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74話

 エストが消えた後、静まり返ったボス部屋の中をミラさんとスリンガーさんが複雑な表情で見渡していた。


 モモ、ソマリ、ポメラに怒られながら、俺はそんなボス部屋を見渡す2人を気にしていると、ナンシーさんも同様に気になったのか質問をしていた。


「もう、早く帰りましょうよ。正直さぁ……こんな、ギルドにも情報がなかった廃ダンジョンに長居したくないしさ、なによりも、ミラとスリンガーはなんでこんな場所を知ってるわけ?」


 ナンシーさんの言葉に、ミラさんとスリンガーさんは互いの顔を見合わせるとスリンガーさんが口を開く。


「この場所は、『黒龍の息吹』の皆さんと会う前から知っていただけの話です。正直、足を踏み入れられるとは思いませんでしたがね」


「そうだね。私達は知ってただけで、実際に入ったのは今回が初めてだからなぁ。正直、驚いてるのは私達も同じなんだよね」


 そんな会話が落ち着くと、次に視線を向けられたのは俺だった。


 当然、俺はついてきただけなので、詳しい話は獣人コンビしか知らない。


「悪いが、俺はついてきただけで、ダンジョンについては、ソマリとポメラの2人から聞いてくれ」


「説明なら任せろ! ボクは説明が得意だからな!」

「違うぞ! オイラの方が説明は上手いんだからな!」


 俺に向かって、アピールする2人に苦笑いを浮かべながら話を聞いていく。


「ボク達は、このダンジョンの場所を街で聞いてから探してたんだぞ!」

「そうだぞ! ホタルに再会する前に街で変な服を着た人がいたから、質問したんだぞ!」


 話を聞いていて、わかったのは、俺と再会するまでの間に、街で不思議な雰囲気の青年を見つけて、好奇心から話し掛けたらしい。


 青年は「おやおや? 予想外の交流はご法度なのですが、困りましたね……なら、情報を授けるとしますか」と独り言を喋っていて名前も名乗らなかったらしい。


 結果的に、廃棄されたダンジョンの存在を聞いた獣人コンビは、自力でこの廃ダンジョン『忘れ去られたダンジョン』を見つけたらしい。


 ただ、その発見を冒険者ギルドに話して、探査が一度入ったらしいが、調べた際には、すぐに行き止まりになり、何もない洞窟を勘違いしたという扱いになったらしい。


 その結果に不満を感じた2人は、再度、忘れ去られたダンジョンに足を運んだ結果、壁を叩くと奥に道がある事実を発見した。


 発見した2人は冒険者ギルドに報告する必要なしと判断して、2人だけで壁を破壊し続けていたらしい。


 普通に考えたら、こいつらヤバいな……


「どうだ、ホタル! ボク達は凄いだろう!」

「だろう、ホタル! オイラ達は偉いだろ!」


 何から受け入れたらいいか……ただ、凄いのは事実なんだよな。


「たしかに2人は凄いな、正直驚いたぞ」


 俺が2人に微笑むと、モモが咳払いをする。


「ゴホン! 話は後ッスよ。先輩、歩けるッスか?」


 一度、立ち上がると自分の身体の様子を確認する。


「問題はないらしいな。なら、行くとするか」


 そうして、帰還しようとすると、ソマリとポメラが俺のズボンをグイグイと引っ張り、後ろ側を指差す。


「ホタル! あれ、忘れたらダメだぞ!」

「そうだぞ! ドロップアイテムを拾わないとだぞ!」


「いや、俺は……なんなら、モモ達が持ち帰るべきだろう?」


 エストのいた位置に残されたガラス玉と本を見てそう口にしたが、モモは首を横に振った。


「よく分からないッスけど、先輩に術をかけてたやつは、先輩と居たかったように見えたッスから、流石のモモも、そんな呪いのアイテムみたいな品はごめんッスよ」


 いや、言い方……呪いって……


