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68話

 一呼吸入れてから、俺はいつの間にか置かれたテーブルに出されたお茶に口をつける。


「お、美味いな!」


「粗茶ですが。粗茶からアップグレードさせたので、美味しいですよねぇ」


 そんな雰囲気を茶と共に飲み干すと俺は本題を切り出していく。


「俺達が教会にきた理由は、もう分かってるんだろ?」


 真剣な眼差しを女神ネーメに向ける俺。


「教会に訪れた人のすべてを知るなど、無理ですね。普通に考えてくださいね。全員が違う思考を持つのですよ。流石に頭がパンクしちゃいますよ。女神廃人計画でも立てる気ですか?」


 思ってた答えと違うんだが……無駄に説得力ありやがる。


 俺は諦めて、女神ネーメに向けて、なぜ教会に来たのかを話していく。


 話を聞いた女神ネーメは、お茶を飲みながら口を開いた。


「つまり、私に話があって来たんですね? ただ、残念なんですが、私には貴方方が欲しがるような情報は持ってませんね」


「早い話が、元々の世界に帰る帰らないみたいな情報はないんだな」


 そう返した言葉に女神ネーメは、ゆっくりと頷いた。


「そうなりますね。私に与えられた権限では、本来の世界に転移させる事は許可されてません。先の尋ね人も似たような質問をされましたが、答えは、一つですね」


 ふぅ……無駄足だったみたいだな。


「そんな顔、しないでください。なんか悲しいじゃないですかぁ」


「なあ、女神さんよう? 聞いていいか。あんたの役目は何となくわかったが、なら他に何ができるんだ?」


 実際は何もわかんねぇ! ただ、このままだと話が進まねぇ……


「できることですか? 姿を変えることは可能ですよ。こんな感じに……」


 次の瞬間、少年の姿をしていたはずの女神ネーメは、目を疑うほどの美少女へと姿を変えていた。


「こんな感じに、姿は変幻自在です」


「あ、あぁ……他には何ができるんだ」

「他は、初回限定でスキル付与、女神ネーメちゃんとの念話機能の付与、あとは? 無料の鑑定機能ですかね」


 いらない機能もあるが、めちゃくちゃ有能な機能があるじゃねぇか。


「念話機能はいいとして、鑑定とかもできるのか?」


「鑑定機能を使う為には、念話機能が必要です。むしろ、ネーメちゃんと念話できるなんて、幸運だと思うんですよ。ホタル君用のお得な女神ネーメちゃんセットですよ!」


「変なセットを押し売りすんなよ。あと、ホタル君とか、やめろ! はあ、とにかく、わかった。その機能ってやつは有難く使わせてもらう」


 俺がそう告げると何か安堵したような表情を浮かべた女神ネーメに俺は多少の違和感を感じた。


「まだ、何かあるのか?」


「はい。条件が整いましたので、イベント選択が開始されます」


 ドラム音がいきなり鳴り出すと、女神ネーメはどこからか、2枚のパネルを取り出して俺に見せてきた。


「どちらかを選択してください」


 そう言われて確認する。

 パネルには、『戦闘』と『商業』と書かれていて、選んだ選択肢で世界の流れが変化すると言われた。


「マジかよ……なんで、こんな大切な問題を俺に選ばせんだよ?」


「それは、単純にホタル君の進む道だからですかねぇ?」


 真顔でそう言われた俺は、手を前に伸ばす。


「なら、商業だ。正直、戦闘を選んで、モモやドレイク、獣人コンビのソマリとポメラになんかあったら、後悔しかしないからな」


「賢明な選択です。それでは、私は私の仕事がありますので、ホタル君の世界が素敵なストーリーになるように願います」


 そうして、俺は眩い光に包まれる。


 目を覚ました時、俺は教会の長椅子で横にされていた。


「あ、マスター! 大丈夫?」


