79話
糸が切れた人形のように微動だにしないエスト。
違和感を感じながらも完全に停止した状態のエストから俺は視線を逸らしていく。
俺の視線はそのままダンジョンコアに貼られた紙へと向かっていた。
天使が何をしたのかを慌てて確かめるように内容を確認していく。
『この手紙を読んでいるということは、無事にこの手紙が剥がされたということでしょう。
実に素晴らしい。さてさて、今回のダンジョンコアについてお話します。
実は、前のマスターの記憶をダンジョンコアが記憶したままだったみたいなんですよ。やらかしたなぁ。
あはは。
なので、最初で最後にしたいアフターサービスを実施いたします。内容としては、ダンジョンコアのリセット、早い話が最初からってやつになります。
そして、最後になりますが、紙を剥がした人がマスターってことで後はお任せします。
クレーム、クーリングオフは受け付けておりません。
あなたの傍にはいつも天使でおなじみの天使より』
「なんだこりゃ!」
俺が大声で叫ぶと、途端に背後からも声がする。
「ホタル、大変だぞ! 動き出したぞ!」
「早く止めるぞ! ホタルはボク達で守るんだからな!」
動き出したエストだったが、雰囲気は俺が出会ったエストに近かった。
「なにをしていたのか? ここはどこなんだ……」
あまりに落ち着いた表情と声に獣人コンビが困った表情を俺に向ける。
いや、そんな顔を向けられてもな……
「えっと、エストなんだよな?」
ゆっくりと近づき、俺が声を掛けるとエストは、少し悩みながらも頷いた。
「エストではある。でも、エストじゃないかな」
会話をしていて、わかったのは、俺が知っているエストは、あくまでも記憶に残されただけのものであり、今目の前にいるのは、エストの形をしているが中身は別の存在だという事実だった。
「話を聞いてわかったけど、リセットって魔法が発動する前のエストが暴走したのは、エストの記憶に魔力を流した存在の性格や人格が混ざったからだろうね」
その言葉に、俺以外の全員がモモへと視線を向ける。
「なんッスか! モモは悪くないッスし、なによりも、モモはあんなに先輩にベッタリしないッスよ!」
「本能的な部分がでたのかと……エストとして、失礼をしたことはお詫びします。モモ様」
完全に空気をエストに持ってかれたモモは、頭を掻き毟ると、深呼吸をする。
「はぁ……まぁ、最悪な挨拶になったんで仕切り直すッスよ。モモッス。改めてよろしくッス」
「はい。エストはエスト……いぇ、エスツー、エスツー・フリーデと名乗ります。モモ様、主様、そして、皆様よろしくお願いします」
こうして、俺達の新たな家族にエスツーが加わった。
最初はどうなるかとヒヤヒヤしたが、モモとエスツーが仲直りしてくれて本当に良かったぜ。
ただ、その後がかなり厄介だった。
エスツーは、ダンジョンコアについての新たな説明を始めた。
ダンジョンコアの種類についての説明から始まる。
・一階層のみで迷路を作り出す『ラビリンス型』
・地下に階層を伸ばす『地下迷宮型』
・天高く階層を伸ばす『タワー型』
・階層内に転移の魔法陣が存在する『転移型』
基本はこの4種類であり、エスツーのダンジョンコアは『ラビリンス型』らしい。
1番攻略が容易く、魔物のレベル次第では、ソロでも攻略可能という、最弱のダンジョンらしい。
そこまで話を聞いてからエスツーから質問をされた。
「主様は、ダンジョンをどのような形にしたいのですか?」
俺にダンジョンを作るなんて頭はないし、なにより、ダンジョンを作るって言っても……ライムの街の中なんだよな。
「なぁ……ダンジョンには絶対に魔物が必要なのか?」
「主様が必要だと思えば、魔力次第で魔物を無限に作成可能です」
「物騒な話じゃなくて、魔物を生み出さなくて済むのかを聞いてるんだ」
結果は、魔物を生み出す必要はないらしい。ただ、魔物の種類については、食材として考えるとかなり優秀だった。
その後は、魔物を作り出す場所を決めた場合、確実に指定した場所に出せるかなどの確認をしていく。
確認が終わってみれば、俺は必要なら、エスツーの作り出した魔物を倒すだけで、肉がドロップ品になるような設定を完成させていた。
「主様、本当に良かったのですか? 一度決めてしまった設定は変更が不可なのですが?」
「構わないさ。頼む」
そうして、ダンジョンの設定を確定させた。
俺の店を中心にダンジョン扱いになり、宿屋の横に木材を買ってきてから、囲いをしっかりと作っていく。
「よし、これで完成だ! みんな頑張ったな!」
昼過ぎから始めた囲い作りは夕方までに何とか完成した。
ただ、エスツーの話では、あくまでも人工的に生み出した魔物のため、逃げ出したりはしないらしい。
しかし、その事実は俺達しか知らないため、他人から見た際のカモフラージュだ。
その後、幾つかの魔物をエスツーに頼み、作ってもらうことにした。
一気に囲いの中が賑やかになる。
・ニワトリ型の魔物を10匹。
・乳牛型の魔物を4体。
・羊型の魔物を8体。
最初はこんな感じにしてみた。
「あ、食用の牛も欲しいな、まぁ、今日はニワトリを捌くとするか」
俺がそう口にした途端、ドレイクがズボンを軽く引っ張ってきた。
「マスター……あの子達を食べちゃうの?」
不安そうにそう聞かれて、俺は何も言えなくなる。
普段、肉を食べているだろうが、生きてるものを食べるってのは、色々とあるんだよな……
「食べるってなったら、ドレイクは嫌か?」
ドレイクは少し悩むと首を左右に振る。
「変なこと、言ってごめんなさい」
「ドレイクは優しいな……」
実際に俺のスキル【店舗受取】を使えば、わざわざ、生きてる魔物を肉にする必要はない。
「なら、ドレイクに仕事を頼みたいんだが、あいつらの世話をして、卵と牛乳を集めたり、住処の掃除を任せられるか?」
ドレイクの表情がパァっと明るくなる。
「マスター! ドレイク頑張る。だから、コッコ達をご飯にしないで欲しいの」
ドレイクからの意思が詰まった言葉に俺は頷くと、ヨダレを垂らして、ニワトリ達を見つめる獣人コンビに向けて、声を掛ける。
「って話だから、絶対にちょっかい出すなよ! ちょっかい出したら、今後一切、飯は食わさないからな!」
「だ、大丈夫だぞ! ボクはホタルのご飯を食べるからな!」
「そうだぞ! オイラだって、ホタルのご飯が毎日食べたいんだからな!」
「いい返事だな。なら、夕食の準備だ。みんなで手を洗ってから、夕飯を作るぞ」
バタバタと手洗い場に移動するチビ達、俺も移動しようとすると、何故かモモとエスツーから、止められた。
「待つッス! 先輩。モモとの話はまだ終わってないッスよ」
モモの声に、エスツーは無表情で軽く微笑んで見せてきた。
「なんで、魔物の設定をお金がドロップするようにしなかったんッスかぁ! 今回の囲いとか、色々とお金ばっかり飛んでくんッスよ!」
予想外だ……なんで、こんなに怒られてんだ。
「いや、ほら……普通に考えたら、ズルはよくないだろ……あはは」
「むしろ、ズルでもしないと、毎日毎日、火の車に近づいてくッスよ!」
その後、しっかりとお節介を食らった。今回はマジに理不尽過ぎる。
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☆ギャグが笑えなくても、クーリングオフは勘弁してください。




