87話
店にパラと戻ってから、すぐに俺は作業を終えたばかりのカイト、グライ、セスの3人を宿屋側に呼んだ。
カイト達は、なぜ呼ばれたのかが分からないと言いたそうな表情を浮かべていた。
いきなり、本題……に入るってのも、威圧感しかないよな。
とにかく、作業の話から入って、本題に入るか。
「3人とも、仕事の方はどうだ? 初日で困ったりしなかったか」
そんな質問にカイトが返事をする。
「えっと、前からし……おれ達、似たようなことやらされてたから」
「……」
「……」
カイト達の歯切れの悪い感じが簡単に見て取れた。
「似たような?」
「うん……おれ達は、ラッキー・アン・ラッキーバードの世話をさせられてたから……掃除とか、餌とか……仕事はすぐに理解できた」
カイトの言葉にグライとセスが俯く。
「カイトの言う通りです……」
「組長、黙っててごめんなさい」
3人の表情を見て、地雷を踏んだとすぐにわかった。
「いや、悪りい。責めるつもりじゃないんだが、はぁ……しゃあねえ、本題だ!」
俺はパラと一緒に、カイト達が住んでいた家と言われた建物について話していく。
すぐに拳を握り締めたカイトが勇気を振り絞り、俺に視線を向ける。
「……そ、それでも……あそこしか居場所がないんだよ!」
「……」
「おれ達みたいな、ゴミ溜めに生まれた奴の居場所なんて、簡単にできない! ボロ小屋でも、ゴミ箱でも、居場所なんだ……」
「はぁ……あの家がいいのか? それとも居場所が欲しいのか? そこをはっきりさせろ。曖昧は無しだ」
その言葉にグライとセスもカイトに視線を向けた。
「……居場所だよ……みんながいれば、それでいい」
「なら、先に謝らせてくれ、あの家は消させてもらう……」
「……ッ!」
「……!」
「ッ!」
それぞれに驚いた表情を浮かべた。
「嘘だったのかよ! アンタ、言ったよな! “買い直せ”って、おれ達に働いたら返すって!」
「すまん……」
「クソぉぉッ!」
カイトの握り締めた拳が座った状態の俺に向けられる。
ガキなりの本気の拳だった。
避けようと思えば簡単な拳を俺はそのまま受け入れる。
カイトも俺がノーモーションで拳を受けたことに驚いているように見える。
ただ、素直な怒りを無理に押さえつけたりしたら、コイツらの未来が腐っちまう気がする。だから、漢と漢の話し合いから逃げたり出来ねぇ。
「なんでだよ……嘘ついて、バカにしたいなら、避けろよ! 殴って、ぶっ飛ばして、ガキは無力だって笑えばいいだろうが!」
悔し涙で叫ぶセリフかよ……だから、ガキは苦手だ。善悪がしっかりしてやがる。だから、やっぱり避けなくて正解だ!
「話は最後まで聞け! カイト、グライ、セス! お前らの家は俺が用意する。土地を買い直すのはお前らだ。その事実は変わらねぇ!
お前らの城はお前らの居場所になる。勝手な話だが、これだけは譲れねぇ!」
カイトが下を向くと歯を食いしばった。
「……殴って、ごめん……おれ、ずっと……大人に騙されて生きてきて……」
「構わねぇよ。漢って生き物は、必要な時は拳で語るもんだからな」
俺は多少赤くなった頬のまま、笑ってから、3人を力いっぱい抱きしめる。
「お前らは、もう裏切られねぇ! 少なくとも俺はそんな真似はしねぇ。最初で最後だ! だから、家を返せねぇ俺を許してくれねぇか」
「──う、うぅぅぅ、うん……組長、おれ、信じるからな……うわぁぁぁぁ」
カイトが泣き出し、それにつられるようにグライとセスも泣き出した。
不器用は、不器用なりに足掻くしかねぇ。間違いなく、コイツらの涙は覚悟の証だからな。
本来は、初日だから、昼からは自由時間にしてやるつもりだったが……急ぐしかないよな。
「さぁ、俺は昼飯を作る。みんな顔を洗ってから、店側に来いよ。泣いたら腹が空くもんだからな」
3人にそう言い、俺は店側に向かう。
外に出るとすぐに、ドレイク、ソマリ、ポメラ、パラが追いかけっこをして遊んでいる姿が目に入った。
パラからすれば、気にするようなことじゃないんだよな。ある意味、ガキは強いな。
店に入り、厨房に向かう。しかし、そこには、モモとエスの姿があった。
「先輩。色々あったみたいッスから、今日はモモとエスが昼ご飯を作ってあげるッス! 先輩は大人しく座って待ってていいッスよ」
「──と、言うことみたい。主様。待ってて」
不安しかない! モモとエス……マジに大丈夫か? ただ、今更だよな……
フロア側に移動して、テーブルに腰掛けると、取ってきた灰皿を目の前に置いてから、煙草に火をつける。
そうしていると、ドレイク達4人がカイト達より先に店の中に入ってくる。
「あ、マスター! ドレイク達のご飯は?」
「まさか、ツルツルのホタルは、ボク達のご飯を抜きにするのか!」
「ソマリ、違うぞ……きっと、お金が無いから今日からお昼が無くなったんだ! 今すぐに狩りに行かないとだぞ!」
ドレイクとソマリ、ポメラの発言に不安そうなパラ……はぁ、想像力豊かすぎるだろ。
「違う、違う。今日はモモとエスが飯を作ってるだけだ」
俺が厨房を指差す。
チビ達は、興味津々に覗こうとするが、俺は待ったをかける。
「厨房を見る前に、手洗い、うがい! ほら、行ってこい」
わーわーと、チビ達が賑やかに走っていった。
次にカイト達が戻ってきた。しっかりと顔を洗って来たのか、いい面になってたから、正直……ホッとした。
そうして、全員が席に座り、モモとエスの作っている何かを待つ事になる。
ただ、出てきた料理に俺は言葉を失った。
「出来たッス! さぁ、みんなエプロンをつけるッス!」
モモとエスが持ってきたのは、大量の茹でたカニとエビだった。
いや、正式には他の貝類も混ざってる……なんだよ、これ!
「な、なぁ……これは、何なんだ」
恐る恐る質問をするとモモは胸を張りながら、決めポーズを取ると答えた。
「エビ・カニ・ミックス! 適当な貝類を添えて! モモ&エススぺシャルッス!」
頭痛てぇぇぇ!
「マジか……いや、マジなんだよな。はぁ、ソースとかはあるのか?」
俺の質問にモモとエスは互いの顔を見てから、塩と醤油、ポン酢を取り出して見せてくる。
確かに悪くはないが……
「ちょっと待ってろ」
厨房に入ってすぐに作業を開始する。
最初に作るのは、アボカドマヨソースにした。
アボカド、バター、醤油、レモン汁、すりおろしニンニク、塩コショウを混ぜた濃厚コク旨ソースだ。
更にケチャップ、レモン汁、タバスコ、すりおろし玉ねぎを混ぜ、ピリッとした辛みのある洋風ソースであるカクテルソースを用意する。
アボカドソースは加熱が必要だが、あとは潰して混ぜるだけの簡単なソースだ。
小鉢に各ソースを人数分用意して、テーブルに持っていく。
みんなが一斉に食べ始めると、エビ、カニってやつは、無言になるのがお約束だな。
ただ、個人的に言うなら、最高に贅沢で食いごたえのある昼食だった。
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