76話
朝の目覚め……改めて思うが、全員で宿屋側のフロアに雑魚寝はダメだろう。
昨晩の風呂騒動の後に、モモが俺を見張ると言い出して、この形になったが……はぁ。
普段俺よりも早起きなモモも、まだ寝てるらしく、空は太陽が顔を出したばかりのようだ。
色々と衝撃的な展開が続いたが、俺は気を取り直して、朝焼けの空を見つめながら、煙草に火をつける。
煙を肺に送り、吐き出しながらダンジョンコアについて考えることにする。
「これがダンジョンを生み出すなんて誰も思わないよな……こういうアイテムに詳しそうなのは……婆さんと爺さんか?」
頭に浮かんだのは、アッラノーマの爺さんとヤスキー婆さんだった。
考えても分からない事ばかりなら、動くしかないんだよな……よし、なら聞きにいくか。
とりあえず、婆さんの店に向かうことに決めた俺は、簡単に目玉焼きとベーコンを焼き、サラダとパンをテーブルに並べてラップをかけていく。
朝食の準備が終わると、次に婆さんの店に向かうことをメモに書いて、テーブルに貼り付ける。
そうして、着替えを済ませたタイミングで、突然、背後から足にしがみつかれた。
「マスター……お出かけ?」
眠そうな声でドレイクが質問を口にしてきた。
「起こしちまったか、悪かったな。少し、ヤスキー婆さんの店に聞きたいことがあってな」
「なら、ドレイクもいく。道案内してあげる」
普段から、石鹸やワインなどを届けているドレイクが自信満々にそう言ってきた。
昨日は留守番をさせられたドレイクからすれば、一緒に出掛けたいのかもしれないな。
「わかった。なら、一緒に行くとするか」
「うん。マスターといく」
ドレイクが素早く服を着替えると笑顔を俺に向ける。
その嬉しそうな顔を見て、俺も微笑みを返してやる。
ドレイクの準備が整ったことを確認してから、2人で婆さんの店に向かう。
時間を考えれば、婆さんは朝市で露店を広げてる真っ最中だろう。
「ドレイク、朝市を見ながら婆さんを探すぞ」
「朝市……ドレイク、頑張って探す!」
朝市の中を進むと、見慣れた屋台のおばちゃん達からは「朝から買い出しかい。寄ってきなよ」「お、兄ちゃんとドレイクちゃんか、いい品があるぞ」などと、声をよく掛けられる。
たまに顔を出して買い出しをするが、こんなに声を掛けられるなんて驚いたな。
結局、屋台で串焼きとパンを買う流れになり、飲み物は果実を搾った生ジュースを手に握る俺達がいた。
「なんか……買っちまったな」
「マスター、人気者だね。みんなから、買ってって言われてた」
「ドレイク、それは人気者じゃなくてな、都合のいいやつって奴だからな……まぁ、いいか、ベンチで食べるぞ」
朝市で買ったものを朝食にする。
相変わらず、串焼きは塩のみで、美味いは美味いが、物足りないんだよな。
そうして、パンと串焼きを食べ終わった頃、後ろ側から声を掛けられた。
「おや、ドレイク、それとホタルかい? あんたらも朝市を見に来てたんだねぇ」
声を掛けてきたのは、ヤスキー婆さんだった。
「婆さん、あんたを探してたんだが、今は買い出し中か?」
「買い出しって言えば、買い出しだがね。既に必要なものは集まったからねぇ。それより、探してたってなんかあったのかい?」
俺は素直に聞くべきか悩んで、ダンジョンについて、質問することに決めた。
婆さんも、俺の口から、ダンジョンについての質問が出てきたことに驚いていたが、すぐに冷静に返事をしてくれた。
「ダンジョンかい……たしかに、ライムの街にも幾つかは管理されてるダンジョンが存在するねぇ? ダンジョンに入りたいのかい?」
「いや、ダンジョンってのが、どうやってできるのか気になっただけなんだが」
俺の返事に呆れたような表情を向けられたが、婆さんは、教えてくれた。
「ダンジョンの生まれ方なんざ、冒険者ギルドで適当に教えてくれるだろうに、まぁ、ちゃんと知りたいって話なんだろうね……ついてきな、店で話してやろうじゃないか……」
婆さんについて行き、店に入るとすぐに分厚い本を引っ張り出してくる。
酷くボロボロの本を見て、俺は首を傾げるが、婆さんはそのまま話を開始した。
「いいかい、今の時代じゃ、おとぎ話みたいな話になるだろうが、ダンジョンは一粒の種から生まれたって話があるんだ」
婆さんの言う種が、ダンジョンコアなんだろうか?
「ダンジョンの種は、魔力を吸いながら成長していき、周囲の根を張り巡らせ、やがてダンジョンと言われる迷宮を作り出す。まぁ、形は様々だがねぇ……」
婆さんは、話しながら、俺から買っている煙草に火をつけると、煙を吐き出していく。
「わかるかい……ダンジョンは簡単にいえば、人を餌にする食人植物みたいなもんなのさ、ただ、逆に言えば……人を集めるためにアイテムを蜜のように生み出す場所でもあるんだよ……」
「人を集めるために……ならよ? 人を集めないダンジョンがあるとしたら、どんなダンジョンなんだ?」
俺の質問にくだらない質問だと言いたそうな表情を浮かべながら、婆さんは教えてくれた。
「そんなダンジョンがあったら、ダンジョン自体が枯渇して、消滅するだろうねぇ……魔力がなくなれば、形を保てないだろうからね……死を待つだけのダンジョンなんざ、聞いたことないがね」
そこまで話を聞いて、エストのダンジョンは死を待つだけのダンジョンだったんだと再確認した。
「婆さん? ダンジョンの種ってのは、今もどこかにあると思うか?」
「あるだろうねぇ……なんせ、ダンジョンは新たに生まれてるわけだからねぇ、まぁ、ダンジョンなんざに足を踏み入れて養分にされるような真似はするんじゃないよ」
婆さんから、色々と話を聞いてから、俺とドレイクは帰ることにした。
「またきなよ。ドレイクもまた、宅配を頼むよ」
「任せて! ドレイクは宅配を任されてるからね」
軽く挨拶を済ませた俺達は朝市の終わった通りを店に向かって帰っていく。
「マスター、色々なお話してたね。ドレイクは分からなかったけど……」
「そうだな。ただ、ダンジョンについて色々とわかったからな。収穫はあったな」
「マスターが嬉しいなら、よかったね」
なんとも純粋な笑顔だった。
「だな。それに色々と分かったからな。試したいこともできた……ドレイク、帰る前に寄り道したいんだがいいか?」
ドレイクが頷いたのを確認したので、寄り道の目的地がある大通りを進んでいく。
上手くいけば、エストの願いを叶えてやれるかもしれないな。
ドレイクを連れて向かったのは、誰もが目を引くほどに輝く外壁と美しい門構えに姿を変えた奴隷商の商館だった。
「……マスター」
「ドレイク、言っとくがお前をどうかするとかはないからな……むしろ、売りに来たのかなんて聞かれた日には、そんな馬鹿にはお年玉替わりに拳骨を食らわせてやるからよ!」
笑いかける俺に対して、ドレイクも嬉しそうに微笑み返してきた。
「何より、奴隷商のリオのオッサンに無理な頼みを聞いてもらわないとならねぇからな……気合い入れてくぞ!」
「うん!」
そうして、奴隷商の扉を開いていく。
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