1─6話、漢の戦い。頭を使え!
俺とモモが店ごと、異世界に飛ばされてから、数時間が経ち、店内は兵士で賑わい満員御礼……で夢から覚めましたなら、良かったが、現実は違うらしい。
「これが店の外だってのか? まるでジャングルじゃねぇか?」
「先輩! 変な色の花もあるッス……マジにヤバいッスよ」
俺は初めて店外に出ている。理由は食事を終えて、休息が取れたアルムさん達が、ネハン王国の首都『ライム』に帰還するからであり、俺とモモも同行するからだ。
正直、会ったばかりの人間を信頼して街に向かうのは不安しかないが、2人だけで何も知らないまま手をこまねいているのは、マズいと感じた。結果モモと話し合っての判断になる。
「先輩の店はこんなジャングルでポツンと立ってたんッスね……」
「最初からあった訳じゃねぇから、寂しそうな表情を向けるな!」
俺は店の看板を見上げる。
カフェレストラン『Gold Rush キンザン』
俺が人生を賭けて手に入れた店だったのに、オープン前に異世界デビューって、泣けてくるだろうが!
「先輩〜! しみじみしてるのはいいッスけど、早くしないと、時間が頭みたいに0になっちゃうッスよ」
「だから、ハゲてねぇ! ベリーショートだ!」
俺は初めて、自分で意識して“スキル”とやらを使う。
「ふぅ……【店舗収納】」
次の瞬間、光の演出は愚か僅かな演出も起こらないまま、俺の店、カフェレストラン『Gold Rush キンザン』は目の前から姿を消していた。
消えた直後に俺は本当に店が戻せるか気になり、再度、【店舗収納】を発動する。
頭の中にイメージが流れ、カフェレストラン『Gold Rush キンザン』を強く念じると、次の瞬間、店が元通りに姿を現した。
中に入り、軽く見渡したが何一つ変わりがない事実に安堵する。
そうして、店を収納した俺は固まったままのアルムさん達の元に合流する。
「先輩……マジに人間やめたんッスね……マジシャンに転職したら、世界中で大バズりじゃないッスか」
「なんでだよ。俺は料理でバズるから安心しろって!」
「過去に客に頭突きをして、大炎上した人のセリフッスか、不起訴だからよかったッスが、本来は一発アウトッスよ」
「2人で話しているところ、悪いが魔物だ……戦闘になるやも知れんので、2人は下がっててくれ」
急なアルムさんからの指示に俺とモモは首を傾げた。
「聞いたかモモ。魔物だってよ」
「聞いたッス。まさにファンタジーッスよ!」
そこに兵士の「そっちに行ったぞ!」という声が響き、正面の草むらが激しく揺れる。
地面が微かに振動するような感覚が俺の身体にビシビシと伝わる。
俺の目の前でアルムさんが剣を抜くと両手にしっかりと握り、身構える。
次の瞬間、前方から兵士の声が響く。
「アルム隊長! そっちに“ビッグエイプ”が!」
「くっ、早いな!」
そうアルムさんが口にすると、猿のような生物が茂みから姿を現す。
「2人は早く下がって! ぐあッ!」
俺は目を疑った。熊のようなサイズの猿が目の前におり、俺達に指示を出していたアルムさんを巨大な腕の一振りが放たれ、勢いのまま弾き飛ばされていく。
アルムさんの声が響いた。次にモモが「ひっ!」と声を漏らす。
「マジか……特撮でもこんな不気味な猿は使わねぇだろうが」
猿公の視線がモモに向くとニヤリと笑みを浮かべ、涎が地面に流れ落ちる。
「おい! うちの従業員はお触り禁止だ! 馬鹿やろう!」
俺の声に猿公が、一瞬視線を向け、首を傾げると、すぐに俺の目の前に原付が体当たりしてきたような衝撃が走る。
ただ、普通なら致命傷になるはずの衝撃に俺はなんら問題なく耐えていた。
「なんだこりゃ、よく分かんねぇけど、やられたら100倍返しだからな馬鹿やろう!」
吹き飛ばされたアルムさんが慌てた様子で声を出す。
「ホタル殿! 【身体強化】が発動している間に逃げてくれ、そいつは危険だ!」
「そうなのか、これが【身体強化】ってやつなんだな?」
無意識に発動するのか? ただ、今ならダンプカーにだって負ける気がしねぇ!
「先輩! 早く逃げるッスよ!」
「今逃げて、この先、ずっと襲われても逃げ続ける人生なんて、俺は真っ平御免なんでな! 無駄に鍛えた拳は痛えからな、覚悟しろよ猿公がァァァ!」
勢いのまま、振り抜いた拳。誰が見ても我流の喧嘩パンチだった。
ただ、そんな一撃をその場にいた誰もが驚きを隠さずに目で追い続けていた。
グギャアァァッ!
拳が放たれ、猿公の顔面に届いた瞬間、猿公の巨体が微かに浮き上がり、そのまま木々を薙ぎ倒す形で吹き飛ばされる。
「やべぇ、なんだよ……この威力」そんな俺の言葉にアルムさんが慌てて声を出す。
「まだだ! ホタル殿、油断するな!」
俺が声に反応すると同時に、正面から倒れた木が俺目掛けて投げつけられる。
腹部に木がぶつかった瞬間、正面から猿公が怒り狂った表情で突進してくると俺の顔面に手に握られていた石が叩きつけられる。
「先輩!」
「ホタル殿!」
そんな声が俺の耳に響く。
「マジに痛ぇな……」
俺は横たわり殴られながら、握った拳を猿公の顎に目掛けて横殴りに叩きつける。
一瞬の動揺が与えてくれた、この時間を無駄にする気はねぇ!
「猿公! 漢は、拳で語って、頭使って生きてんだ! 武器を喧嘩に持ち込んでじゃねぇぞぉぉぉぉ!」
ゴンッ!
周囲に響くほどの衝突音だった。必殺のヘッドバットが猿公に決まったと同時に泡を吹いて俺の前で倒れていく。
「痛ェ、石頭すぎんだよ。ったく……」
ズボンのポケットから、煙草を取り出して、ターボライターで火をつける。
俺、異世界にて初勝利。




