67話
目の前に立ってみて改めて見上げる教会は大きい。
街の中でも背の高い建物ってやつはいくらでも存在する。ただ、違うんだよな。
何が違うかと言われれば、単純に俺みたいな奴が近寄りたくない雰囲気っていうのか?
学校なんかで例えるなら、校長室とか、職員室みたいなもんだ。
普通に存在するのに、目の前を通っても関わりたくないし、なんなら俺は、入りたいなんて気持ちには絶対にならない。
そんな感覚を何倍にもしたような厳かな雰囲気と神聖ですって雰囲気が混ざりあったのが目の前に立っている教会だと素直に思う。
「改めて思うッスが、近くで見ると……先輩とは無縁の場所ッスね……懺悔する姿しか思い浮かばないッスよ」
「安心しろ。懺悔以外にも、お前が結婚する際には、教会に来るだろうからな」
次の瞬間、俺の背後から、全力で地面を蹴り、飛び上がったモモが、首筋に目掛けて強烈なモンゴリアンチョップを放ってきた。
「ぐあっ!」
「先輩! 本当に、デリカシーが足りてないんッスよ! いきなり……あぁ! 早く中を見るッス」
何がなんだか分からないまま、教会に向かって歩いていくモモの後ろ姿。
本当になんなんだよ。ったく。
そうして、扉に手を掛けた瞬間、なんとも口にしづらい感覚が全身を駆け抜ける。
言葉として例えるなら、身体の中心から波紋が広がるような感覚だった。
むしろ、そうとしか表現できないのが歯痒くすら感じる。
その感覚は俺以外の全員にあったのかもしれない。
モモは自分の両手を確認するように開いたり閉じたりしてる。
ドレイク達は周りをキョロキョロとしながら落ち着かない様子だった。
ただ、そんな俺達の様子を後ろから見ていたおばちゃんから「あんたら、止まってたら中に入れないだろう?」と言われてしまった。
軽く謝罪をしてから、俺達は教会の中へと足を進める。
教会の中に入るとシスターってやつだろうか? 黒い生地に白い布が着いた服を身に纏った女性から声を掛けられた。
「初めましてですよね。ようこそいらっしゃいました。本日はどのような御用でしょうか」
可愛らしい笑顔のシスターを見て、俺は同い年くらいのモモに視線を一瞬向ける。
性格や態度、すべてが人なんだから違うのは当然だと、頭では理解しているが、それでも不公平なくらいに成長している部分としていない部分がはっきりと見て取れた。
「先輩……知ってるッスか? 男のチラ見は、女のガン見なんッスよ……」
それが教会で聞いた最初のモモのセリフであり、次の瞬間、モモから拳が放たれる。
俺はその凄まじい拳を片手でガードしてやる。しかし、片方の腕が俺の顎へ、真下から勢いよく放たれると鈍い痛みが走り視界が回る。
「なぁ……」
「先輩……モモはスレンダーなナイスボディなだけッス……」
怒りに満ちたモモは、般若のような顔で笑っていた。
意識がブラックアウトしたと思った次の瞬間、眩い光が閉じた瞼の上から降り注ぐ。
後頭部に触れる柔い感覚と柔軟剤を何倍もいい香りにしたような優しい香りが俺の意識を呼び起こしていく。
「うぅぅぅ」
「目が覚めましたか?」
聞き馴染みのない声に俺はそのまま寝ていたい気持ちを振り払い、ゆっくりと目を開く。
視界に広がったのは、俺を上から眺める見慣れない女性が視界に映る。
「アンタは……」
「あ、初めましてでしたよね。ずっと挨拶をしたかったんですけど、世界のルールでコチラからは、軽はずみな行動が取れなくてですねぇ」
なんか、ルールとか言ってるが……教会ってやつは、なんで規則が厳しいんだかなぁ。
額に手を伸ばそうとした俺の手は、無駄に柔らかい何かに触れる。
それが何なのかは、流石の俺でも容易に想像ができた。
「あ、あの……さすがに、それは……」
恥ずかしそうな声が耳に届く前に、手を退かすと俺は慌てて飛び起きる。
それがダメだった……勢いよく起き上がった結果、俺と声の主は綺麗にデコをぶつける。
そうして、俺は最悪な形での目覚めからの謝罪をすることになってしまった。
「本当にすまない!」
「あはは、大丈夫ですよ。これでも石頭ですからね。それより、本当によく来てくれましたね。今回は、色々な世界の女神様が動いてくれたお陰で嬉しい事ばかりです」
全身白一色の服装をした長い髪の女性が笑って見せる。
「あ、あの……アンタはいったい?」
「あ、自己紹介がまだでしたねぇ! 私はこの世界の管理者を任された女神ネーメです。ネーメちゃんって呼んでもいいですよぅ」
明るい声で笑う自称女神を前に俺は反応に困ってしまった。
実際に女神と話せたらって思ってたが、女神だと口にする女を前にした途端、返事が出来なくなっている。
「あらあら? 固まってフリーズですかねぇ?」
俺の前まで歩いてきた自称女神のネーメ、次の瞬間、俺の手が引き寄せられると、柔らかい2つの果実に頭を包まれていた。
「ぬわぁ!」
馬鹿みたいな声が口から飛び出すと同時に俺は自称女神……いや、ガチ女神から距離を取る。
「何してんだよ!」
「え、女神ですから。フリーズしたなら、起動させてあげないとですからね。それが私の役目なんですよ」
さも当然と言わんばかりに胸を張るガチ女神。
俺はそんなガチ女神から目線を逸らす。
「なんで、目を見て話してくれないんですか! 私ってば、何か悪いことをしましたか?」
「いや、アンタは悪くない……それより話を進めたいから、何か上から羽織ってくれ、その……薄着だと、目のやり場に困るんだよ」
一言で言えば、刺激的すぎんだよ! わかるか! こっちの世界に飛ばされてから、色々と我慢して生きてんだよ! 女神なら察しろよ!
などと言えたら、楽だが……初めて会ったガチ女神を前に罰当り極まれりって自分の思考が悲しくなるな。
不思議そうに俺を見つめるガチ女神のネーメだったが、首を傾げながら、自身の身体を確認すると、何かを理解したように両手をパンと合わせる。
小さな音がしたと思った瞬間、美しいガチ女神の身体が輝き、光のベールに包まれる。
眩しすぎて、目をつぶってしまう程だった。
光が収まると、美人のガチ女神は、少年の姿に変わっていた。
「ごめんね。膝枕は女の子の方が嬉しいかなって思ってたんだけど、こっちの方が話しやすいとは思わなかったよ」
「お前、さっきの女神なのか?」
「そうだよ。女神なのに、男の娘なんて、すごく素敵だと思わないかい!」
勘違いだった。ガチ女神じゃねぇ……単なるヤバい奴だ。
「はぁ……とりあえず女神でいいか?」
「だから、ネーメちゃんだってば!」
やり取りに疲れそうな為、俺は深呼吸を済ませて、煙草に火をつける。
「もう、いきなり火をつけるなんて! キミは悪い子だよ。ホタル君! はい、灰皿。まったくもう!」
煙草はいいのかよ……
とにかく、一服を済ませたことで、俺は落ち着けた。
ここからが本題だが、マジに女神が男の娘って、この世界、大丈夫なのか。
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