83話
ベリーさんが馬車の用意を済ませて戻ってきた。
本来の目的である土地を見に行くために馬車に乗り込む。
「なぁ、お前らよぅ……馬車に乗るなら、4人なんだから、2人ずつに別れて正面と後ろに座ればよくないか?」
「いいんッスよ!」
「狭いくらいが丁度いい」
なんで、モモもエスもこんな時は意気投合するんだか……喧嘩するほど仲がいいってやつなのか?
馬車は、商業ギルドからゆっくりと走り出す。
馬車に揺られての移動、普段歩いている景色も不思議と違う風景に見えるのだから不思議なものだと感じる。
そうして、馬車で移動すること20分程で俺達の店から程近いスラム街の入口に到着する。
「この周辺からが商業ギルドの管理する区画になります。建物で分かりやすくいえば、手前の建物から横に10軒、縦に8軒の建物が販売用の土地になっています……まぁ、長らく買い手などありませんが」
最後に本音が漏れてたよな? ただ、思ったよりも広い……まぁ、俺の買った土地と同じくらいなんだが……なんと言うべきか、投げ売りに近いな。
「ベリーさん? 因みに土地を買うとして、住んでる奴らはどうなるんだ?」
俺の問い掛けに、ベリーさんは口を閉ざすように結んでから、ゆっくりと力を抜いたように見えた。
「……建物の解体費も最初の支払いに含まれてます。すべて含まれた値段で、この区画は金貨40枚という値段になります」
「待ってくれ、それじゃ、答えになってないんだがな」
「わかっています……ただ、そうとしか説明ができませんので……すみません」
下を向いて、黙ったまま謝罪をするベリーさんに俺が困っていると、周囲から複数の視線を感じた。
建物をよく見てみれば、顔を半分出して、俺達に警戒するような視線を向けるガキ達の姿があった。
「なんだ……」
そんな言葉と視線に気づいたのか、ガキ達の中から少年が前に出てくる。
両手に拳を握り締め、覚悟を決めたような視線を俺に向けてくる。すると、他のガキ達がその少年を止めるように姿を現す。
「おい! こ、このハゲオヤジ! お、おれ達は……絶対に出ていかないからな!」
俺はゆっくりとガキ共の方に振り向くと歩いて行く。
「ホタルさん! 待ってください! あ、相手は子供ですよ!」
必死に俺を止めようと手を伸ばすベリーさん。ただ、その掴もうと伸ばされた手をモモとエスが逆に掴んで止める。
「モモの先輩に触れたら許さないッスよ? あと、先に宣戦布告をしたのは、あの子ッス。男同士のやり取りに口を挟むのは、絶対ダメだって、モモのママが言ってたッス」
「それには、モモに賛成。いざとなれば、エスも主様を止める。だから、じっとしてて」
丸聞こえだ……ったく。ガキ相手に俺が手を出すわけないだろうが。
「安心しろって! 話を聞いてくるだけだ」
俺はそう口にして、少年の前に立ってから笑顔を浮かべる。
「さて、話があるんだよな? 聞いてやるから、話してみな」
なるべく話しやすいように、笑みを浮かべて静かに質問してみたが、何故か無言のまま動かない。
「どうした?」
「……はぁ……あ、あ、うわぁぁぁ!」
突然の※グルグルパンチ。
※両手を全力で回転させて放つ、諦めた存在が最後に見せる覚悟の攻撃。威力よりも雰囲気と勢いの攻撃であり、別名駄々っ子パンチ。
片手を伸ばし、少年の頭をグッと掴む。
「あのなぁ、話し合いよりも、拳の語り合いがいいのか?」
片手でポケットから煙草を一本引き出し、火をつける。
「ふぁぁぁ……もう一度聞くぞ? 話し合いか、拳の語り合い、どっちだ?」
煙草一本分の時間が沈黙で流れ、俺も困ってしまっていると背後から、エスが灰皿を持ってくる。
「主様、吸い殻を」
「あ、悪りいな……」
吸い殻を回収したエスが、そっと灰皿を地面に置いた。
「主様、一つ、この少年は既に気絶してる。だから、待っても返事は返せない」
無感情なエスの言葉に俺は、少年の頭に乗せていた手をゆっくりと退かす。
「あちゃ、やっちまったな……」
「何がぁぁぁッ! やっちまったなぁぁぁッ! なんッスかぁ!」
ぐぁ!
