71話
忘れ去られたなんて言葉を半信半疑で聞いていたが、ダンジョン入口を守るように伸びた蔦や、大きな苔、そんな地方都市の廃墟を思わせる光景に俺は不思議な感覚を覚えた。
ただ、それと同時に、俺の中で近づくのを躊躇うような既視感をビンビンに感じていた。
「何をしてるんだよ、ホタル! 早くいくぞ!」
「そうだぞ。オイラ達との初ダンジョンなんだから、早く入るんだぞ!」
「わかった。ただ、危ないと感じたらすぐに引き返すからな! わかったか?」
そんな注意も二つ返事で、忘れ去られたダンジョンの中に入っていく獣人コンビ。
ったく。さて、俺も中に入るか……
忘れ去られたダンジョンの中は外と違って、肌寒いくらい冷んやりとしていた。
「なんだか、天然の冷蔵庫みたいな温度だな? 夏場なら1日涼んでたいくらいだな」
呑気な感想を口にしながら、ダンジョンの中を見渡す。
ダンジョンってやつは、不気味で禍々しいものを想像してたが、単なる洞窟のような壁と暗闇の先に真っ直ぐ繋がる通路があるだけだった。
「なあ、お前らに聞きたいんだが、なんでダンジョンの中に灯りがあるんだ?」
「ホタルは何も知らないんだな! ボク達は知ってるぞ!」
「そうだぞ! ピカピカのホタルと同じで、ダンジョンは魔力でピカピカなんだぞ!」
ダンジョンの魔力ってやつは、人に親切なのか、奥に誘き寄せたいからなのか分からないが……松明を手に進むようなことにはならないらしい。
軽く話しながら、ダンジョンの中を探索すると、最初に姿を現したのは、木製の羊と木製の山羊の魔物だった。
ギギッと、木製の身体を動かしながら、通路を前に後ろにと行ったり来たりする姿に俺は驚きを露わにしてしまった。
「ありゃ、なんだ? デカい玩具が動いてるみたいじゃねぇか」
「何を言ってるんだよ! あいつらはアンティークモンスターだよ。魔物の中でも硬いし、何よりしっかり壊さないとダメなやつなんだぞ!」
親切丁寧な説明に感謝していると、俺達3人に気づいて目を輝かせる2体のアンティークモンスター。
初見の魔物を前に身構える。
しかし、獣人コンビは満面の笑みを浮かべると、どちらともなく駆け出していく。
「ホタル! 見てるんだぞ! ボクが大活躍するんだからな!」
「あ、ソマリ、ズルい! オイラの方がもっと大活躍するんだから!」
心配はいらないらしいな……
ソマリの握った戦鎚が勢いよく振り下ろされると、木製羊の頭部を一撃で粉砕していく。
「どうだ! ホタル、ボクの攻撃は凄いだろう!」
自慢げに笑うソマリ、しかし、ポメラも両手斧をしっかり握ると木製山羊を一撃で粉砕してみせる。
「ふん。オイラは手加減しても余裕だったぞ! ホタル、しっかり見てたか!」
そこからは、まるで木像の叩き割り大会かと言いたくなるくらい、アンティークモンスターを次々に粉砕する2人。
2人が勢いのままに駆けていくため、俺は荷物持ち感覚でついて行きながら、獣人コンビが倒したアンティークモンスターが残した魔石を拾っていく。
「ハァハァ……ポメラ、いい加減に負けを認めたらどうかな、ボクの方が1体多く倒してるんだからさ!」
そう口にしたソマリの目の前で、ポメラが更に1体のアンティークモンスターを粉砕する。
「これで……数は同じだぞ! ただ、もう魔物がいないぞ」
俺から見ても、2人の凄さはよくわかる。
ただ、魔物が現れなくなった事実は逆に言えば、このダンジョン1階の終わりを意味している。
何より、目の前にある無駄に悪趣味な扉だ。
「なんで、こんな扉のデザインなんだよ。悪趣味でしかねぇな」
黒い扉に描かれた枯れ木の森……どんだけ自然が嫌いな奴が作ったんだよ。
「ホタル! 中に入らないと敵を倒せないぞ!」
「そうだぞ! オイラ達のどっちがボスを倒すか、しっかり見るんだぞ!」
獣人コンビからしたら、俺の心配よりも活躍が見せられない方が嫌みたいだな。
そうして、俺達はボス部屋の扉へと手を伸ばす。
──時を同じくして、場面は女神ネーメへと切り替わる。
「なんで、念話が届かないんですかねぇ……これはマズいですね。かなりお不味いです」
私は嫌な感覚を感じて、すぐにあの頭の寂しいホタル君に念話を飛ばしたのですが、まさかの音信不通ですね。
「気分は既読スルーされた相手にスタ連(スタンプ連打)をしてる気分なのですがねぇ」
最後の痕跡は、森……むしろ、不味い理由が増えてしまいましたね……
なんででしょう『商業』ルートを選択したホタル君が『戦闘』を選んだ方用のルートに入れてしまうなんて……
「エラーでしょうかね……早く解決しないと、私の力でも修正できない状態になってしまうかもしれません。むしろ、何が干渉した結果なのか……嫌になりますね」
本来は、あのダンジョンに入れる存在は『戦闘』を選んで、幾つかの条件をクリアしていないとならないのですが……
女神側からすれば、イレギュラーなんて、簡単に起こるはずがないのですがね。
「──可能性の話になりますかねぇ……ホタル君は、いつからこの世界に居るのでしょうか……私からすれば、小さな誤差と思っていたのですが」
異界の女神を頼った結果がアンノーンだなんて笑えませんね。
女神同士だからと、安心してしまった私自身を八つ裂きにして、デリートしてから再構成してやりたい気分ですよ。
異界の女神“フォルトゥナ”……使いの天使さんはしっかりしているように見えましたが……資料を再確認ですね。
確認してみれば、私の予想通り、まだこちらの世界に来て1か月も経っていないじゃないですか? ただ、私は、ワールドレコードを確認した瞬間に顎が外れてしまうかと思いました。
既に初日から、騎士団との遭遇、魔物の単独討伐、調理による金銭の取得と金銭の物々交換、貸し付けに、新たな食材の調理法……
「なんなんですか……このデタラメな功績、こんなことをしていたら、最初からルートが定まるはずがありません」
私は慌てました。イレギュラー、アンノーン? そんな単純な言葉で片付けられない功績が1人の存在により知らない間に積み重ねられていたんです。
「これじゃぁ……まるで世界を塗り替えるようなバグじゃないですか……なんで私は気づかなかったのでしょう……」
私が困り果てていると、不意に私の使う管理用のモニターの端に見慣れないシールを見つけました。
「なんでしょうか? こんなシールに見覚えはありませんが?」
シールを剥がし、確認するとふざけたような名前が書かれていました。
『リセットカンパニー』仕事はきっちり、アフター0。すべての問題を最初から! クレームや対応はおこないません。
「ふざけた内容ですね……今はホタル君の問題を解決しないとなんですが……なんででしょう……急に大丈夫な感じがしてきました……とりあえずお茶の時間にするとしましょう」
不思議です。さっきまであんなに慌てていたはずなのに、私は何を慌ててたのでしょうか……明日は新しく異界の女神であるフォルトゥナさんが、新しい人材をこの世界に送ってくれる日でしたっけ? 何年かぶりの新たな人材に期待ですね。
頭がモヤモヤしますが、寝たら治るでしょうか?
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