72話
俺達はボス部屋の中に入ってから、困り果てていた。
「ホタル、どうするか考えろ! ボクは考えるのは苦手だぜ!」
「うぅ、たしかにオイラも考えるのは得意じゃないぞ」
「わかってるから、少し待ってろ。って、言ってもなぁ……まさか、ボス部屋の中に街があるなんて思わなかったからな……」
ボス部屋の扉を開き、中に足を踏み入れた時は、真っ暗な闇が広がる空間に見えていたが、突然明るくなったと思ったら、空には太陽を思わせる球体が浮かんでいて、俺達の視界を照らし出した。
ボス部屋に広がる街だったそれを見て、すぐに警戒しながら探索を開始する。
ただ、広いだけで、動く存在はおろか、生き物……つまりは魔物や鼠の類いなど、いても違和感のない虫の子1匹すら存在しなかった。
そうして、探索を進めた結果、ボス部屋にボスが居ない事実もあり、現在、俺達3人は悩んでいる真っ最中だ。
「なぁ、一度、ボス部屋から出たりできないのか?」
「出来たら、ボクだって、最初からやってるぞ。ボス部屋は、ボスを倒すか、ボスにダメージを与えないと絶対に開かないんだぞ」
「そうだぞ! ダンジョンの常識だからな! 知らないホタルは、ダメダメなんだぞ!」
まぁ、ボスが見つからないってのが、やっぱり一番の問題だな。
「一応聞くが、ボスが現れない場合はどうするんだ?」
質問をした瞬間、獣人コンビの顔が驚きと焦りに包まれていく。
「そんな事になったら、ボク達、この部屋から出れないぞ!」
「それはダメだぞ! オイラ達はまだまだ冒険者として、暴れたいぞ!」
「まぁ、そうだよな。ただなぁ……この廃墟のボス部屋でボスが居ないんじゃ、まじに無理ゲーなんだよな」
手当たり次第に大きな建物を調べてきたが、やっぱり、一軒、一軒回るしかないか……
そんな馬鹿げた考えが頭に浮かんでいた。
「ホタル! オイラ、お腹空いたぞ!」
「たしかに、ボクもお腹が空いたぞ!」
いきなりかよ! ったく、お子ちゃまコンビが……
「はぁ、わかった。待ってろよ」
俺はリュックから、用意してきたサンドイッチを取り出して、手渡す。
ついでに魔法瓶、つまりは水筒に入れてきたお茶も渡していくことにする。
「ホタル……これ、冷めてるぞ……オイラ、温かいのがいいぞ」
「うぅ、サンドイッチも美味しいけど生ぬるいぞ……」
「わがまま言うなよ……」
文句を言いながら、食べる2人。
「美味しいのに、冷めてるのは、ボクは悲しいぞ」
「そうだぞ! ホタル、お店を出せば、温められるとオイラは思うぞ!」
「いや、店はあのままにしてきたからな……」
「なら、周りの店を使えばいいんだぞ! 暖かいご飯が食べたいぞ」
「ポメラ、ナイスだよ! ホタル、早くやるんだぞ!」
苦笑いを浮かべる反面、2人の言葉に俺は少し試したいことができた。
「たしかに、店は出せないが、この廃墟の街を収納できるか、試す価値はあるよな」
ダンジョンの街に所有者がいるのかは知らないが、所有者がいないなら、所有権を掲げるのみだ!
「ポメラ、大変だ。ホタルが悪い顔してるぞ!」
「たしかに、悪魔みたいな顔してるぞ。ツルツルデビルだ!」
言いたい放題言いやがって、見てろよ!
手始めに、俺の横にある建物に視線を向ける。
悩まずに【店舗収納】を発動させてみる。
「うわぁ! ホタル、建物が消えたぞ!」
「凄いぞ! オイラ、目の前で見て、びっくりだぞ!」
「試しに【店舗収納】をしてみたが、できたな? ただ、できるなら、片っ端から収納して、ボス探しといくか!」
「「おおぉぉ!」」
一旦、俺達は入ってきた扉まで戻ると手当たり次第に建物を収納していく。
そうして、最初の探索に費やした時間の半分程の時間で俺達は壁際に広がる建物をすべて収納していった。
同じ要領で円を縮めるように建物をボス部屋から【店舗収納】へ片付けていき、最終的に収納ができなかった建物は3軒だけになっていた。
「さて、どれが当たりか、調べるとするか!」
最初の一軒目に足を踏み入れると、小さなテーブルの上に薄く輝きを放つ本が置かれていた。
不思議な雰囲気を放つ本に向かって手を伸ばすと、見たこともない光景が頭の中に直接再生されていく。
1人の少女が優しく微笑み、周囲には亜人や魔物を思わせる生物が普通に生活をしている。
姿形が違うだけで、どこにでもあり得そうなその光景が一気に早送りになると、次の瞬間、ボロボロの男が映され、最初に笑っていた少女が涙を流していた。
声が聞こえない単なる映像の端には、武装した男達の亡骸が映り、男達側から更に奥側の位置から放たれた矢がボロボロの男の心臓を貫くと少女は叫ぶように手を伸ばし、貫かれた男を抱き締める。
そこで俺の意識ははっきりと戻された。
「なんだ……こりゃ……」
俺の前には、本だったのであろう痕跡だけが残る形で、本が置かれていた位置には灰だけが残っていた。
すぐに室内を俺達3人で調べたが、他は何も見つからなかった。
外に出た俺は、試しにもう一度、建物に【店舗収納】を発動させる。
最初は反応しなかったはずの【店舗収納】が発動して、本があった建物は収納される。
不気味ながらに悲しい気持ちを感じながら、次の建物へと移動する。
そこには、最初の建物と同じように本が置かれており、ボロボロの男が冒険者だった事実と、仲間割れを起こした流れ、仲間割れをした冒険者達が街を攻撃する様子が映し出された。
「胸糞悪い映像だな……」
すべてを見せ終わると、役目を果たしたと言わんばかりに本は風化して灰になり、建物は収納される。
最後の建物は、本当に小さな小屋だった。
俺はドアノブに手を掛けるが、開く様子はない。
「開かないのか?」
「ホタル、何してるんだよ。入るなら、ノックが基本だぞ!」
「そうだぞ! ソマリの言う通りだぞ!」
俺は腑に落ちない気持ちを飲み込み、扉を軽くノックしてみる。
ダンジョンのボス部屋にある廃墟の街だぞ? ノックして返事があったりしたら、日本の学校のトイレは全部、花子さんだらけになっちまうだろうな。
そんなわけの分からない考えが頭を過ぎるが、次の瞬間だった。
「はい……どなたかしら?」
心臓が止まるかと思った。
「な……」
ドアノブに手を伸ばしたまま、変な声が出て俺は固まってしまった。
「何してるんだよ! 返事があったなら、ボスだぞ!」
「オイラもそう思うぞ! 突撃するしかないぞ!」
獣人コンビの言葉に俺は慌てて2人を止める。
「悪い、中に入りたいんだが、構わないか?」
確認するように、扉に声を返すと、ゆっくりとした足音が扉へと近づいてくるのがわかった。
「今開けるから、待ってて……」
そんな女性の声が返されると、扉の裏側から、カチャと、金具が外される音が小さく聞こえた。
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