 ドレイクの心配そうな顔と、気まずそうなモモの表情、更に俺に向かって飛び込んでくる獣人コンビと、いつもの面々の顔を見て、ホッとした。


「先輩、そのやり過ぎたッス……反省するッス」


「ピカピカのホタルが、へにゃへにゃのホタルになってボクは心配したんだからな!」

「そうだぞ! ボコボコのホタルをみんなで寝かせたんだからな。オイラ達に感謝するんだぞ!」



 本当に賑やかで、女神ネーメと会ってたのが、夢だったんじゃないかと思う俺がいた。


「悪かったな。それより、みんなは何か見たり、聞いたりしたのか?」


 当然ながら、気絶していたというより、意識を持っていかれた感覚の俺は他のみんなに何も無かったかが気になった。


「先輩が気絶してる間に、めちゃくちゃ怒られたッス。おかげで教会にお布施をたんまりと持ってかれたッスよ」


 どうやら、俺以外は誰も女神ネーメに会ってないらしいな。


「とりあえず、目的の祈りってやつを済ますとしよう」


「そうッスね。教会にわざわざ来て、お布施を取られただけじゃ、踏んだり蹴ったりッスからね」


〘そうしてください。皆さんに祈って貰えたら、ネーメちゃんは嬉しい気持ちになるので〙


 ……気のせいだな。疲れてるんだな。


〘なんで気のせい扱いなんですかぁ。寂しいなぁ……あんなに私の身体で色々としてあげたのに〙


「誤解を招く言い方すんな!」


 俺の言葉にモモが身体をビクリと驚かせる。


「なんッスか、いきなり……いいじゃないッスか! 本当に踏んだり蹴ったりなんッスから!」


「あ、いや……モモに言ったわけじゃ」


〘あらあら、痴話喧嘩ですか? ホタル君、ダメですよ仲良くしないと……えい!〙


 頭の中に響く女神ネーメの声に俺は嫌な予感を感じずにはいられなかった。


 咄嗟にモモから離れようとした時、お祈りに来ていたおばちゃんがモモにぶつかる。


「おわっと!」


 そんなモモの声が口から飛び出すと同じタイミングで、俺は前に足を伸ばしてモモの身体を支える。


「大丈夫か、モモ?」


「あ、ありがとうッス……」


〘これが女神ネーメちゃんの力です。仲直りなら任せてくださいね〙


 はぁ……頼むから、普段は大人しくしててくれ……


 俺はその後、女神ネーメに頼み込み、念話は、必要最低限でしてもらうことにした。


 多少文句は言われたが、女神が干渉しすぎるのはどうなんだと、心で念じたら黙って納得してくれた。


 教会での祈りは無事に終了したので、俺達は店に戻ることにする。


 外に出ると僅かに赤みがかった夕暮れ空を雲がゆっくりと流れていく。


 長く教会に居たんだなと改めて感じた。


「まさかの夕暮れかよ。しゃあねぇ。みんなで食材を買って夕食にするか」


「マスター! お野菜は昨日食べたから、お肉食べたい」


「ホタル! ボクも魚か肉がいいぞ!」

「そうだぞ! オイラは米も食べたいぞ!」


 賑やかな返事が返されて、軽く笑うと、モモがニヤついた表情で俺の顔を見てくる。


「なんか、本当に賑やかになったッスね。ただ、少し寂しいって感じちゃうッスよ……」


 寂しい? 賑やかなのに寂しいってなんだよ……


「俺は賑やかで何よりだし。モモがいるから毎日明るく楽しいぞ? 寂しいって感じさせて悪いと思うが、この世界に一緒に来てくれて心から感謝してる。ありがとうな」


「はぁ、しょうがない先輩ッスね。本当にモモがいないとダメダメな先輩なんッスから」


 俺達は夕暮れの街で買い物を済ませて帰宅する。


 ただ、女神ネーメの「条件が整った」ってのが、本当に意味わからねぇな。

お読みいただきありがとうございます!

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