 俺とモモの言い合いの中、ナンシーさんが手を挙げる。


「みんながいらないなら、報酬として、ウチが引き取るわよ」


 そう言いながら、ガラス玉と本に手を伸ばした瞬間、伸ばされた手が拒絶されるように弾かれる。


「痛! なんでよ! ドロップアイテムなのに、おかしいじゃない、まさか……本当に呪われてるわけ、感じ悪いわね!」


 ナンシーさんが慌てて、ミラさんとスリンガーさんの後ろに移動する。


「ホタルさん! 早く回収して、教会で解呪依頼しなさいよね!」


 ナンシーさんの行動に言葉を失いつつ、俺はゆっくりとガラス玉と本の下に向かう。


 本に手を触れた瞬間、あの少女……エストの姿と笑う大勢の亜人、そして、刺されて倒れた冒険者が笑いながら話している姿が頭に浮かんだ。


「寂しくないよ。皆がいてくれて、私ね。すごく幸せだよ」


 そんなエストの笑顔を見た瞬間、本は風化して灰へと変わった。


 周囲がざわめくが、俺はその声をスルーして、ガラス玉に手を伸ばす。


 再度、エストの声がした。

「置いていかないで……1人は、寂しいよぅ……1人はいやだよぅ……」


 俺にしか聞こえない叫びだったことは周囲の反応からも理解できた。

 だから、俺は誰にも聞こえない声で呟く。


「安心しろ。エスト、お前はもう1人じゃねぇよ。だから、泣くな」


 我ながら、らしくない選択だと思う。ただ、この選択は絶対に間違いじゃないと自信を持って言える。


「よし! なら、帰るとするか」

「なんで、いきなり先輩が仕切ってるんッスか。まぁ、いいッスけど……留守番を任せたドレイクとビッグブルが寂しがるッスからね」


 俺が歩き出そうとすると、不意に肩を掴まれた。

 掴んだのはスリンガーさんだった。

 突然の行動に違和感を感じたが、スリンガーさんの背後にいるミラさんも何かを言いたそうに見えたので俺は確かめることにした。


「なんだよ……」


「さっきは言うべきか悩んだのですが……ホタル殿がそのアイテム(ガラス玉)を手にしたなら、伝えるべきだと判断したので」


 スリンガーさんはそう口にすると間髪入れずに口を開いた。


「それは間違いなく、ロストダンジョン、つまりこのダンジョンコアです」


 俺だけでなく、その場の全員の足がピタリと止まり、ナンシーさんは完全にフリーズしていた。


「おいおい、スリンガーさん? それはどういうことなんだ?」


「ナンシーさんは……聞いてないというよりも、立ったまま気絶してますね……皆さんに伝えるとなると、誓約書に名前を記してもらわねばなりません」


 スリンガーさんは、マジックバッグから魔法の契約書を取り出す。


 そこに手早くスリンガーさんがサインをすると、ミラさんがそれに続く。


 その後はモモと獣人コンビがサインをしていき、最後にナンシーさんの指をミラさんが誓約書に押し付け、強制サインが完了する。


「改めて話しますが、そのアイテムはダンジョンコアであり、本来は人の手に渡る品物ではありません。完全にイレギュラーなんです」


 獣人コンビは首を傾げているが、日本人としての知識があるミラさんとスリンガーさんだけは、事の重大さを理解している。


「悪い、ダンジョンコアって言葉は何となく分かるんだがよ。実際のところ、ダンジョンコアって、なんなんだ? 俺にも分かるように説明してくれ」


お読みいただきありがとうございます!

もし少しでも『蛍とモモの掛け合いが面白いな』『続きが気になる』と思ってくださったら、ページ下部の【☆】や【ブックマーク】で応援していただけると、ハゲみになります……!(毛根的な意味で)

☆ギャグが笑えなくても、クーリングオフは勘弁してください。

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