不安よりも、試してみたいという好奇心が大きく勝ってしまった。
「よし、なら……野菜を足して、豚汁ならぬ、フロッグ汁……いや、魔物汁を作るとするか!」
俺はリーチインから、複数の野菜を取り出して刻んでいく。
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