92話
朝食を終えてから、俺は余った寒天を見つめていた。
「セスのやつ、砂糖を気にしてたよな……」
俺はミルク寒天を同じように作る中で、砂糖不使用にして仕上げていき、色違いのタッパーに入れてリーチインに入れていく。
「これでよしっと、セスの感覚がこの世界の一般常識なら、確認しないとだからな……」
俺は朝のやるべき事を再確認していく。
最近の流れになるが、先ずはソマリとポメラに冒険者ギルドに向かってもらい日帰り、もしくは半日で終わる仕事があれば受けてきてもらう。
その際に、仕事があればそのまま向かえるように簡単な昼食を弁当にしておく。
この弁当があるかないかで、獣人コンビのやる気が別物だからな。
手早くリーチインから、昨晩取っておいた2人の米を取り出す。
取り出した米を手早く炒飯にしていき、次に別のフライパンで肉を炒めてチリソースで味付けをしていき、最後に野菜を適当に炒めた物を申し訳程度に作り、店の持ち帰り用の容器に綺麗に並べて冷ましておく。
そうして、獣人コンビの弁当を作ってから、次に昼の仕込みを開始する。
カイト達が帰ってくるため、ソマリとポメラの分を引いた8人分の米を研いでおく。
当然だが、この作業を忘れると昼に米がないなんて大問題になるから、タイマーだけは忘れないようにしないとな。
「ふぅ……完璧だな」
「なにが、“ふぅ……完璧だな”なんッスか? いや、言いたくないッスけど、先輩……自分が飲食店の店長だって忘れてないッスか?」
「主様? 飲食店の主だったの……驚愕」
「なんで、エスまで驚いてんだよ!」
「いや、先輩の行動を考えたら、飲食店の店長って……悪いアメリカンジョークにしか聞こえないッスよ」
朝から、ボロカスに言いやがって……
そうしている間に、ソマリとポメラが弁当を取りに来たので、しっかりと縛ってから手渡してやる。
「ホタル、行ってくるぞ!」
「オイラ達が頑張るからな!」
「おう、ゴミは持ち帰れよ。気をつけて行ってこい!」
「「わかったぞ!」」
ソマリとポメラが元気よく冒険者ギルドに向かう。
「本当に……先輩は、なにがしたいんッスか……飲食店より、孤児院の方が向いてる気すらしてきたッス」
「そう言うがな……仕方ないだろうが、店を構えた位置がスラムの先の街外れだぞ?」
「先輩が選んだんじゃないッスかぁ! それより、これを見るッス!」
「なんだこりゃ?」
目の前に広げられた紙を見ると細かく色々と書かれていた。
「これが最近までの先輩が稼いだ額ッス!」
「爺さんからのワイン代、金貨50枚……婆さんからが金貨10枚……十分稼いでるよな?」
「先輩……稼いだ額よりも、飛んでく額の速度の方がやばいんッス! 今の余った金貨を見るッス!」
そこには100枚に満たない金貨の入った袋が置かれていた。
「わかるッスか、このままだと、モモ達は一文無しになっちゃうッス!」
熱弁しているモモの話を聞いていると、エスが置かれた紙を見つめながら質問をする。
「この紙、金額おかしい。足りない分が存在してる」
その言葉にモモの熱弁が止まり、視線をゆっくりと逸らしていく。
「モモ? なにか言いたいことはあるか?」
「べ、別に……先輩……とりあえず、稼がないとダメって話で……終わりにしないッスかぁ……」
「エス、モモを捕まえておいてくれ……」
エスが即座に動いて、モモを捕らえに掛かるが、身体能力のみでエスを躱す姿を見て感心した。
そんな賑やかな雰囲気も、朝食後のコッコの世話を終わらせたドレイクとセスの登場で落ち着きを取り戻す。
「マスター、モモ姉、エス姉も、何してるの?」
「あぁ、お金の使い方についての話をしててな」
説明を聞いたドレイクが軽く悩むとセスの顔を見てから、俺に視線を向ける。
「ドレイクは、無駄遣いしないよ。セスも見てたからわかるよね」
太陽みたいに明るい笑顔がそこにはあった。
それと同時に頷いているセスに俺は質問をする。
「セス? ドレイクの話なんだが何を見てたんだ?」
セスの視線がモモに向けられると、モモが全力で首を左右に振るのが見えた。
「セス、ドレイク、見たものを全部話してくれ。モモは気にしないでいいからな」
モモが激しく首を動かすが、ドレイクがにっこりと笑いながら喋り出す。
「ゴーレムにね、たくさん粘土を使ってたの。モモ姉がたくさんヘンテコなのを作ったけど、ドレイクは大きいの作ったんだよ」
“焼きそば焼ける君”はドレイクの作品にモモが手を加えたみたいだな……ってことは、モモの使った粘土はどうなったんだ?
「エス、この数日間でモモが買った物があれば、教えてくれ」
「モモの買った物は、通常のゴーレム作成用の粘土が20キロ、魔力伝導率に優れた粘土を20キロ、特注の鉄板が1枚……かと」
「値段はどうなんだ?」
「ゴーレム作成用の粘土は安価です。10キロで大銅貨2枚、20キロで大銅貨4枚。鉄板は銀貨2枚となります」
つまり、粘土も鉄板もそこまでじゃないな?
「ただ、魔力伝導率に優れた粘土は、1キロで銀貨3枚、20キロで銀貨60枚……金貨で換算すれば12枚……」
明らかに、やべぇ額が飛んだぞ……粘土に日本円で60万って、どんだけ馬鹿げた値段の粘土だよ!
「因みに、すべて工業ギルドから仕入れてる」
「工業ギルド?」
俺の言葉にエスが頷くと、モモが口を開く。
「待つッス! 誤解ッスよ! モモはカイトがやる気を出したから、必要な設備を揃えただけッス……自分のために買ったのは、ゴーレム用の粘土だけッス!」
そうして、金貨が減っていた理由が明らかになったが、正直……責められないな。
「モモ、疑って悪かったな。カイトのために色々と動いてくれてありがとうな」
俺の言葉にモモが安堵の表情を浮かべる。
しかし、そこでエスがまたしても爆弾を投下する。
「モモは、ゴーレム工房が出来た際、必要な家具は自分で選ぶと、すべて独自に買い揃えた。許す?」
「エス! それは内緒ッスよ!」
「モモ……マジなのか!」
その後は、モモとドレイクのゴーレム工房を確認しに向かい、猫の顔を思わせる形の椅子や動物のテーブルなどに言葉を失った。
ただ、せっかく揃えたなら、今更返してこいとも言えない。
「はぁ……モモ、無駄遣いの話だったが、人の事を言えないじゃねぇか……」
「うぅ、面目ないッス……さすがに反省するッス」
小さくそう呟いたモモの頭にポンッと手を乗せる。
「むしろ、いい工房にしたなら、しっかり稼がないとな。これからも頑張ればいいだけの話だからな」
そうして、話は終わった。所持金はかなり減ってしまっているが、それでも何とかなるなら、まぁ問題ないだろう。
少しして、笑顔のカイト達が“焼きそば焼ける君”を連れて戻ってきた。
表情からして、いい経験になったのが分かる。
「さて、昼の用意をするかな。デザートもある事だしな」
俺は店に戻ると昼食の用意を開始する。
今日の昼は“二色のそぼろ丼”にする予定だ。
甘辛く味付けした挽肉と甘く味付けした玉子は、働いてきたカイト達にもピッタリだろうからな。
何より、デザートにミルク寒天もあるからな、いい感じに腹いっぱいになるはずだ。
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