88話
昼食を済ませてから、俺は全員を連れて、再度スラムへと向かう。
本来のスラム街なら、人もいるのだろうが……大型のギルドに、騎士団まで参加しての本腰を入れた完全摘発により、ただの廃墟になってしまっている。
これは俺の予想にすぎないが、人がいると土地も売れない事実もあったんだと思う。
「さて、ここだな……」
俺が立ち止まるとモモが確認するように周囲を見渡してから口を開く。
「壁ッスか?」
「違う。ただ、先に言うと……俺が買った土地を最初に更地にするつもりだ」
【店舗収納】を使って、俺の所有物になった建物は全部回収させてもらう、先ずはそこから始めるしかないからな。
「カイト、グライ、セス、パラ。もし家の中に持ち出したい物があれば、今すぐに取ってきてくれ」
4人は首を横に振った。
「組長。おれ達はなんにもないから大丈夫だぜ」
「だね。元々、ボロボロの服しかないしさ」
「そうそう、組長。だから気にしないでよ」
「パラもないよ。組長……」
強がってるが、辛いよな。
「わかった。ただ、お前達の家だけじゃねぇ……いっぺんにやるから、よく見とけよ!」
俺はスキル【店舗収納】を買った土地すべてを対象に発動する。
地面が一瞬光ると、周囲の建物が一斉に姿を消していき、スラムの一区画が綺麗な平地に姿を変える。
「主様の力、正直……驚愕」
さすがのエスも驚いたらしいな。ただ、これで終わらせる気はないんだよな。
平地になっても、使わなければ無駄な土地になる。だからこそ、俺はエスの力を使わせてもらうことにした。
エスは過去にダンジョン内に街を作ってたダンジョンコアだ。
逆に言えば、無茶な願いをしないかぎり、その頃の街を再現出来るはずだ。
「エス、悪いんだが、出来るか、出来ないかを教えてくれ。噴水を作れるか?」
「出来る。ただ、水路がないから、水路も勝手に作ることになる。構わない?」
「水路を作れるのか!」
「水路がないと噴水は無理、ただ、魔力で作る場合は別、どうする?」
話を聞いて、魔力で作った噴水は、ダンジョンの範囲に入った存在から微量の魔力を吸収して水を生み出す魔導具のような物らしい。
「なら、それで頼む。あと普通に水路は繋げて貰っていいか」
「わかった。主様、公園? 広場?」
「今は広場にしてくれ、噴水の場所はあっちに頼む」
店から近い位置に噴水のある広場を最初に作っていく。
理由としては、ドレイク達が水遊びをできるようにするためと、コッコやモーといった家畜型の魔物に水をやる際に、噴水から繋いだ水路を使えば、水やりも楽になるだろうからな。
噴水と水路をあっという間に作るエスは、本当にダンジョンコアなんだと改めて感心した。
その光景にモモがある提案をしてくる。
「先輩! モモとドレイクにゴーレム工房と馬小屋が欲しいッス!」
いきなり、何言ってんだ? と思ったが、ドレイクも手を挙げて賛成している姿を見て、エスに確認する。
エスはあっさりと承認してくれた。
モモとドレイクのゴーレム作製用の工房が出来上がり、その横にゴーレムの家となる馬小屋が姿を現す。
その光景を見ていたパラが、カイト達3人と話をしてから、俺の側まで駆けてくる。
たぶん、家を作ってくれって話だろうな。エスに頼めば、間違いないし、俺の【店舗収納】があれば、快適な暮らしになるだろうから、しっかりと作ってもらわないとな。
「組長、あのね……」
「わかってるよ。新しい家が欲しいんだよな。すぐにエスに頼むからな」
「違うの、組長、聞いて!」
「違うのかよ……悪りい、そうだな。話は最後まで聞かないとな」
パラが頷くと小さな声で話し始めた。
「パラがね……組長に言いたいって言ったから、聞いてね。パラ達ね、お家いらないから、組長とお家一緒に住むことはできる?」
子供言葉……早い話が、一緒に住みたいから、新しい家は今は要らないってことか?
目線でカイト達を見ると無言で頷かれた。
「パラもカイト達もそれでいいのか?」
声に出した瞬間、パラは首を左右に振った。
「カイト兄ちゃん達は、お家が欲しいみたい。でも、パラは、みんなと居たい……」
埒が明かないので、カイト達を呼ぶと、カイト達3人は、家を買う約束をしたから譲れないらしい。
「わかった……なら、給料から天引きになるが構わないか?」
天引きという言葉に首を傾げられたが、家の代金を普通に引くと説明したら納得してくれた。
家賃無しって約束だから、案外早く、買い直せるかもしれないな。
飯などを食べに来る都合も考えて、宿屋の横に小さいながらに一軒家をエスに頼み建ててもらう。
ただ、一つ問題があるとすれば、家具や雑貨だろう。
テーブルや椅子、ベッドはあるにはあるが、掛け布団やシーツ、食器に鍋などといった細かい品はエスの力では作れないらしい。
逆に言えば、大きな家具があるだけで凄い話なんだが、3人が別に寝泊まりするなら、最低限は必要になるため、俺は少なくなり始めた金貨の入った袋を覗く。
「なんか、また減ってる気がするな……」
「先輩、増えるような仕事は卵を売る以外、この数日何もしてないッスから、どんまいッスよ」
厳しい現実が笑顔でやってきた気分だが、むしろ、ちまちまとやってたらダメだよな。
「はぁ……なら、金を稼ぎに行くしかねぇか!」
夕暮れまで1時間程度の空を見上げてから、俺は騎士団に押し売りをするための準備を開始する。
ホットドッグ用のパンをメインに考え、冷凍庫に入れてあった麺の袋を取り出す。
「冷凍の業務用焼きそば麺があって良かったぜ」
俺は大量の濃い味焼きそばを作っていき、パンにマヨネーズを塗り、素早く焼きそばを挟んでいく。
本来、まかない用に買ってた冷凍麺だが、背に腹はかえられない。
紅生姜を添え、青海苔を最後にふりかけて完成だ。
作業を見ていたモモ達にも頼んで、アルミホイルを巻いてもらう。
「モモ、保温バッグを頼む」
バタバタと作業が終了すると、俺達は大量の保温バッグをビッグブルに背負わせてから騎士団ライム支部へと向かって押し売りにいく。
「先輩、笑顔が怖いッスよ……」
「なに、久しぶりにサンセルの支部長とイケメン眼鏡が驚く顔が見れるかもしれないからな」
「先輩……そこでアルムさんの名前が出ないのは、さすがに可哀想ッスよ……むしろ、普通はアルムさんの名前が一番に出ると思ってたッス」
モモが不機嫌になると思って気を使ってみたら、これかよ。
「まぁ、大量にあるからな。むしろ、余ったらって考えたら、不安になる数だな」
俺がそう口にすると、ソマリとポメラが口を開く。
「その時は、ツルツルのホタルが泣かないようにボク達が食べるから安心するんだぞ!」
「そうだぞ。むしろ、余らないと食べられないから、余るように売るんだぞ!」
「お前らなぁ……そうだな。歩きながら、食べるのは行儀が悪いだろうが、味見は必要だよな。1人1個で食べてみるか」
俺の言葉にみんなが嬉しそうに笑みを浮かべた。
結果、10本の焼きそばパンが売上から消えたが、歩きながら食べる焼きそばパンってのも悪くないな。
さて、騎士団に着いたら、しっかりと焼きそばパンを売らねぇとな。
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