81話
「先輩! 最近の先輩は弛んでるっス!」
俺は朝の珈琲を片手に一服してたが、朝から元気にダル絡みを決めてくるモモに人指し指を伸ばされている。
「いや、なんでだよ?」
「分からないんッスか! 最近の先輩のやる気はどこに忘れて、どこの落とし物預かり所にあるんッスか!」
なんで朝からこんな感じかを話せば、最近の俺は、正しく、卵屋さんだからだ。
産みたての卵を街に運び、調理師ギルドや街の飲食店に販売するようになり、ニワトリの魔物も順調に増えている真っ最中なんだよな。
「いや、順風満帆だろ? モモが言ってた安定な収入、定期的に入る大量の注文。何も問題ないだろうが?」
「わかってないッス! 先輩……先輩は卵売りのカラエッティーになるのが、夢だったんッスか! 今の先輩をカフェレストランのマスターだなんて、誰も思ってないッスよ!」
頭にドーン! と衝撃が走った。
「だ、だよな……最近は普通に食事のための買い出しをしてるだけで、店に客なんてきてねぇじゃねぇか!」
そんな朝の出来事もあり、俺は久しぶりに街の市場調査に向かうことにした。
モモはドレイクと一緒に卵の配送と婆さんへの荷物の宅配、その他を2人でこなしてくれている。
獣人コンビのソマリとポメラは、仲良く冒険者ギルドでクエストを受けにいった。
まあ、獣人コンビは家畜にしている魔物の世話から逃げた感じだ。
結果、家畜達の面倒はエスツーがしてくれている。本当に働き者のダンジョンコアで頭が上がらないって話だな。
「さて、俺も市場調査ってやつを頑張るとするかな……」
──場面は変わり、女神ネーメ視点。
「おかしい……やっぱりおかしいです! 最近の世界の流れが、ノイズまみれだなんて、何が起きてるのさ! こんなことありえないですよ!」
最近の僕はおかしい……昨日のことが急に思い出せなくなってたり、思い出そうとすると頭が混乱したりするじゃないですか!
「なんでこうなるんですかね……ただ、僕は簡単に諦める他の女神と一緒にされたら困るんですよ! 女神も神も混ざった、ハイブリッドな男の娘、ネーメちゃんを舐めるんじゃないですよ!」
僕は、管理を任された存在として、自分自身の身に何が起きてるかを録画してあるんだからね。
内容を確認して、僕はすぐに頬を引き攣らせた。
僕がモニターの前に立つ姿がしっかりと映し出されていて、映像の僕は何かに気づいて怒りを露わにしてるみたいに見えるじゃないか……
「なんで……僕ってば、何かを気づいたみたいなのに、いきなりお茶とお菓子を用意してティータイムになるんですか! やっぱり、おかしいです!」
酷い胸騒ぎがするんですよ……やはり、調べるしかありません。
急いで、モニタールームに向かった僕は、扉に手を触れた瞬間、嫌な汗が背筋を流れていく感覚に襲われた。
「あれれ、やっぱり気づいちゃうんですかぁ? 世界の管理者って立場の女神様は、やはり、凄いですねぇ。ですが、今はまだ邪魔されたくないので、またアフターサービスですかねぇ……本当に働き過ぎは身体によくないのですがねぇ」
背後から僕に向けられる声に振り向けない。
「随分と仕事熱心な言い方をしてますね。まさか、世界のルールを捻じ曲げてるのが、外の女神の配下であるあなただとは……天使さん」
「酷いなぁ。決めつけは良くないですねぇ。悲しくて、吐血してしまいますよ。まぁ、吐血してもリセットすれば、リフレッシュなんですけどねぇ」
「何が目的で、こんなことをしてるんですか……僕としては、こんな形での介入を許すわけにはいかないんだけど……」
考えないと……天使といっても、僕みたいな小世界の管理者とは、次元が違う女神の下についてる存在なんだよね。
「おやおや〜? 怖がらないでくださいよぅ。ただ……ウチの女神様が仕事を嫌がってましてねぇ……原因の一つに、女神ネーメ様の世界に刺激が足りてないんじゃないかと言い出しましてねぇ……分かりますか?」
「意味がわからないですねぇ……」
カタカタ。カタ、スゥゥゥ。
微かな音が耳に響いてくる。ただ、何よりも天使が続ける会話に耳を疑った。
「ですからね。なら、起爆剤をぶち込んで、途中でブレーキを踏ませなければいいんじゃないかと、いうことになりまして! はい。そうなると、ブレーキボタンを壊すしかないじゃないですか!」
無茶苦茶言ってるんじゃないよ! 僕の世界を壊すって話にしか聞こえないじゃないか!
「何が、起爆剤だ! 僕が大人しく聞いてたら、好き放題言い過ぎじゃないですか!」
勢いよく振り向いて、天使に視線を向ける。
僕の前に広がっていたのは、紙芝居の用意をする天使の姿だった。
「へ……」
「ですから、今から説明しますので! 楽しくお待ちくださいねぇ。あ、お菓子は一つまでご自由にお取りください。オススメは練り飴ですかねぇ」
な、何を言ってるんだよ……さっきまでの空気どこだよ……なんなんですか……
「はい。用意が出来ました。始めましょう!
女神ネーメ様の世界にある日、ツルツル頭の怖い顔の男が転移されました。
しかし、男は基本的な戦闘センスが化け物でありながら、勇者にも魔王にもなろうとしません。残念ですねぇ。
そこで、ツルツル頭の男を転移させた大いなる遊技の女神“フォルトゥナ”様は、ある決断を決めました。
これ以上、刺激が足りないとまた、人を送らないとならない。ただ、働きたくない!
なので、働かないために、女神ネーメ様が気づかないように、色々と掻き回して、大穴狙いの確変大当たりを確定させてしまおう!
そう決めた、その日から女神ネーメ様の目を盗み、遊技の女神“フォルトゥナ”様は、試し打ちを開始しました。
ただ、その日、女神ネーメ様は、あろうことか……その事実に気づいてしまったのです……はぁ、仕事が増えました……面倒臭いですねぇ」
長々と話を聞いてれば……
「ふざけんじゃないですよ! そんな話が許されるわけないです!」
「そう思いますよねぇ……ですから、許しは求めません。おっと、時間ですねぇ。続きはまたの機会があれば、お話しましょう。それでは、またお会いしましょう……最後に一つ」
僕は天使の言葉に身構える。
「仕事はきっちり、アフター0を基本掲げております。今回はアフターサービスなんですがねぇ。クレーム、その他の対応はおこないません。では、素晴らしいリセットライフを……失礼いたします」
次の瞬間、僕の視界はぐるりと反転しながら、歪み空間が吸い込まれていくのがわかった。
…………
………
……
「何してたんですかね……たしか、映像の確認をしようと……」
バキッ!
踏み出した足元に何かを踏んだ。確認すると録画用に用意したディスクだった。
「のわぁ! なんで足元にいるんですかぁ! あぁもう……ついてないですね……」
大切な確認用のディスクを壊すなんて……本当についてないですよ……ココアでも飲んで、落ち着いてから片付けをするとしますかね。
ただ、僕はいつ、確認ディスクを取り出したんですかね……謎すぎますね。
──女神ネーメ視点、終了。
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