腰に目掛けて、モモの全力ドロップキックが綺麗に決まる。
「主様! モモぉぉぉぉッ!」
「エスは黙るッス! 今回は弱い者イジメをした先輩が、ボケナスのべっこう飴二郎なんッスよ!」
痛え……ただ、モモを責められないな。
「エス、モモの言う通りだ。それより、そのガキは気絶してるだけなんだよな?」
「違う、主様と一緒に吹き飛ばされた。だから、外傷も増えてる」
結局、ガキを連れて、店側に向かうことになり、俺が肩に少年を担ぐと見ていた他のガキ達が慌てて駆け寄ってきた。
「ご、ごめんなさい。だから、カイトを連れてかないで、ごめんなさい……ごめんなさい」
「もう、逆らわないから、カイト兄ちゃんを返してください。お願いいたします!」
肩に担いでるのが、カイトって名前らしいな。
「はぁ……いいから、お前らもついてこい。話はそれからだ。悪りいが、モモ。適当に頼めるか?」
「先輩は本当にお人好しッスね。わかったッスよ。店側に用意するッスから、早く来るッスよ!」
そうして、店にガキ達を連れていき、ジュースと適当な菓子を食べさせることにした。
「お前ら、さっきは悪かったな。遠慮せずに食ってくれ」
俺の言葉に微動だにしないガキ達。本当に困るんだが……
そこに騒ぎに気づいたドレイク、ソマリ、ポメラの3人がコッコ小屋から戻ってくる。
「マスター、だれ?」
「あ、ツルツルのホタルが、ボク達に内緒でお菓子を食べてるぞ!」
「本当だぞ! ピカピカのホタル! オイラ達に内緒なんて、ずるいぞ!」
そんな言葉に俺はある事実を思い出して、慌てて、視線をその場の全員に向ける。
「お、怒ったのか、フサフサのホタル……じょ、冗談だぞ。ボク達も食べたかっただけだぞ」
「ごめんだぞ! 悪気は無いんだぞ、ボウボウなホタル……」
「うーん。マスター、お手て洗ってくるね」
ドレイクの言葉に、ソマリとポメラも頷くと手を洗いに駆け出そうとする。
「待て、お前ら、悪いんだがな」
ドレイクが不思議そうに振り向き、ソマリとポメラは不安そうに俺を見る。
「そいつら、まだ手を洗ってなかったんだ。悪いが、手洗いを一緒にしてきてくれるか? あと、うがいな」
「はーい! ドレイクが、うがいと手洗いするの教える!」
ドレイクの言葉に頷くと、ソマリとポメラが、固まったままのガキ達を引っ張り、流しに向かっていく。
「俺としたことが、手洗い、うがいを忘れるなんてな……」
煙草を吸おうとした時、困ったような視線を向けるベリーさんの存在を思い出した。
「あ、あのホタルさん。折り入ってお願いがありまして、今回の土地なのですが……購入していただくことは可能でしょうか……」
「……珍しいな? ベリーさんは押し売りみたいなことをするタイプには見えなかったんだが?」
「不躾な内容で申し訳ございません。実は私はスラムの出身で!」
「あ、悪りい。そういう昔話は、俺が聞いても仕方ないから、やめてくれ。ただ、買うならガキ達も一緒についてくるんだろ?」
「はい……他に行く当てなどないでしょうから……お願いいたします。必要なら、食費などは私が……」
「はぁ、ガキにも、しっかりと働いてもらう。無理がない程度にな。ただ、一つ、教えてくれ?」
俺は煙草に火をつけると、ベリーさんに鋭い視線を向ける。
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