1─7話、魔物料理とウォークイン
煙草を吸いながら煙を吐き出した瞬間、酷い激痛が全身を駆け巡る。
「かぁ……痛てぇ、悪りぃ……肩、貸してくれ……マジに限界だ」
アルムさんとモモが同時に駆け寄ってくると、先にモモが俺の腕を自分の肩に乗せた。
「先輩に肩を貸すのは、後輩の役目なんッスよ……だから、手を出さないでほしいっス……」
アルムさんがモモに心配そうな視線を向けていた。
当然ながら、モモの肩に俺が掴まっても無理だ。
「モモ、悪りぃ……マジに限界だわぁ……【店舗収納】オフ……」
薄れる意識の中で俺は最後に店をその場に出現させると、意識をブラックアウトさせた。
次に目覚めた俺は、目の前に広がる光景に目を疑った。
俺の店で広げられたブルーシート。
その中心で複数の兵士があろうことか、あの猿公をバラバラにしてやがる。
回らない頭で、周囲を確認するとアルムさんに支えられたモモが真っ青な表情を浮かべて放心状態になっている。
「なんだ、こりゃ……って! 俺の店で、何ヤバいことしてんだ! マジに事故物件になってるじゃねぇか!」
俺の声に意識を復活させたモモが飛びついてくる。
「先輩〜! おかしいんッスよ! いきなり、店を汚さないようにしたいって言われて、シートを出したら!」
「わぁったから、とにかく落ち着けって」
モモの頭に手を置いて、痛む身体を無理やり動かしていく。
「アルムさん、なんで俺の店を解体所にしてくれてんだ? 説明してもらえるか?」
俺が動き出した瞬間、アルムさんが慌てた様子で俺の傍にやってくると説明をしてくれた。
「ホタル殿、すまない。悪気はなかったのだが、このビッグエイプは血抜きをしてから、店内に運ばせてもらった」
実際にブルーシートに血は然程もついていない。
「いや、そうじゃなくてな……なんで、ブルーシートを敷いて解体なんてやってんだって話だ……」
俺が渋い表情を浮かべるとアルムさんは困ったように話を再開した。
「す、すまない。外で解体して傷や汚れを増やせば、ホタル殿の得られる討伐報酬が減るため、敷物を使わせてもらったのだが……まさか、この青色の不思議な生地は高級な品だったのか……」
勝手に青ざめるのは勘弁してくれ、泣きたいのは俺だってのに……
「ブルーシートは別に構わない。それより、その俺が得られる報酬ってのは、なんなんだ?」
早めに切り上げないと、アルムさんが震えだしてるしな……
「すまない。討伐報酬というのは、冒険者などが、ギルドで貰うことのできる報酬のことだ、討伐部位の他に肉や毛皮と魔物によって使える部位は違うがな」
「そうなのか、なら、あの猿公だった肉も金になるのか?」
俺は綺麗に解体された猿公を指さして聞いてみる。
「エテコウ? あぁ、ビッグエイプは肉は硬いが焼けば食べれるし、毛皮も無傷と言って差し障りないからな、早い段階で解体できたので、かなり高値になるだろうな」
猿公には、悪いが……ありがとう。南無阿弥陀仏……合掌。
「まぁ、理由はわかった。ただ、今回限りにしてくれ……流石に血の臭いが店に染み込むと……」
そこまで俺は口にして、違和感に気づいた。一時間ほど前にあれだけの肉を焼いていたら、僅かながらでも、残っているはずの厨房の匂いが一切なかった。
「まさか……いや、色々と考えるより、確認した方が早いよな……」
俺は一度、頭を冷静にするために、厨房にある換気扇へ向かう。
煙草に火をつけて、煙を吐き出していく。
「煙草を店で吸う時点で、ダメダメなんだがな……ふぅ……」
そんな俺はゆっくりと換気扇に視線を向ける。
換気扇にはハッキリと『リセットカンパニー。すべての匂いをリフレッシュ(本当に全部吸い込みます。クレームや対応などはおこなっておりません)』
「やっぱりかぁぁぁッ! 飲食店で匂い消してどうすんだよ! ダメだろぅがぁぁぁ!」
俺の声に慌ててモモが走ってくる。
「先輩! どうしたッスか、煙草の吸い過ぎで現実逃避全開ッスか!」
「ちげぇよ……色々と『リセットカンパニー』にダメージ食らわされたんだよ……流石に換気扇はやり過ぎだろうが……」
俺がそんな感想を口にしていると、フロア側から、アルムさんが声を掛けてくる。
「ホタル殿。無事に解体がすべて終わりました!」
「お、おう。そうなんだな……」
あの肉の塊はどうするんだよ……
「先輩? 先輩、あの肉なんッスけど、歩いて持って帰ったら絶対に腐るッスよ……肉を解体したのが先輩の店で同行してくって、正直ヤバくないッスか? 衛生上の保健所案件ッスよ、これ?」
「確かに、マズいどころか、食中毒案件になるな。だからって……」
俺は厨房のウォークイン冷蔵庫を見つめた。
「冷やさないとマズいよな?」
「先輩が、食中毒の関係者でバズりたいなら、モモは止めないッスよ?」
「バカ言うな……食中毒だけは、マジにダメだ。じゃあねぇ。すぐに肉を持ってくるように言ってくれるか? 不本意だが、下処理してから、ウォークインにぶち込む」
そこから次々に厨房に肉が運ばれると、肉の部位ごとに下処理をしていく。
肉本来の性質もあるため、アルムさんや兵士連中に普段の使い方を聞いてから、サイズを決めて切り分けたりと、本当に肉屋になった気分だ。
そうして、俺が大切に使うと決めたウォークイン冷蔵庫には、猿公の肉がコンプリートボックス状態で並べられた。
異世界で初めて仕舞う肉がこれってどうなんだ?
そんな事を考えた俺は猿公の肉を幾つか、カットしてから、“玉ねぎの微塵切り”、“蜂蜜”、“ワイン”、“塩麹”に漬けておくことにした。
硬い肉だとアルムさんから聞いたので、少しでも、柔らかくなればいいと思う。
ただ、食べたいかと聞かれたら、悩むのも事実なため、正直複雑な仕込みになっちまったな。




