93話
俺達はカイトの話を聞きながら、昼飯のそぼろ丼を平らげた。
そうして、デザートのタイミングになり、リーチインからミルク寒天を取り出す。
最初に出すのは、ドレイクとセスが作った砂糖が入ったミルク寒天にする。先に甘い味を感じてもらった方が、後々の味がハッキリするだろうからな。
「マスター。冷たくて美味しい。プルプルする」
「組長。パラのもプルプルだよ。ドレイクと一緒〜」
チビ2人は、純粋に楽しんでるな。まぁ、子供は純粋だな。
「先輩。モモもプルプルッスよ!」
前言撤回だ。大人になっても、子供心を忘れないタイプはいるよな。
「主様、不思議な食感、塊なのに柔らかい」
「組長! これ、凄く甘いんだけど! いくらでも食べれるよ!」
「カイトに賛成、組長、マジに美味いな。セスもそう思うだろ!」
「え、うん。甘くて冷たいから、美味しいよね」
全員の感想を聞いてから、俺は次に砂糖不使用のミルク寒天を取り出し、小さなスプーンに人数分を取って食べてもらう。
「うぅ……マスター、ドレイク、これ嫌い……」
「パラも……薄いミルクの味がする」
「先輩、罰ゲームみたいに海藻の香りが残ってるッスよ」
まぁ、口にした全員から似たような感想を言われた。当然だが、この砂糖不使用のミルク寒天は単なる薄味牛乳寒天でしかない。
味なんて、酷いものだろうな。セスは何かを気にしたような表情を浮かべているので、ここで本来の目的を教えることにする。
「この味が砂糖を使わない場合の味になる。ただ、これに少しだけ手を加えると別物になるんだ」
俺はトッピングとして、ハチミツやジャムなどを並べていく。
「みんな好きなトッピングで食べてみてくれ」
用意したトッピングはこんな感じかな。
・イチゴジャム。
・ブルーベリージャム。
・オレンジジャム。
・ハチミツ。
・メープルシロップ。
・みかんの缶詰。
みかんの缶詰は、個人的にシロップ漬けのみかんとシロップもミルク寒天に合うと思うからだ。
身体にシロップは悪いって言われるが、人生から見た少量なら許されるだろう。
ただ、最初の味見がよっぽどだったのか、なかなか手を伸ばしてくれねぇな……
「なら、組長、僕はこのハチミツを試してみていいですか」
そう言い出したのは、やはりセスだった。
「なら、マスター、ドレイクは青いジャムにする」
「セスがハチミツで、ドレイクはブルーベリーだな。はいよ」
1人が試してみると言い出すと、自然と全員がトッピングを選び始め、デザートタイムが再開する。
ただ、反応は最初とは別物だった。
「先輩! 美味しいッスよ……ジャムの味が加わって、甘さもバッチリなのに、しつこくないッス!」
「主様、みかんも甘くて美味しい。ミルク寒天はさっぱりで更に美味しい」
そんな声が飛び交う中、セスは黙ったまま、震えていた。
「セス、どうしたんだ?」
「組長……僕、砂糖なしのミルク寒天を食べて、やっぱり、お金をかけないとダメなんだって思ったんです。でも、これは……」
「おう……」
「組長……僕は砂糖なんか使わなくても美味しい物が作れるんだって……知りました」
「だな。味を決めるのに調味料は必要だが、それだけじゃない。見て楽しむ場合や後から付け足して変わるパターンもあるんだからな」
話を聞いているセスの顔は凄くいい表情をしてた。
その後は、いつも通りに時間が流れていった。
セスは俺に、ミルクについての質問を色々としてきたので、カッテージチーズの作り方や、ミルクを使った料理などの話を皿洗いをしながらセスの質問に答えていくことになる。
「組長は、物知りなんですね」
「ただの料理バカってだけだ。それより、カイトといい、セスといい、料理に興味を持つもんなんだな」
「僕とカイトは多分、作るのが好きだからだと思います。グライは作るのが苦手で、パラはどっちでもないかな……」
「性格ってやつだな。十人十色ってやつだな」
セスは不思議そうに俺の顔を見ていた。
「十人十色?」
「ことわざってやつだ。人それぞれに色々な個性や性格があるって意味だと思ってくれ」
そんな話をしていると時間はゆっくりと過ぎていた。
外では、ドレイクがビッグブルと一緒に魔法堂の婆さんの店に石鹸を届けに行こうとしている。
「なんだ、ドレイクが石鹸なんかを届けに行くのは、まだ先だろう? なんでヤキスーの婆さんに会いに行くんだ?」
「うん。前にね。石鹸はたくさん欲しがる人がいるからって、頼まれてたの。へへ。ドレイク、働き者だよ」
「そうだな。ドレイクは偉いな」
「うん。マスターも一緒にくる? 来たら、ドレイクが働き者なのが見られるよ」
期待したような表情に俺は少し悩んでから、ドレイクの頭をガシガシと撫でる。
「そうだな。たまには2人で届けに行くとするか!」
ドレイクは満面の笑みを浮かべて、ぐるぐると俺の周りを走り回って喜びを露わにさせる。
そうして、ビッグブルに跨ったドレイクと俺は手土産を用意すると店を後にした。
スラムを抜けて、大通りに入ると、自然と顔馴染みになった露店や商店から声を掛けられる。
「マスター、みんな元気だね」
「だな。すっかり顔見知りだからな。むしろ、顔を忘れられたら、買い物なんてしてやらないがな。ハハハ!」
話しながら魔法堂に到着すると婆さんが中に通してくれた。
「ドレイクに……ホタルかい? 届け物以外に何か用かい?」
「いや、単なる付き添いだ。あと土産もあるからな」
婆さんは不思議そうに首を傾げる。
「ドライアイスも入れてきたから、冷えた状態で食べれるはずだから、先に食べてみてくれよ」
保冷バッグから、タッパーを取り出して中身を見せる。
「白い塊? なんだいこりゃあ? 新種のスライムか何かかい?」
いや、婆さん、スライムって、ひでぇな。
「こいつは、うちのセスとドレイクが作ったミルク寒天と俺が作った物だ。俺の方はハチミツをかけないとだがな」
婆さんは、恐る恐るといった様子でスプーンでミルク寒天を掬い口に運ぶ。
「こいつは、不思議だね。冷たくて甘いのに、しっとりとしてるねぇ……ふむふむ、冷えてるからこその味だねぇ」
「美味いだろ?」
「あぁ、これは美味いねぇ……ただ、そのドライアイスってやつの方が気になるがねぇ?」
ドライアイスに興味を示した婆さんだったが、ドライアイスは溶ければ無くなると分かると残念そうな表情を浮かべていた。
「まぁ、ドライアイスの方はともかく、ミルク寒天はたまに差し入れくらいできるから、残念がるなよ」
届け物ついでに差し入れたミルク寒天だったが、思った以上に気にいったみたいだな。
「たしかにねぇ、次に土産として食べれるのを楽しみにしてるよ」
「そうだな。なら、セスとドレイクが上手く作れたら持たせるとするさ」
笑いながら会話を楽しみ、俺達は婆さんに別れを告げた。
ミルク寒天か……上手く商品化できたら、セスのしのぎになるかもな……なんてな、組長なんて呼ばれてるからか、考え方がそっち側になってるな。
悪ノリしないように気を付けないとな……
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