78話
モモとの話が終わり、俺はダンジョンコアを改めて見せて、考えを伝えることにする。
話が長くなるが、簡単に言えば、ダンジョンコアにモモの魔力を通すルーターを使って活性化させるって話だ。
「先輩……話はわかったんッスが、それって街中にダンジョンを作りますって話になるッスよ」
「ん? いや、俺はエストの奴を具現化してやりたいだけなんだが?」
モモが頭を抱える。更に深い溜め息と諦めたような視線が向けられている。
「先輩……モモは、先輩が何をしたいのか分からなくなってきたんッスけど……あれッスか? 『街の中にダンジョンを作ってみた。俺やべぇ』みたいなのをしたいんッスか?」
「なんでだよ……むしろ、やるなら……この寂れた地域を賑やかにしたいとかだろうな、隠れ家的、商店街とかな!」
「隠れてたら、商店街も廃墟の跡地扱いッスよ」
そんな話をしながら、俺達は、ああでもないこうでもないと話をする。
モモの機嫌がしっかりと治った後は、ドレイク達も呼び、全員で外に移動していく。
何が起こるか興味津々といった様子のチビ達を横目に、俺は片手にダンジョンコア、もう片方にルーターを握り、ゆっくりと深呼吸をしてから真っ直ぐに前を向く。
「うしゃ! やるぞ!」
気合いを入れて、ダンジョンコアにルーターを合わせ、しっかりと両手で押し込む。
無意味だろうが、隙間そのものを物理的に消し去るようなイメージで更に力を込める。
そうしてるうちにダンジョンコアが手から突然、空中に浮かび上がると激しく回転しながら輝き出す。
青い光と緑の輝きが混ざり合ったような眩い閃光が大地に円を描くように広がり、眩い光が次第に翳り、穏やかな残光へと変わっていく。
あまりの眩しさに手で視界を塞いでしまっていた。
俺が再度、ダンジョンコアに視線を向けた時には、地上で軽く浮遊した状態でゆっくりと回転しており、形容しがたい美しさを纏った水晶へと姿を変えていた。
「マスター、ピカピカが終わったよ」
「びっくりしたぞ……ホタルよりピカピカだったぞ」
「ボクもびっくりしたぞ。ホタルの頭より、テカテカだったもんな」
「それより、先輩、見るッスよ! あの水晶の影が変な動きしてるッスよ!」
モモの声に慌てて、俺は視線を水晶へと向ける。
水晶の周りをぐるぐると回るように動いていた影が俺の方に向かって勢いよく動き出す。
「ホタル危ないぞ! ポメラ、止めるぞ!」
「わかってるぞ! オイラ達で止めるぞ!」
ソマリとポメラの2人が手に握っていた戦鎚と戦斧を地面に向かって叩きつける。
粉塵が舞い上がる凄まじい勢いの攻撃だった。
しかし、影は止まらずに俺へと一直線に向かってくる。
目の前の地面が影で黒く染まった瞬間、影からエストが飛び出す。
「約束を守ってくれたのね。新しい主様」
飛び出してきたと同時に、首に手を回して、抱きつかれた俺はエストの発言に驚愕した。
「な、なんの話だよ!」
「コアを復活させてくれたから、主様が主様になった。さぁ、ダンジョンを育てて、一緒に暮らそう」
エストがそう口にした瞬間、本気の殺気と共に、エストの背後から、モモの回し蹴りが放たれる。
ググッ……
その回し蹴りをエストの影が人型になり、ガードする。
「無粋だと思わないかな? 主様との再会と門出なんだけどなぁ……」
「モモの先輩に向かって、いきなり何言ってるんッスかね……クソサイコ野郎には、夏波家では、回し蹴りを食らわすのがルールなんッスよ」
「言葉が通じないタイプの方ですかね? 主様の前で随分とふざけた真似をしますね……お仕置しますよ?」
エストからも、モモに負けない威圧感を感じた瞬間、ソマリとポメラがモモの背後に得物を手に身構える。
「3対1ですかね。ただ……主様を前に負けるなんていう無様な真似はできませんからね」
慌てて、4人の間に入り、俺は両者を止めに入る。
「待て! ストップ! 止まれ!」
ただ、止めに入った俺に対して、モモとエストの視線が向けられる。
その後、間髪入れずに何故か俺が責められた。
「主様、なぜ、止めるのですか! 主様はエストがお嫌いですか!」
「先輩、なにを止めてるんッスか! 先輩はモモが間違ってるとでも言う気ッスか!」
なんで似たようなことばっかり、言うんだよ!
それと同じタイミングで、ドレイクが俺に向けて声を掛けてくる。
「マスター、あの、ガラス玉がね……変な形でくっついてるよ」
ドレイク、今はそれどころじゃないんだ……
心でそんな感想を思った瞬間、モモがソマリとポメラに向かって指示を出していく。
「ソマリ、ポメラ! そうッスよ! ダンジョンコアとルーターを引っぺがすッス!」
指示を聞いて、ソマリとポメラが頷くとダンジョンコアへと駆け出していく。
その動きに、エストが慌てて追い掛けようとするが、モモが前に立つと行く手を塞ぐ。
「なにを焦ってるんッスかぁ? 少し大人しくしてれば、済む話ッスよ!」
「道を開けなさい! これ以上、別の感情が混ざると、厄介なんですよ!」
「なんの話ッスか!」
会話をしながら、繰り出されるモモの蹴りを、エストの影がガードすると、影とエスト本人がモモへと反撃をする。
しかし、そこは対人戦特化のモモだ。エストと影の攻撃を容易く回避しては、逆に反撃を繰り出していく。
「エストの記憶を守るために、邪魔はさせない!」
「だから、訳分からない話をされても困るって言ってるんッスよ!」
そんな攻防を繰り返すモモとエスト。
しかし、次の瞬間、エストの動きが突如、停止する。
ダンジョンコアの方を見ると、ドレイク、ソマリ、ポメラの3人ともう1人の人影がはっきりと俺の目に映る。
「お久しぶりです。皆さん元気に遊んでますねぇ。今回は突然のことでしたので、慌てて来させていただきました! はい、皆様も見慣れたおなじみの天使です!」
突然、決めポーズでそう語る天使を見て、ソマリとポメラが叫び声を上げる。
「お前、あの時のダンジョンを教えてくれた人だな!」
「間違いないぞ! あの顔は、ダンジョンを教えたやつだぞ!」
「おやおや、覚えていてくれましたか、本来は人前に姿を現すのはあまり良くないのですが……多少のバグがあったようなので、来てみました」
そう語る天使に向かって、俺は声を張り上げる。
「おい! お前には聞きたいことが山程あるんだ!」
「おや、ホタルさん。相変わらず元気そうで……ですが、私も時間がありません。最初で最後にしたいアフターサービスに来たのですから……あ、クーリングオフは出来ませんからね。では、はい!」
俺に向かって笑みを浮かべた天使は、ダンジョンコアに手を翳すと、一瞬で姿を消した。
ダンジョンコアには、お決まりの紙が一枚張り付けられているのみだった。
◆2章はここまで、次から3章となります◆
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